《第十二話 同じ映画を観ていたということさ》
「そうそう、たまたま入った喫茶店に、たまたま同じ大学に通う真神くんに会ってさぁ。エヘヘ、そこでたまたま意気投合しちゃって、ねぇ?真神くん?」
「お、おう、そうだな」
スヤサキ、そういう感じで行くのか?わかった。乗っかっていこう。
「そうか、俺も最近は喫茶ペンブロークに寄ってないから、今度顔を出すよ。あそこのコーヒーは確かに美味かった」
「おう、そうだろ?いつでも待ってるよ」
「ところで意気投合って、何が意気投合したんだ?」
まぁ、そうきますよね。俺とスヤサキがいったいどんなことで、意気投合したのかを聞きますよね。
「そ…それはその…」
痛いところを疲れたような顔をするスヤサキ。
やばいな。こういう時スヤサキの秘密をどうごまかすか、まだ話し合っていないぞ。てかそんな暇なくスヤサキが見切り発車しやがったんだが。
実はペンブロークでスヤサキと会っていたのは、昨日のことなのだ。
言葉につまるスヤサキに、「どうしたんだ?」と首を傾げる傑。
「じ、実は、一緒に見ていた映画の話で、盛り上がったんだよ」
「一緒に映画?お前らが?いつから一緒に映画に行く仲になったんだ?それにさっき喫茶ペンブロークでたまたま会ったって言ったよな?」
「ふぇ!?」
矛盾点を突かれたスヤサキから、変な声が出てしまった。
「あ!いや、そうじゃなくて傑、たまたま同じ映画館で同じ映画を同じ時間に観ていたことをさ、ペンブロークで会ったときにそうだったってお互いに気づいて意気投合したんだよ。そうだよなあ、スヤサキ?」
「う、うんそうだったかな」
「へぇ、そんな偶然もあるんだな。どんな映画を観たんだ?タイトルは?」
一緒に映画を観たことは、なんとか誤魔化せた。
でもやはり、その質問も来るよね。わかっていた。
ここは俺が勝手に決めさせてもらうことにした。最近上映している映画は…
「シャーロック・ホームズだ」
「「え?」」
二人は、同時に驚いた声をあげた。
スヤサキ、お前は驚くんじゃない!
「え?なんでスヤサキまで驚いてんだ?」
ほら!突っ込まれた。
「え!?い、いや、なんでもないよ。そ、そう、シャーロック・ホームズ。シャーロック・ホームズを観たんだよ。アハハハ」
「ふ~ん。そうか」少しだけ怪しむ傑だが、追求はして来なかった。
映画「シャーロック・ホームズ」とは、言わずとしれたイギリスの小説家、
アーサー・コナン・ドイルの推理小説を映画化したもの。
「それって今話題の?」
「そうそう。シャーロック・ホームズといえば推理だけど、今回も前作と同じでアクションが良かったな。特に…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!陽太。俺はまだ観てないんだよ。頼む、ネタバレは無しにしてくれ」
危うく俺が、映画の内容を話してしまうところを傑は慌てて制止した。
「あっ!悪い。勢い余って言うところだった。傑はまだ観てなかったんだな?」
「そうなんだよ。最近忙しくてさぁ、映画館に行く時間も取れないよ」
「宇賀野君は、このゴールデン・ウィークは何かしてたの?」
「ん?ああ、ちょっと家の用事でな京都の実家に帰ってたんだ」
「へぇ、宇賀野君は京都出身だったんだね。意外だね」
「ああ、よく言われるよ。喋りも訛ってないからな」
「そうか、それだよね。訛が全然ないよね」
「京都出身と言っても赤ん坊の頃だけだったから、全く京都弁は喋れないんだよな」
「なんだ、そうなんだ。少し残念」
わかるよ、スヤサキ。なんか関西弁キャラってテンション上がるよな。
俺も出会った頃に「関西弁、喋ってみて」と頼んだことがあったが、
喋れないと聞いて、少しガッカリしたものだ。
「ハハ、なんだよ、残念って」
言われなれてるのか、傑は笑いながら応えた。
「まぁ、そういうわけだから俺が観るまで感想戦は待っててくれ。
あ!そうだ!それだったら、今度三人で一緒に観に行かないか?」
「俺はいいけどスヤサキはどうする?」
「ボクもOKだよ。いつにする、宇賀野君?」
「俺が決めていいのか?」
傑は俺とスヤサキの顔を見て言う。
「そうだな、俺も傑の予定に合わせたほうがいいと思うな」
「わかった。スケジュールはまた今度連絡するよ」
「ああ、わかった」
「そうだ、スヤサキ。連絡先を交換しようぜ」
傑が自分のスマホを取り出し、青色のSNS「YOINE」のアイコンをタップした。
「うん、わかったかな。ちょっと待ってて」
スヤサキは自分のトートバッグからスマホを取り出し、傑のスマホに近づける。
「よ〜し、スヤサキの連絡先ゲット〜今から陽太も加えたグループを作るからな」
スパパっと華麗にスマホを操作し出す傑。すぐに俺とスヤサキのスマホが、ブルッと震えて通知が来た。
[よろしくな、スヤサキ]
[よろしくかな、宇賀野君、真神君]
[ありがとう、傑]
俺たちは、そのまま三人で一緒に昼食を食べることにした。
昼食を終えると、スヤサキは演技コースの授業に向かうため先に席を離れた。
「またね、真神君、宇賀野君」
「おう、またな」
「じゃねぇ〜」
「傑はこの後は帰りか?」
「いや、まだ受けてない授業があるから」
「OK。それじゃここでお別れだな」
「ああ、また明日な」
俺も醤油ラーメンを食べ終え、傑と別れた。
醤油ラーメンの味はまぁまぁだったが、餃子は美味かった。




