《第九話 暁公園》
暁公園。
公園内には桜並木が並ぶジョギングコースがあり、今の時期は桜が満開だ。
ここの桜並木を目当てに花見客が大勢集まるのだ。
つい先日もマスターの家族と喫茶ペンブロークのメンバーでここの公園で花見をしたばかりだ。
この桜の満開の時期は近くの商店街から簡易的なお店が出ている。
出店しているお店は、焼きそば、焼き鳥、たこ焼き、イカ焼き、お好み焼き、焼きとうもろこし、じゃがバター、フランクフルトと充実している。
マスターも来年は何か出店できないかと思案中だ。
もしかしたら、来年は「喫茶ペングローブ」で何か屋台を出してるかもしれない。
公園の中に入ると花見客でいっぱいだ。結構な数の人で賑わっている。
この中からスヤサキを探すのは骨が折れそうだ。
幸いスヤサキの今日の格好は目立つから大丈夫だろうが、この公園で会えなかったらもう全く居場所の検討がつかない。
俺はすれ違う人々の中にスヤサキがいないか見逃さないように慎重に探し回る。ただなぜか、すれ違う人々が俺の顔を見るやいなや気まずそうに顔を背ける。
公園の中央の場所まで着いた。そこには簡易的にステージが作られていて、
「町内のど自慢大会!〜私の歌をきけ!〜」が開催されていた。
こんな催しやっていたのか、なになに?おっ!今日だけのイベントなのか。
今は見ている暇はないのだが、少し気になってしまったので覗いてみることにした。
ステージでは今、幼稚園児くらいの少女が「犬のおまわりさん」を披露していた。
歌い終えたら少女は頭をペコリ。
観客は皆笑顔で拍手する和やかムードだった。
少女の出番が終わった後、司会者が「続いてのチャレンジャーは飛び入りでエントリーしてくれたこちらの美少女です!」
ツカツカと底の暑いストラップシューズの音を立てて登場すると、
「おお!!」「うわ〜綺麗〜」「マジ可愛い〜」など観客達が少し湧き始めた。
少女の次にステージに立ったのは、どこかで見たことあるような黒を貴重としたゴスロリ衣装の女の子。
顔なんかもさっき見たような美少女の顔だ。
ゴスロリ美少女がステージの中央に立ち止まるとバックバンドが演奏を始めだし、ゴスロリ美少女は歌い始める。
歌も上手い。
歌っているときの動きもプロのアーティストのような動きで、観客たちは大盛りあがりだ。
心なしかバックバンドもノリに乗っているようにみえる。
皆がゴスロリ少女に注目している。
俺も注目している。
そして心の中でこう叫んでいる。
スヤサキィィィィ!???何やってんのぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!?
そこには俺が探し求めていた人物「須夜崎夜空」がステージで歌を歌っていた。
のど自慢大会が終わり、スヤサキはちゃっかり優勝してステージから降りてきた。俺はその後ろ姿に声をかける。
「おい、スヤサキ」
振り返るゴスロリ美少女は俺の顔を見て微笑みながら
「あれ?真神くん。こんなところで何やってるのかな?一人で花見?寂しいくないの?それになんだか顔が怖いよ」
なんか失礼なこと言われた。
「一人で来るわけ無いだろ」
「そうなの?あ! わかった、公園で散歩だね」
「それも違う」
「そうなの?うーんじゃあ何しに来たのかな?」
「スヤサキを探していたんだよ」
「ボクを?どうして?」
スヤサキはなんのことだかさっぱりっといったような顔をする。
「スヤサキ、何か大事なこと忘れてないか?」
「忘れてること〜?」
下唇に人差し指をつけて「?」を浮かべるスヤサキ。
「俺に何か渡すものとかないか?」
「う〜ん、う〜〜〜ん…あ!」
何かに気付いてガサゴソと鞄をあさり始めるスヤサキ。
「あ!これだぁ!!」
鞄から取り出したのはアパートの鍵、俺が「喫茶ペンブローク」で忘れた家の鍵だ。
「ご、ごめん真神くん。キミがこの鍵をお店に忘れて帰っていちゃったから、ボクが届けてあげようと思ってマスターからキミの家の住所を聞いて向かっていたんだった」
「それで俺のアパートに行く途中にこの公園に寄ってしまったと、ついでにのど自慢にも出てしまったと」
「うんうん。キミの家に向かう途中に、こののど自慢のチラシを配っている人に「出てみない?」って言われてそのまま出ちゃった。すっかりキミの家の鍵のこと忘れてしまっていたよ」
頼むぜ〜こっちは家に入れなくなるところだったよ。まったく…
でも鍵を忘れたのは自業自得だし、親切にもそれを届けてくれようとしたスヤサキには感謝しなくちゃな。
「まぁなんだ、こうやって無事に会えたし、鍵も戻ってきたから安心したよ。ありがとうな、スヤサキ」
「うん、どういたしまして」
「それじゃあ、鍵を渡してくれ」と俺は右手を差し出した。
「……う〜ん。それなんだけど、キミの家まで行く途中で良いことを思いついてしまったんだけど」
スヤサキは新しいイタズラを思いついた子供のような表情で俺を見つめてくる。
そして、俺の背後に回り、そこで止まった。
俺は嫌な予感がして、スヤサキの方を振り返った。




