13.銀夜はあたたかい
そして、あっという間に帰ってきた山犬の住処。
銀夜は私を抱えたまま部屋まで連れていくと、何も言わずにそっと降ろした。
外は危険だとあれほど言われていたのに。怒鳴られてもおかしくない、勝手なことをしたのに。
「……ごめんなさい」
そのまま部屋を出ていこうとした銀夜の背中に、改めて呟く。
「私、宗ちゃんを助けたくて」
何も聞いてこない銀夜に、自ら言い訳の言葉をこぼすと、彼は足を止めてくるりとこちらを振り返った。
「椛が無事でよかった。それだけだ」
「……っ」
意外な反応に、胸がぎゅっと締めつけられていく。
「大切な奴だったのか? その男は」
「……大切な、友達だった」
「そうか……」
銀夜の優しい話し方に、再びじわりと涙が浮かんだ。
それを見た銀夜は、私の前にあぐらをかいて座った。
「俺が一緒にいてやるから、泣くな」
「え……」
銀夜から紡がれたあまりにも似合わないその言葉に、思わず涙が止まった。
「……とか言って、また変なことしようとするんじゃ」
「しない。そんなことより、傷。見せてみろ」
「……」
そう言いながら私に手を伸ばす銀夜に、私は初めて自分の手のひらを擦り剥いてしまっていたことに気がついた。
きっと転んだときだ……。必死すぎて、全然気づかなかった。
「これくらい、大したことないよ」
「いいから」
「あ……」
本当に、気づかなかったほどの軽い怪我だったけど。
銀夜は私の手を取ると、自分の唇をそこに当てた。
「……っ」
「痛いか?」
「……ううん、平気」
「そうか」
「……」
確認して、もう一度傷口に唇を寄せると、銀夜はそこをぺろりと舐めた。
小さな痛みと、くすぐったさとが入り交じる。
でもまるで、動物が大切な仲間にそうするみたいで。
銀夜からの優しさが伝わってきて、なぜかまた泣きそうになった。
「……俺の妖力を送ったから、明日の朝には治ってるだろう」
「うん……ありがとう」
「……」
「銀夜?」
いつまでも私の手を離さない銀夜を不思議に思って首を傾げると、彼はきゅっと指先を握って呟いた。
「冷たい手だな。すっかり冷えてしまったか」
「うん……でも大丈夫――」
その直後。ぐっと手を引かれたかと思ったら、私の身体は一瞬銀夜に包まれた。
〝どろん〟
「……銀夜?」
「……」
抱きしめられたと、一瞬ドキリとしたけれど、彼はすぐに山犬の姿になって私に寄り添った。
もふもふの毛皮と、大きな身体はとてもあたたかい。
〝俺で暖を取れ〟と言うように身体を丸くして伏せる銀夜は、こうして見るとやっぱりちょっと可愛い。
「ふふ、ありがとう」
そんな銀夜の温もりがあたたかすぎて、胸の奥がじんわりする。
元の世界に戻れないのなら、やっぱりここにいるしかない。
いつか私が姫巫女様の力に目覚めたら――宗ちゃんを捜しに行こう。
そのために、一刻も早く力に目覚めなければ。
そう心に誓って、私はもふもふの銀夜と一緒に、目を閉じた。
翌朝目が覚めるとそこにはもう銀夜の姿はなかったけれど、私が寝つくまで一緒にいてくれたのを覚えている。
玲生さんが言っていたように、彼は悪い人じゃない。
それにあれは、彼なりの精一杯の優しさだったんだと思う。




