《第六話 モテる男が許せない!》
スーツのお姉さんはスヤサキを車の後部座席に乗せて、俺に会釈をしてから運転席に乗り込んだ。後部座席の窓が開き、スヤサキが顔を見せた。
「それじゃあここでお別れだね」
「ああ、今日は怪我させちまってごめんな」
「ううん、ボクも不注意だった。でも助けに来てくれて嬉しかった」
「そう言ってくれると助かるよ」
「ねぇ?やっぱり双子コーデやらない?」
うるっとした瞳で見つめてくるスヤサキ。やめろよ〜その目は〜。怪我をさせた負い目のある俺の心にそれは耐えられない。
「わかった…カラーだけな。全く一緒なのは無理だぞ」
「やったぁ!それでも嬉しいよ。やっとボクに懐いてくれた」
何だよその人を野良猫みたいに。猫はお前だろ、スヤサキ?
「何言ってんだよ」
「アハハ、じゃあね〜」スヤサキは手を振り、
「ああ、またな」と俺は手を振り返した。
「出します」とスーツのお姉さんは一言発し、車を発進させた。
スヤサキに合わせて服を用意しなくちゃいけなくなったな。
ベージュの服なんて持ってたかな?
俺はアパートに帰る前にオニクロに寄ることにした。ちょうど良い値段のものがあればいいのだが。
今日は休日。朝から雨が降りジメジメとしていた。梅雨はもう終わったものかと思っていたが、忘れた頃に雨が降る。海の日も近づき、晴れる日が続く本格的な夏が始まる前の最後の雨だろうか?
雨の音に耳を傾けていると机で充電中のスマホが振動した。
『はい、もしもし?』
『もしもし、ボクだよ』
スヤサキが電話をかけてきた。
『どうした?』
『ふふふ、どうせなら一緒に行こうよ』
『ああ、まぁ別に良いけど。どこで待ち合わせするんだ?』
『ふっふっふ。実はねもうキミのアパートの入口にいるの』
こわっ!?なに?そのメリーさんみたいなことやってんの?
俺が玄関を出て外を確認したら、雨の中で灰色の傘をさしてこっちに手を降るスヤサキがいた。
「あ!真神く〜ん。おはよ〜」
スヤサキは屈託のない笑顔で元気に手を振っている。足の怪我はもう大丈夫なのだろうか?
「待ってろ!今行く」
「いや!悪いけどお部屋にあがらせてもらえないかな?」
「え!?ああ、わかった」
「やったぁ!」
スヤサキは入口の近くにできた水たまりをピョンと飛び越えて、階段を駆け上がってきた。
「エヘヘ〜、来ちゃった」
ヤンデレ彼女みたいなことを言うな!
「来ちゃったって、傑と映画見るのはお昼の回のやつだぞ」
「わかってるよ〜」スヤサキは返事をしながら俺のアパートに入っていく。
「わかってるって今は朝の7時なんだが」
「そうだ!朝ご飯食べた?」
話聞けよ。てか冷蔵庫を勝手に開けるな。
「うーん。何も入ってないね〜」
「悪かったな。ちょうど切らしてるんだ。今日の帰りにスーパー寄って帰るつもりなんだ」
「ボク、朝ご飯食べてないんだ〜早めに出てどこかで朝ご飯食べて行こうよ。真神くん?」
「こんな早い時間に開いてる飲食店なんてあるのか」
「ファミレスがあるよ」
ああファミレスか。駅に行く途中にあったな。冷蔵庫には何も食べるものが入っていないしちょうどいいか。
「わかった。近くにファミレスあったからそこに行くか?」
「わーいやったぁ〜」スヤサキはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表す。二階何だからやめろ。
「じゃあ行くか」
「えっ!?その格好で行くの?」
「ああ」
「双子コーデは?合わせてくれるって」
「朝飯食いに行くだけだ。その後部屋に戻ってちゃんと着替えるつもりだ」
「ええ〜宇賀野君との待ち合わせまでお喋りしようよ〜」
「おい!5時間くらいファミレスに居座るつもりか!?」
「余裕だよ〜女の子なんてそれくらい居座るのなんてよくあるよ」
「あ!そっかそれなら構わないか…ってなるか!俺は女の子じゃないし、お前も女の子じゃないだろ?あ!あれか彼女とかの話してるから?俺に彼女が出来ないからってマウントとってるなぁ!?」
「ええ!?ち、違うよ!ボクは男だし、彼女もいないよ!勘違い勘違い」
「え!?そうなの?なんだ同志だったか。それはすまなかった。勝手に決めつけてしまった」
「うん、大丈夫だよ」
「でも何で女の子は5時間もファミレスに居座るって言うんだ?」
「それはボクが時々女の子たちとファミレスで食事するからかな」
「やっぱり女とファミレス行ってるじゃねぇか!!しかも『たち』!?『女の子たち』って言いましたよってあなたぁぁ!?」
「わわわ!もう!そんなことで怒らないでよ!真神くん!」
「そんなことで!!!?生まれてこの方、女の子と付き合ったことのない俺に!そんなこととはなんだ!!?」
俺はスヤサキの言葉に怒り心頭。許せない!モテる男が許せない!
「どーどーどー。落ち着いてよ真神くん。そんなに大声だすと隣の人がびっくりしちゃうよ」
スヤサキは暴れる馬を鎮めるかのように俺をなだめる。そんな生ぬるいなだめ方では俺の暴れ馬の怒りは収まらない。どうしてくれるのだ?俺はスヤサキを恨めしそうに睨んだ。
「そんな目で見ないでよ真神くん。キミがモテないのはボクにはどうしようもないかな」
「なんて辛辣なことを言うやつなんだ!お前は!?」




