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21.銀夜の過去

 玲生さんが黄太君に目で合図を送ると、黄太君は頷いて銀夜の後を追った。


「……ところで椛さん、それは?」

「おばあちゃんにもらった、お守りです。さっきみたいに光ったのは初めてでした」

「そうか……。君を守ってくれたんだね」

「はい……」


 玲生さんに言われて、私はもう一度勾玉に目を向け、握りしめた。


 もしかしたら、さっきのを機に私の力が覚醒したのかもしれない。


「玲生さんも、あやかしだったんですね」

「ああ、俺と黄太は兄弟だよ」

「そうだったんですね」

「……そうか、椛さんは俺のことを人間だと思っていたんだね」

「はい」

「こんなところに普通の人間はいないよ。生きてはいけないからね」


 やっぱり、そうよね……。

 私が勝手に勘違いしていただけだけど、人間が私だけだというのはちょっと悲しい。


 それに、玲生さんの何気ない言葉が改めて私の胸に刺さった。


〝普通の人間は生きていけない〟


 ならば、やっぱり宗ちゃんはもう――。


「過去に何があったのか、私に話してもらえませんか?」

「……」

「さっきの男は、鬼ですよね? あいつが、山犬を殺したと言ってて……」

「少し冷えてきたね、中で話そう。それから君の傷も、念のため手当てしよう」

「はい」


 それを聞いてしまったことを伝えると、玲生さんは何かを考えるように一瞬目を伏せてから、私の首の傷に視線を向けた。




「――今からちょうど六年前だ。黒鬼丸(こっきまる)――あの鬼が封印を解いたのは。山神様の命が尽きて、五十年ほどが経っていた。異変をいち早く察知したのが山犬……銀夜の種族だった」


 私の手当てを終えると、玲生さんは静かに話し始めた。


 ――黒鬼丸は祠に封印されていた。


 それを見にいった山犬の当主――銀夜の父親たちは、復活した黒鬼丸に襲われ、命を奪われたのだそう。


 封印が解かれたとは思わず、油断したのだろう。

 山犬一族は今残っている銀夜たちを除いて、すべてあの男(・・・)によって殺された。


 次に駆けつけたのが妖狐である玲生さんの一族だった。

 妖狐は山犬より数が少なく、群れをなさないそうだ。

 玲生さんの父親は、黄太君を庇って致命傷を負ったらしい。


「それでも妖狐は、復活したばかりの鬼に負けるほど弱くはないが、鬼は山犬たちを――」

「……?」


 玲生さんはそこで一度言葉を止めた。


「玲生さん?」

「……山犬たちの力を摂取していたから」

「え……」


 摂取した――?


 玲生さんは言葉を濁して語ったけれど、それがどういう意味なのかは想像できた。


 ……酷い。なんて残酷なの。とても許せない。


「とにかく、妖狐の力のすべてをかけて黒鬼丸は倒した。……そう思ったのだが、あいつを完全に封じることはできていなかった」

「……」

「妖力を使い切っていた両親は殺され、俺も死ぬと思ったのだが、そこで駆けつけてきた銀夜が俺と黄太を助けてくれた。あいつは足が早いから、傷を負っていた黒鬼丸は追って来られなかったようだ」

「……」

「それから俺たちと銀夜は一緒にいる。椛さんの着物は、銀夜の母君の物だよ」

「そうだったんですね……」


 言葉が出ない。

 なんと言っていいのかわからない。

 家族や仲間を目の前で失ったなんて、平和な世界で生きてきた私の簡単な言葉で慰められるようなことではないから。


「だから俺も黄太も銀夜も……黒鬼丸をとても憎んでいる。一刻も早く再び封印しなければならないと思っている。だが、俺たちだけの力では鬼を封印することはできないんだ」

「……姫巫女()の力が、必要だということですね」

「ああ」


 よくわかった。銀夜が姫巫女様の血を継ぐ私を見つけて焦っていた気持ちも、思いも。


 いきなり花嫁にすると言われて戸惑ってしまったけれど、もし私が銀夜の立場でも、同じ思いになったはず。


 強引に攫ってでも、無理やりにでも、なんとしても姫巫女を自分のものにして、自らも山神様と呼ばれるほどの力を手に入れたいと思うはず――。


「過去の姫巫女様と山神様は、二人で力を合わせて鬼を封印したんですよね?」

「ああ」

「さっき、この勾玉が光ったとき。銀夜の宝玉が、まるで共鳴するように光ったんです」

「銀夜の宝玉は、山神様の宝玉だからね」

「え……?」


 山神様の宝玉が埋められた刀を、銀夜が持っているの?


「どうして……」

「山神様は、山犬の一族から誕生したんだ」

「……ええっ!? そうなんですか!?」


 そんなの初めて聞いた。

 山犬が山神様だったなんて――。


「それじゃあ、やっぱり次の山神様も山犬が? だから銀夜が山神様になると言ったんですか?」

「銀夜はそのつもりでいるのだろうが、姫巫女様と結ばれたのがたまたま山犬の当主だっただけで、姫巫女様と結ばれた結果、それほどの力を得たというだけだ」

「そうなんですね……」


 それじゃあ、もし私が玲生さんと結ばれたら、妖狐が山神様になるということ?


 ……玲生さんは、山神様になりたいとは思っていないのかしら。


 一瞬そんな疑問も浮かんだけれど、玲生さんを助けたのは、銀夜だったんだ。

 だから玲生さんは、銀夜が山神様になるということに異論はないのだと思う。


「結ばれるって、つまり好きになるということですよね? 姫巫女様と山神様は愛し合っていたと、私は聞いています」

「うん、俺はそうじゃないかと思ってる」

「……そう、ですよね」


 銀夜を……好きに……?

 

 今だって、別に嫌いじゃない。

 最初は怖かったし、意味がわからなかったけど……。でも、愛しているとまでは……。



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