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32.銀夜、どうしたの?

 夢を見た。


〝もみじ――〟


 誰かが私の名前を呼んでいる夢。


 その男の人はとても美しい長い銀髪で、白っぽい着物を着ていた。


 とても愛おしそうに私の名前を呼んでいる。


 あなたは誰? 銀夜?


 ……違う、銀夜じゃない。でも、彼は――。



「――みじ、椛!」

「……ぎん、や?」

「よかった、目が覚めたか。……大丈夫か?」

「うん……私、眠っちゃってたんだ」

「お姉ちゃん……、よかった~!!」

「愛琉……」


 目が覚めたら、私は自分の部屋の布団の中にいた。


 簪で刺された太ももの傷は既に手当てされているようで包帯が巻かれているのがわかる。


 ……まさか銀夜、こんなところを舐めてはいないよね……?


 一瞬それを想像して身体が熱くなったけど、とにかく心配そうな顔をしているみんなに、笑顔を見せた。

 泣いている愛琉の隣には、宗ちゃんもいる。


「愛琉が銀夜に知らせてくれたの?」

「そうだよ……! お姉ちゃん、いきなり白い糸にぐるぐる巻きにされていなくなっちゃうんだもん……っ!」

「ありがとう」


 みんなの顔を見て私も安心したけれど……今の夢はなんだったんだろう。

 とても気になる夢だった。


「椛、本当に大丈夫?」

「うん、平気だよ。宗ちゃんも、怪我はない?」

「僕も大丈夫だよ、椛のおかげで。本当にありがとう」

「こいつから話は聞いた。おまえ、女郎蜘蛛を倒したんだって?」

「……うん」


 覚えてる。

 あのとき、私の中に姫巫女様が宿ったみたいな感覚になって、すらすらと言葉が出てきた。力が沸いて、溢れ出た。


「椛さんの力が覚醒したのかもしれないね」


 玲生さんの言葉に、銀夜が同意するように頷いて私を見つめた。


「……」


 そうなのかもしれない。


 それに、女郎蜘蛛は私が姫巫女様の生まれ代わりだと言っていた。

 銀夜は、どう思っているのだろう。


「とにかく、二人とも無事でよかった。今日はゆっくり身体を休めるといい」

「はい」


 銀夜は私になにか言いたげな視線を向けていたけれど、玲生さんの言葉を聞いて「そうだな」と呟いた。




「――椛、本当にありがとう」

「ううん。宗ちゃんが無事で本当によかった」


 その日は私も宗ちゃんもゆっくり休ませてもらうことにした。

 黄太君がお湯を沸かしてくれたからお風呂場に案内していたら、宗ちゃんが改まったように口を開いた。


「椛があんな力を使えるなんて驚いたよ。でもおかげで助かった。椛がいなかったら、僕は死んでいたから」


 宗ちゃんはそう言ってくれるけど、そもそも彼は私に巻き込まれてしまっただけ。


 そのせいでとても恐ろしい目に遭っていたと思うと、いたたまれない。


「……あのときは、本当にごめんなさい。宗ちゃんは囮になってくれたんでしょう?」

「僕は、椛が無事ならそれでいいんだ」

「宗ちゃん……」


 以前と変わらない笑顔を見せてくれる宗ちゃんに、胸が締めつけられる。

 あんなに恐ろしいあやかしと数日をともにしていたなんて……一体どれほどの恐怖を味わったことだろう。


「入るぞ」


 そんなことを考えていたら、脱衣所に銀夜が入ってきた。

 手に着物を持っている。


「おまえ、風呂から出たらこれを着ろ」

「これは……?」

「俺が子供の頃(・・・・)に着ていたものだ。俺には小さいが、おまえにはちょうどいいだろう」

「……」


 確かに銀夜は背が高いけど、今の言い方はなんだろう。


 じろじろと宗ちゃんの身体を上から下まで見て、はん、と嘲笑うように鼻で息を吐いているし。


 なんとなく、勝ち誇っているように見える。


「ありがとうございます。それじゃあ椛、また」

「うん。ゆっくり入ってきてね」


 宗ちゃんはそんな銀夜の態度を気にしていないようだけど。


「……」

「なに?」

「いや、別に」

「……?」


 脱衣所を出て銀夜と並んで歩いていた私だけど、彼からじっと注がれている視線に気づいて足を止めると、ふいっと顔を逸らされてしまった。


〝別に〟というわりには、むすっとしていて、明らかに不機嫌な気がする。


「なによ?」

「……よかったな、あいつが無事で」

「うん、本当によかった」

「……そのまま一緒に風呂に入って身体でも洗ってやるのかと思った」

「はぁ!? そんなわけないでしょう!? なに言ってんのよ……!!」


 ああ……そうか。銀夜は焼きもちを焼いたのね?

 宗ちゃんより年上だろうに、銀夜のほうが子供っぽく見える。


「銀夜も、来てくれてありがとう」

「当然だろ。それより、遅くなって悪かった」

「……ううん」


 内心で溜め息をつきつつお礼を伝えたら、不機嫌だったくせにそんなことを謝ってくれた。


 素直なのかそうじゃないのか……。

 でも銀夜のそういうところも、今では可愛く思えてしまった。




     *




 翌日、銀夜と玲生さんとともに庭に出て、私は姫巫女の力を発動させてみることにした。


「それじゃあ椛さん、やってみて」

「はい」


 目を閉じて意識を集中し、あのときの感覚を思い出す。


 あのときは、宗ちゃんを助けたいという一心の思いから、力が溢れ出た。


 姫巫女様が私に宿ったような感覚だったけど……あれはなんだったのだろう――。


「……本当だ」


 しばらくすると、心の声が漏れたように呟かれた玲生さんの言葉が聞こえ、目を開ける。


 首から提げている勾玉がふわりと浮いており、私の身体全体を淡く赤い光が包み込んでいた。


「椛……」


 それを見て、なぜか銀夜は切なげな視線を私に向けていた。

 力が覚醒して喜んでいるのとはなんとなく違うように見える。


 もしかして銀夜は、私を通して〝姫巫女様〟を見ている……?

 そんな気がした。


「……っ!」

「椛さん、大丈夫?」

「すみません……っ」


 けれど、突然ドクンと大きく鼓動が脈打ち、激しく呼吸が乱れた。

 少し力を解放しただけなのに、とても苦しい。


 ……どうしてだろう、昨日も気を失うように眠ってしまったけど、ここまで苦しくはなかった。

 無理に力を使おうとしたから?


「まだ完全に力を制御できてはいないようだね」

「……そうみたいです」

「だが間違いなく進歩している。焦らないで、またやってみよう」

「はい」

「……」


 玲生さんの言葉に頷いて力を抜いた私を、銀夜はなにか言いたげな顔で見つめていた。


「銀夜、どうかした?」

「いいや……。とにかく、よかった」

「……?」


 なにかを誤魔化されたような気がする。


 私たちはそのままそれぞれの部屋に戻ったけど、銀夜の態度が気になった。




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