22.気持ちだけなら既に
「――銀夜の手当て、終わったぞ」
「黄太君、ありがとう」
「銀夜の様子はどうだ?」
「よくはないな。相当出血したようだし……」
神妙な面持ちでやってきた黄太君は、狐の耳としっぽをしゅんと折り、考えるように顎に手を当てた。
「そう……」
「椛、おまえは大丈夫か?」
「うん、平気だよ」
「そうか、ちゃんと寝ろよ」
「うん。ありがとう、黄太君」
私と玲生さんの深刻な重い空気を察したのか、黄太君はそれだけ伝えると再びとてとてと足音を響かせながら部屋を出ていった。
六年前に家族が殺されてしまったのであれば、きっと黄太君はまだ生まれたばかりでとても幼かったはず。
もしかしたら覚えていないかもしれないけど……あんなに幼い子を残して亡くなった黄太君たちの両親も、きっと無念だっただろうな。
「黄太の言う通り、今日はゆっくり休んで。俺はあれから父にも負けないほどの力を付け、妖術を身に付けている。だから俺がここにいる間は強い結界の効果で鬼も迂闊に近づけないんだ」
「わかりました。ありがとうございます……」
それで、玲生さんの留守中に鬼がやってきたのね。
これからはこの勾玉の力も借りられるといいけど……。
「銀夜もきっと大丈夫。あやかしは人間よりも強いし、自己治癒力が高い」
「はい……」
「それじゃあ、おやすみ。椛さん」
「おやすみなさい」
玲生さんが出ていった後、私はおとなしく自室で布団に潜り込んだ。
でも、眠れる気がしない。
あんなことがあったのだから当然かもしれないけど、それより銀夜のことが気になって仕方ない。
「……やっぱり様子を見てこよう」
もう深夜を回っていたけれど、銀夜の姿を一目見ようと、私は彼の部屋を訪れた。
「……銀夜?」
きっと寝ているだろうと思いながら襖を開けると、布団の上で苦しそうに息をしている銀夜がいた。
「銀夜……! 大丈夫? 苦しいの!?」
「う……っ、うう……っ」
すぐに駆け寄り彼の手を握る。
目は閉じているけど、額には大粒の汗をかき、顔色も悪い。
左肩には黄太君が巻いてくれたと思しき包帯が巻かれていて、寝衣は大きくはだけている。
「身体中にも汗をかいている……大変、ひどい熱」
握った手も熱くて、高熱が出ていることがわかる。
私は急いで桶に水を汲んでくると、濡らした冷たい布で銀夜の汗を拭いた。
「銀夜……、大丈夫?」
「うう……っ」
フー、フー、と荒い呼吸を繰り返し、苦しそうに唸っている銀夜を前にしても、私は祈ることしかできない。
……神様お願いします、どうか銀夜を助けてください……!!
銀夜は家族や仲間が殺されてしまったのを見て、それでも玲生さんを助けて逃げた。
その判断は正しかったと思う。でも、どれほど悔しかっただろう。
銀夜の性格を考えると、尚更だ。
鬼が憎くて憎くてたまらないに決まってる。
それを想像するだけでも、私は泣きそうになった。
「一緒に鬼を封印するんでしょう? だからお願い、元気になって……」
「……っ」
気持ちだけなら、もう結ばれていると思う。
私も銀夜と同じくらい、鬼が憎いよ。許せないよ。
だから絶対封印してやろう?
苦しそうにしている銀夜の手を握って、私は一晩中祈った。