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17.これが嫉妬なのか……?※銀夜視点

 今朝も玲生が料理してくれた朝食を囲んで一日が始まる。


 食事作りは椛も手伝ってくれるようになったが、昨夜は椛を晩酌に付き合わせたせいで、俺たちは二人揃って寝坊した。


 だが椛が寝坊するくらいゆっくり眠れたのなら、よかった。


 もう警戒心がなくなったらしい椛は素直に笑っていて、最初の頃の強ばった表情も見せなくなった。


 椛の笑った顔は、素直に可愛いと思った。



 早く椛と結ばれて、俺は山神になりたい。

 そして鬼を封印する――。


 そう焦ってしまっていたが、玲生にも「それは逆効果だ」と言われた。


 しかし、〝結ばれる〟とは、具体的に何をどうすればいいのかもわからない。


 身体の繋がりはものすごく嫌そうにしていた椛だが、だからといって心がすぐに繋がれるものかと言えば、そうではない。


 そもそも俺にはそんなことを言っている余裕はない。


 早く、早く鬼に仇を討ちたい……!


 玲生だって気持ちは同じはずだ。

 だが、だからこそ、玲生が「焦るな」と言うのなら、焦らないほうがいいのかもしれないとも思った。


 玲生は賢くて冷静だ。

 そんな玲生に俺()救われてきたのは、事実だ。


 だから俺も一旦冷静になり、夜中に酒を飲みながら縁側で月を眺めてこれからのことを考えていたら、椛も起きてきた。


 椛に耳を撫でられて気持ちよくなってしまった俺は、ついそのまま椛と縁側で寝てしまった。

 椛が風邪を引かないように、羽織をかけて、犬の姿になって、椛をあたためながら。


 椛とくっついていると気持ちがいいというか、心地がいいというか……。


 あれが、姫巫女の癒やしの力なのだろうか?



「……それにしても椛、遅いな」

「ちょっと呼んでくるよ」

「ああ」


 着替えてくると言ったきり戻ってこない椛。

 玲生が呼びにいくと言うから、俺と黄太はおとなしく待つことにした。


 だが。


『わっ!? 玲生さん……!』

『す、すまない……!!』


「!?」


 遠くで聞こえた椛の悲鳴のような声に、俺は反射的に立ち上がると、声のしたほうへ駆け出した。


「どうした!?」

「あ……いや、その……」


 椛の部屋の前には、明らかに動揺している玲生。

 なぜか頰も赤い。

 玲生がこんな表情を見せるのは珍しい。


「どうしたんだ、玲生。椛は無事か?」

「……椛さんが着替えているとは、思わず……」

「なに!?」


 まさか、着替え中に開けたのか!?


 口元を手で覆い、誤魔化すように目を伏せる玲生に、俺の中で何かがメラリと燃えた気がした。


「玲生! 抜け駆けは許さないぞ!!」

「すまない、声はかけたのだが、返事がなくて開けてしまったんだ……」

「……っ!」


 そんな言い訳は聞きたくない! 


「それに、見たのは背中だけだ。安心してくれ」

「!?」


 と言いつつも、何を思い出したのか。

 玲生はそこまで言ってまた顔を赤くした。


 安心なんてできるか……!

 くそっ、そんなに赤くなるほど艶っぽかったということか!?


 ……俺だって見たことないというのに。


 やっぱり許さない。殺す!!


「ヴ~」

「……悪かったって、銀夜。怒るな」

「椛は俺の花嫁にすると言っただろう」

「わかった、これからは気をつけるから」


「すみません、お待たせしました……わっ、銀夜! というか二人とも、こんなところで何を……」


 出てきた椛が俺を見て驚いた。

 なんだよ。玲生はいいのに俺がいたらまずいのか?




「――まだ怒ってるの……?」

「別に、怒ってなんかいない」


 朝食を終えて、玲生に(・・・)後片付けを任せた俺の隣で、椛がそっと尋ねてくる。


「私も悪かったの、考え事をしていて玲生さんの声にすぐ反応できなかったから」

「考え事?」

「そう。とにかく、玲生さんは悪くないから」

「……着替えを見られたのに、玲生を庇うのか」

「え?」

「そもそも俺のことは呼び捨てなのに、玲生には〝さん〟付けだよな」

「……」


 自分で言いながら、俺は何を言っているんだ? と疑問に思う。


 別に好きなように呼べばいいだろうとは思うのに、俺に対する態度と玲生への態度の違いが、妙に気になる。


「じゃあ、あなたにもさん付けすればいいんですね。わかりましたよ、銀夜さん」

「……やっぱやめ」

「はぁ? なんなのよ」

「……」


 本当に、なんなんだ、この感覚は。


 だが、敬語を使われるとそれはそれで壁を感じて嫌だった。


「銀夜」

「なんだ」

「もしかして、焼きもち?」

「!?」

「ああ、そうなんだ」

「ちが……っ!」


 にや、という音が聞こえてきそうなほどの笑みを浮べて、大袈裟な溜め息をつく椛。


「なぜこの俺が焼きもちを焼かなければならないんだ……! 俺は山犬の当主だぞ!?」

「はいはい、銀夜はすごいよ、格好いいよ」

「……!!」


 完全に馬鹿にされている。

 勝手に頭を撫でられたから、その手を払いのけてやろうと思ったが――。


〝どろん〟


「わっ!」


 やっぱり椛の手が気持ちよくて、そのまま犬の姿になって存分に撫でさせることにした。


 ふん! 玲生は椛に撫でられたことはないだろう? 俺が満足するまでやめるんじゃないぞ!


 そう思いながら。



 ……これが、嫉妬なのか?




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