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アンストッパブル・ハート!  作者: ふじきど
3/5

生じた不安



  ナナトの町を飛びだして

 街道へとやってきたロイン達は

 まずはどこに向かうべきかを考えることに

 なりました。


 目的地は西の地の果て、とは聞きましたが

 一日に進める距離には体力的にも

 限りがあります。

 


  「できる限り進みはしたいけど、

   あまり詰めすぎると体力が持たね──」

  「知らねェよそんなん!!

   肉食ッて突ッ走れば即解決だ!!

   待ッてて姉ちゃァァァん!!!!」



 ロインはそのまま街道を驀進し、

 背中が遠くなっていきます。



  「……は!?何がどうなって──!?」



 ロスは突然の出来事にすぐには

 頭が追い付きませんでしたが、

 慌ててロインの後を追いかけ始めます。



  「ま、待てよロイン!!

   荷物お前が全部持ってっちまったら、

   俺は補給もなにもできねぇだろうが!!」

  


 走り出したロスは、

 先ほどは気付かなかった自身の

 体の異変に気が付きます。

 

 野山を駆け回っていたおかげで

 体が丈夫になり駆け回る体力が

 あると思っていましたが、

 全速力とはいえロインの背中が

 みるみる近づいてくることに

 違和感を覚えました。

 

 明らかに今までの自分では

 ありえない早さが出ているのです。



  「なんだ……!?

   俺どうなってるんだ!?」

  


 しかしその状態に不安などは感じず、

 むしろ気分が高揚してくるような気さえします。

 そしてロインの背中に追いつくと、

 その肩に手をかけて強引に

 止めさせました。



  「待てよロイン!!」

  「うおッ!?

   何しやがるロス!!

   止めるんじャねェ!!」

  「止めるに決まってんだろ!!

   肉食って走れば解決?

   その干し肉全部お前が持ってる以上、

   先に行かれちまったら

   俺は何を食えっていうんだ!?」

  「……確かに」



 ようやく足を止めたロインに

 ほっと一息ついたロスは、

 ずいと目の前に差し出された包みを

 思わず受け取ってしまいます。



  「……?

   なんだこれ──」

  「お前の分の干し肉渡しとく、

   これで問題なしだな!!

   先に進むぜ!!」



 そういうや否や、

 ロインは再び駆けだしました。

 その行動に呆気に取られていたロスは

 考えを振り払うように頭を振って追いかけ始めます。



  「は!?

   いやそういうことじゃねえんだよ!!

   ──ああったくよぉ!!

   寝袋だの着替えだの全部お前が

   持ってんだろーがぁ!!」



 土煙を上げながら街道を突っ走る2人は

 宿場町の1つを通り過ぎてもなお

 ひたすらに走り続け──


 ロインが力尽きたところで

 今日は休むしかないとロスは判断しました。



  「ゼェ、ゼェ……

   とりあえず今日はこの町で休もうぜ、

   いい加減足が限界だ……」

  「げほッ、おェ……はァ、何言ッてんだ!

   こんなとこでぶッ倒れてる暇なんかねェ──」

  「そうやって無理して倒れちまったら、

   それこそお終いだろうがよ!!

   俺たち以外にミニョ達を

   救いに向かってる奴なんて

   誰もいやしないんだ、

   強行軍で出来ることは

   限られてる!!」



 なおも進もうとするロインをきつめに制して

 ロスは言い含めました。



  「おまけにこの辺りは

   夜行性の獣たちがうろつくって看板を見たぜ。

   野宿できるだけの安全域には

   俺たちは到達してねぇんだよ」

  「はァ、はァ……

   でもこの辺に出てくる獣なんて……ぜェ……

   多分鹿とかウサギとかばッかりだろ!

   出てきても狼ぐらいじャねェか……!」

  「狼出る時点でだめじゃねえか!!」



 何とか説得しようとロスは言葉を重ねますが、

 ロインは頑なに首を縦に振りません。



  「つい今しがた言ったけどな!

   俺たち以外にミニョや村の女たちを

   助けに向かってるのは誰もいないんだ!!

   だから俺たちが倒れちまったらそこで

   お終いなんだよ!!」

  「ゼェ、はァ……そんで俺たちが休んでる間によ!?

   姉ちゃんたちが襲われちまッたら、

   間に合わなかったらどうする!?

   それこそお終いだろうがよ!!」

  「旅の始まりで力尽きてるような

   奴が吐いていい台詞じゃあねえな!!」



 ぐッ、と言葉に詰まったロインに

 ロスは手を差し出しながら言いました。



  「……俺も、今言われて気付いたが

   確かに時間は惜しい。

   でも家族を助けるために飛び出して、

   その結末が『野垂れ死にしました』

   だなんて笑い話にもなりゃしねえよ。

   そうならないためにも、

   俺たちは体調を万全に整えなくちゃあならないんだ」

  「……でもよ──」

  


 なおも食い下がろうとするロインに

 ロスは笑いかけました。



  「それによ。

   助けに来た側がくたばる寸前だなんて

   みっともねえ姿、

   見せたくないだろ?」

  「……それは、違いねェな」



 ロインに肩を貸し、

 ぐったりとした体を引きずりながら

 ロスは宿へと向かいます。



  「意気地になる気持ちはわかるけどよ、

   この旅は長くなるかもしれねえ。

   気合い入れつつ適度に

   身体休ませながら行こうぜ」

  「……ああ、悪かッた」



 笑い返してくるロインに、

 ロスは自分がぎこちない笑みを返していないか

 少し心配になりました。


 先ほどロインに言われた

 「間に合わなかったらどうする」という言葉が

 頭の中でぐるぐると渦を巻いていたからです。


 理由もなく必ず間に合うと考えていたロスは、

 その可能性を振り払うように

 顔を上げて宿の暖簾をくぐるのでした。






ロス「宿泊2人分、部屋はひとつでいい」


女将「しゅくはくは 500G になりますが いいですか?」


ロイン「高ェのか安いのかわかんねェな……」

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