《第九話 めんどくせぇ奴らに絡まれてしまったな》
「おい!お嬢ちゃんよ?どこ見て歩いてんだよ」
「あ、あの…ボク…おとこ…」
「ああ!?」
「ひぃぃ!」
男性に凄まれてスヤサキは怯えている。スヤサキ、お前が悪いんだがここは助けてやろう。
「あの〜すいません俺の友達がぶつかってしまって、本当に申し訳ありません」俺はスヤサキを睨みつける男性に頭を下げた。
「すいませんじゃねぇよ。痛えじゃねえか!このボケェが!肩が外れてるかもしれねえなぁ?どうしてくれるんだよぉ!おい!」
男性は俺の謝罪をそう簡単には受け入れず、俺に食いかかってきた。
おっと?これはまずいな。当たり屋ってやつか?
俺より背が低い男性は俺を見上げて唾を飛ばすほど食いかかってきた。
「どうしたんだよケンちゃん?」
男性の後ろからまた別の男性が声をかけてきた。どうやら連れのようだ。
そしてこの俺より背の低い金髪頭の名前はケンちゃんっていうんだ。へぇ〜。
「おお、リュウ。こいつらがよう。俺にぶつかって謝りもしねえんだ」
「いや、俺たちは謝って…」
てかもう一人はリュウかよ。路上で喧嘩しちゃう人たちかよ。
「なんだとぉ!?大丈夫かよケンちゃん?ケンちゃんは肩外れやすいからなぁ〜これは病院行かなきゃなぁ」
クソッ!完璧に当たり屋だ、こいつら。めんどくせぇ奴らに絡まれてしまったな。棒読みだし。
「おう、そうだな。念の為病院に行ったほうが良いかもしれねぇな。さすがリュウだぜ」
「あたぼうよ、ケンちゃん。そんでもって病院代はこいつらに払ってもらおう」
「天才だな!リュウ!お前がいてくれて良かったぜ。危うく自腹で病院代を払うところだったぜ。お嬢ちゃん金は持ってるんだろうな?持ってなかったら別の方法で払ってもらっても良いんだけどな、へへへ」
「ひぃぃ!」スヤサキは恐怖で小さく悲鳴をあげた。
スヤサキの露出した生足を舐めるように見つめるケンちゃんは舌なめずりをしながらそんなことを言った。ケンちゃん、ゲスである。しかもスヤサキを女の子と勘違いしている脳みそをち◯こに支配されているようだ。俺はスヤサキを隠すように前に出た。
「おお!?な、なんだ、てめぇ。や、やんのか?」
急に目の前に俺の顔が現れて、少しビビるケンちゃん。
「おい、ケンちゃんをいじめる気かよ、てめぇ!」
そこにリュウが後ろから野太い声をかけてきた。
「下がってろ、ケンちゃん。こいつ生意気な顔をしてるから懲らしめてやる」
「おう、任せたぜリュウ。俺は今、肩が外れちまってるかもしれないからなぁ〜。手は出さないでいてやるよ。へへへ、感謝しろよ兄ちゃん〜」
俺とケンちゃんの間に割って入ってきたリュウの体は、なんと俺よりデカい体の持ち主だ。黒のタンクトップから剥き出されている両腕は血管が浮き出てピクピクしている。肩はメロンが乗っかってるかのように丸く盛り上がっている。もちろん大胸筋もパンプアップ済み。よく見ると心なしか汗ばんでいる。さっきまでプッシュアップしてた?
俺もそこそこデカい体を有しているものの、俺よりデカいやつを見るのは久しぶりだ。しかもこんなに近くで対面すると山のような壮大さに圧倒される。
クソッ!デケぇなぁこいつ。まるで子供の頃に見ていた親父を見るようだ。
いや、親父の方がもっとデカくて怖く感じたな。
「フッ…」俺はそんなことを思い出して、思わず吹き出した。
「あぁ!てめぇ!何笑ってやがんだ!!!なめてんのか!!!!」
怒りを露わにしたリュウが俺の胸ぐらを掴み、怒号を浴びせた。しかし俺の体は胸ぐらを掴まれた瞬間!胸ぐらを掴んでいるリュウの左手を取り、外側にひねって小手返しを食らわせた。
「ほ?ほぉおあああ!!!??ギャァァァァスゥっ!!」間抜けな声をあげながらリュウは受け身も取れず地面に倒れた。
俺はさらにリュウの腕を逆にひねり、うつ伏せの状態にして動けないようにリュウの体に片膝をつけて動きを封じた。
「痛てぇ!!痛てててて!!!!」
あまりのも一瞬の出来事に後ろに隠れていたスヤサキはまた尻もちをついた。口を開けたまま呆けてる。
「リュウ!!!??」
しまった。まだケンちゃんがいたんだ。今こいつから手を離すわけにはいかない。でもケンちゃんが襲いかかってきたらこいつの拘束を離してケンちゃんの攻撃に対応するか?いやいや、拘束したままケンちゃんからの攻撃を食らうしかない。後ろにスヤサキがいる以上こいつを離すわけにはいかないだろう。
おい!そこを動くなよケンちゃん!!!こいつの腕を折るぞ!!と心の中で俺は叫んだ。
「うぅぅぅぅ!!!!グルルルルゥゥゥッ!」
俺は力の限りケンちゃんを睨みつけて、歯をむき出しにして威嚇した。
「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!」
でもそれだけでも効果があったようでケンちゃんは小者のような悲鳴を上げて、脚を震わせた。そして立ったまま動かない。こういう時はこの目つきの悪い顔が役に立つ。
「痛てぇ〜よ〜ケンちゃ〜ん。助けてくれ〜」
俺に拘束されているリュウは半泣きになり、立ったまま動かない相棒に助けを呼ぶ。
「ハッ!?こ、この野郎…今助けてやるからなリュウ!」
怯んで動けなくなっていたケンちゃんが、相棒の助けを呼ぶ声に我に返ったように目に力が戻った。やにわに右手を後ろに持って行くケンちゃん。取り出したのは刀身が銀色に光る折りたたみナイフだった。
「っ!?」
急に危険度が跳ね上がった状況に俺の心臓の鼓動がバクバクと早鐘を打つ。後ろのスヤサキも足がすくんで動けないようだ。
まずいぞ!やっぱりリュウの拘束を解いて、ケンちゃんの方を取り押さえるか?いや、それよりもスヤサキを担いで逃げるか?額から一気に汗が吹き出した。嫌な汗だ。ど、どうする?
「おまわりさぁ〜〜ん!!!あそこです!あそこで二人組の男が女の子を襲っています!」
俺が躊躇して動けなくなっているところにどこからか聞いたことがある声が聞こえてきた。




