《第六話 ゴスロリ美少女のお願い》
「ありがとうスヤサキ。俺も実はお腹が空いてたんだ」
「そうでしょ。こんな美味しい料理を目の前にして、カレーライス一品だけ食べるなんてどうかしてるかな」
美味しいのはわかるが、一食にカレーライスは普通だと思う。
だが、食の女神様にとってはそうではないらしい。
そして育ち盛りの俺もその意見に賛成だ。
やっぱり貧乏大学生は常にお腹が空いている。
外で食べる料理なんて、またいつ食べに来れるかわからない。
「真神くん、他には何か食べたいものはないかな?」
「いや、流石に充分だよ。ありがとう」
スヤサキは「そう?いっぱい食べそうなのに。お金のことだったら気にせず、まだまだ頼んでもいいんだよ」とカレーを頬張りながら言った。
やはりスヤサキはお金持ちの家の子供なのかな?凄いお金使うなぁ。
「俺からしてみれば、スヤサキの方が見た目に反して、よく食べるんだなって思ったよ」
「えへへ、食べるの好きなんだ〜」
スヤサキの意外な一面を知れた。これまでお互い全く面識は無かったが、有名人の秘密を自分だけが知った感覚になって少し鼻が高い。
大学でのスヤサキは、女子の取り巻きに囲まれて行動しているのを、よく見かける。とても声をかけづらいのだ。
「スヤサキは一日何食なんだ?」
「普通だよ。一日三食かな」
「一食の量は?」
「う〜ん…これの三倍かな?」
俺は思わず、ヤバっ!という顔になる。
「うふふ、冗談だよ。」
驚く顔をする俺を見て、いたずらに笑う。
「学食とかでもそんなに食べるのか?」
「ううん、学食では周りの皆に合わせて普通の量だよ。プライベートの時はいっぱい食べてるかな」
スヤサキはカレーライスを食べ終わった。まずは一皿目完食。
「スヤサキは本当に食べるの好きなんだな。自炊はするのか?」
「そうだね。作るのも好きだよ。ボク、料理が趣味でもあるんだ。でも動画配信で忙しくなっちゃって最近は全然できてないよ」
「毎日忙しいんだな」
「動画配信者は忙しいんだよ。特にボクは個人で配信してるから、一人で配信して、一人で動画編集して、大変だよぉ〜」
動画配信の準備の為、趣味である料理する時間さえも削っているのか。
真剣に配信活動をしているんだな。
「それだったら、動画編集を出来るやつを雇えばいいのでは?」
「まぁ、そうなんだけど……」
なんだか歯切れの悪い感じの返答をする。そして続けて、
「実は今日ここへキミを呼び出したのは、あるお願いをするためなんだ……言ってもいいかな?」
「あるお願い?」
何のお願いだろうか?俺は動画編集なんてやったことないぞ。興味はあるが。
顔を赤らめながらスヤサキは猫のように両腕を膝の上にまっすぐ伸ばして言った。
「ボッ…ボクの格好って、どうかな?」
「へ?」
「ボクのこの格好…似合っているかな?」
「え!?まぁ…似合っているんじゃないかな、うん、凄く似合っているよ」
「えへへ、そうかな」
顔を赤らめながら、視線をそらし、どこか嬉しそうにはにかんでいるようにも見える。
「ところでスヤサキ、あるお願いってのはいったい何なんだ?」
「あっ!そ、そうだね。お願いごとだよね、うん。…それはだね…」
「うん、それは?」
ごくりッと唾を飲み込むスヤサキ。
「キミはボクの秘密を知っているよね?」
「秘密?」
スヤサキの秘密と言われれば、俺が思いつくものは一つくらいしかない。
「この前のこと…だよな?」
「うん。まさかあんな所で、あんな形で、ボクの秘密を知られてしまうなんて…うぐぅ…」
この前のことを思い出したのか、スヤサキの顔が耳まで真っ赤になっていく。
「確かにあの時は驚いた。まさかあのスヤサキ君が女装して、アイドルやってるなんてな」
「へ?」
「へ?ってスヤサキの秘密って女装趣味のことだろ?」
「……」
「……違った?」
「あ、ああ!そうだよ、そう!ボクの秘密は女装なんだよ!うん、それだ女装だ!いやぁ〜あの時は焦ったな〜、まさか同じ大学の人に見られるなんて思わなくて、ハハハ」
「もしかして他にも秘密があるのか?」
「い、いいや!、そ、そんなわけないよ!ボ、ボクの秘密は女装してアイドルしているだけだよ、うん」
若干、焦り気味に弁明しているようにも見えるのだが?どうやらスヤサキの秘密は「女装をしていること」のようだ。
なんだろう?まだ隠していることがありそうだけど無理に聞き出すのも野暮だよな。
「ふぅ」とスヤサキは一息ついた後、姿勢を正して聞いてきた。
「改めてキミにお願いしたいことは、ボクの女装趣味を誰にも言わないことと…
ボクのアイドル活動のマネージャーになって欲しいんだ」
「え?マネージャー?」予想だにしない提案に驚く俺にスヤサキは続ける。
「み、身勝手なお願いを、しているのは分かったいるけど、ど、どうにかお願いできないかな?」
女装趣味のことを黙って欲しいだけかと思っていたけど、まさかアイドルのマネージャーを頼まれるとは思ってもいなかった。




