06.強制的に結婚?
本当に、わけがわからない。
「は……、花嫁?」
「そう、花嫁」
この人(?)は、突然なにを言っているのだろう。
「ちょっと待って、私はここがどこかもわかっていなくて……! それに、あなたは一体誰!?」
「だから、俺は銀夜」
「……名前じゃなくて! あなた、人間じゃないでしょう……?」
「ああ」
「……私は、人間なの!!」
「知ってる。おまえは姫巫女だろう?」
「…………はい?」
ひめみこ?
私が、あの、姫巫女様?
この人は本当に、なにを言っているの……?
唐突すぎるし、脈絡がなさすぎてもう、なにから突っ込めばいいのかもわからない。
「……そんなわけないじゃない」
私の正面であぐらをかきながら、彼――銀夜は面倒そうに溜め息をついた。
溜め息をつきたいのはこっちなんですけど……。
「自覚がないのか」
「え?」
「おまえは姫巫女だぞ。その証拠に、さっきからぷんぷん匂ってる」
「え!? ……私、くさい?」
さっき走ったから。たくさん汗をかいたせい?
「そうじゃなくて――」
けれど、くんくんと自分の匂いを嗅ぐ私の反応を見て「あー」と言葉を詰まらせると、彼は面倒くさそうに頭をかいてから改まったように言った。
「俺たちあやかしは、姫巫女は匂いでわかる」
「あやかし……」
〝俺たちあやかし〟
確かに彼はそう言った。
やっぱり、彼は人ではない。
人ならざる者――〝あやかし〟なんだ。
「特に俺たち山犬は、鼻が利くからな」
「やまいぬ……」
山犬の、あやかし?
あやかしって、本当にいたのね……。
昔からそんな話を聞かされているとはいえ、さすがに信じられない。というか、信じたくない。
祖母から聞いていた話が本当だとしたら、私はあやかしが住む世界に来てしまったということになる。
でも、今目の前にいるこの男は確かに人間じゃない。
先ほどから犬耳がぴくぴく動いたり、しっぽがふぁさりと揺れたりしている。
……あれは作り物じゃない。本物だ。
「しかもおまえは怪我をしている。その血の匂い……それに、さっき傷を舐めて確信した。おまえは間違いなく姫巫女の血を受け継いでいる」
「…………そんな、」
くら……っと、目眩がした。
待って。お願い、ちょっと待って……。
色々言いたいことも聞きたいこともあるけれど、私の気持ちを置いて彼はぺらぺらと話し続けた。
「だから椛、おまえは俺の花嫁になるんだ」
「……どうしてそうなるのよ」
〝だから〟の意味がわからない。
っていうかなにもかも全然わからないけど、なんとかその質問だけは口にできた。
「俺が山神になるためだ」
「あなたが、山神様に……?」
「ああ」
うう……やっぱり駄目。頭が痛い。
彼の言っている意味は全然わからないけれど、何から聞いていいのかもわからない。
ただ彼は、その話をいたって真面目にしている様子。
「おまえと結ばれれば、俺は山神になれるんだ。そういうわけだから――」
「え?」
それでも聞かなければ。そう思い、痛む頭を押さえて話を整理していると、突然彼は私に手を伸ばしてきた。
「ちょ……ちょっと、何するの――」
肩をそっと押されて、私の身体はあっという間にその場に倒れる。
背中を支えられていたから痛くはなかったけど……そういう問題ではない。
私は今、この犬耳の男に押し倒されている。
「や、やめて……! いきなりそんなの……!」
「……」
慌てて声を上げるけど、正面からじっと真剣な瞳に見つめられ、なぜだかドキリと鼓動が跳ねた。
「……」
「……」
上から私を見下ろしている彼の顔が、すぐ目の前に迫る。
犬耳が生えているけれど、しっぽもあるけれど、この男、人間離れした、すごく綺麗な顔をしてる――。
「で、でも駄目……!!」
「……」
初めて感じる不思議な感覚に動揺していると、すぐそこまで迫っていた銀夜の顔がピタリと止まった。
「……?」
「……結ばれるって、どうすればいいんだ?」
「…………は?」
え……? 何、この人。わからないで言ってたの?
「と、とりあえず退いて……!」
変なことをされるわけではなさそう……?
そう安堵した私は、とりあえず銀夜の下から這い出ようとした。
「――銀夜、何をしているんだ」
そのとき。
はぁ……、という呆れたような深い溜め息が聞こえた直後、銀夜の身体がぐんっと後ろに引っ張られた。
「痛って……、玲生! いきなり何をする!」
「何かしているのはおまえのほうだろう? そのお嬢さんは困っているように見えたけど?」
〝玲生〟と呼ばれたその人が、銀夜の襟元を後ろから引っ張って、私からべりっと剥がしてくれたようだ。
「あ、あの……?」
「ごめんね、お嬢さん。こいつはこう見えて、悪い奴じゃないから」
「はあ……」
にこり、と優しげな笑顔を向けてくれたその玲生という人は、長い金髪を後ろで束ねている、とても美しい男性だった。
一瞬女性に見間違えてしまうほど、美形。
その笑顔があまりにも綺麗で、私は思わず頷いてしまう。
あれ? でも待って、この人――。
「……犬耳がない……しっぽも」
それに、怖い感じもしない。
この人はきっと、人間だわ……!
「膝を怪我しているね。その怪我は早く治療したほうがいい」
「それはそうだな」
「あの、ありがとうございます……! 私、気がついたら突然この場所に来ていて……!」
やっと話が通じそうな人に会えた。
その嬉しさに、私は堰を切ったように自分の状況を口にした。
「そうか、それは大変だったね。こっちにおいで。まずはその怪我を手当てするから」
「はい、ありがとうございます……!」
優しくそう言ってくれた玲生さんに、私は瞳にじんわりと涙を浮かべてそのあとについていった。
お読みくださいましてありがとうございます!
これまでとは毛色の違う作品ですが、
じれじれ、一途なヒーロー、溺愛、もふもふ有りの、あやかし和風ファンタジーです!(*´˘`*)
なろうでどれくらい需要があるかわかりませんが、頑張りますので「面白そう!頑張って!」などと思っていただけましたら、ぜひぜひブックマークや評価☆☆☆☆☆を押して応援してくださいますと嬉しいです!!( ;ᵕ;)
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