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アンストッパブル・ハート!  作者: ふじきど
1/5

旅立ち

 


  ──このお話は、ある日突然村を怪物に襲おそわれ

   姉を連れ去られてしまった青年と、

   同じく妹を連れ去られてしまった青年、

   2人とその仲間の物語です。


 姉を連れ去られてしまった青年の名前はロイン。

 妹を連れ去られてしまった青年の名前をロスと言います。


 彼らは平和を謳歌おうかしながら

 いつも通りに山へ狩りに行き、

 畑をたがやし、

 つつましくも穏やかな日常を過ごしていました。


 しかし、その平和はある日突然やってきた

 怪物たちによって砕かれました。

 村の女たちはさらわれ、

 阻止そししようとした村人の多くが

 命を落としました。


 絶望と失意の中、

 どうすればいいのかと考えていた生き残りの

 村人たちの前に──


 奇跡が現れました。



  〝奇跡の皆様方。お伝えいたします。

   西の地の果て。魔王城より来る悪鬼あっきどもが。

   あなた方の愛する者をうばいました〟



 そのことを伝えたのは人型をした光でした。

 その様を見た彼らには、

 まさに神の使いが現れた様に見えたかもしれません。


 光は二振りの剣を村人に授さずけます。

 そしてその剣を誰よりも早く手に取ったのは

 誰あろう、ロインとロスの2人だったのでした。


 村人の制止を聞くよりも前に2人は村を飛び出します、

 それぞれ携えた剣は日の光を反射して

 2人の出立を祝福するように輝いていました。









 村を飛び出した2人は、

 まず近隣の町を目指します。

 しかしそこでロスは肝心なことを

 忘れていたことに気が付きました。



  「はぁ……はぁ……

   おいロイン!

   俺も一緒に飛び出したが、

   西の果てっていったいどこまで

   行けばいいんだ!?

   魔王城なんて俺たち聞いたことも

   ないんだぞ!?

   それに旅の準備だとかも

   何もできちゃいない!!」


  

 ロインはロスの質問にけ足を止めずに答えます。



  「はァ!?

   何言ッてやがるんだ!

   お前は自分の妹が連れ去られて

   普通でいられんのかよ!?

   俺は今でも心臓が

   早鐘はやがねみたいに打ッてて

   治まらねェんだ!!」

  「いやそれはお前、

   こんなけ足で走りまくってたら

   当然だと──」



 そんな話をしている間に

 村から一番近い町、

 〝ナナト〟の姿が見えてきます。


 ナナトの町は大きくはありませんが

 それなりに栄えており

 村で作った作物や獣の肉は

 ナナトの町でおろされているため、

 町の入り口にえられている

 出入りを管理する番屋ばんやとも

 よく知った仲で顔を見せれば

 通してくれるような関係でした。


 しかしこの日だけは勝手が違い、

 番屋ばんやに新しくやってきた番人は

 少々お金に意地汚く、

 町にやってきた者から〝関税〟と称して

 わずかとはいえお金を取っていました。



  「へへへ……

   ちぃとばかし入りは少ないが、

   町に入ってくる奴がここまで多けりゃ

   結構懐ふところがあったまるぜ。

   それにしても町に入るやつが

   ここまで多いとはな、

   俺みたいにチョイと頭を使えば

   もうけられた奴らは多いだろうに。

   なんとも間抜けな奴らだ──」


 

 そんなことを番人が考えていると、

 こちらに向かって走ってくる

 2人組が見えました。


 相当慌あわてているのが

 はたから見てもわかるほど

 切羽詰せっぱつまった顔をしている二人の顔に、

 番人は意地の悪い笑みを浮かべました。



  「はぁ……はぁ……

   番屋ばんやのやつがここまで出てきてるのは

   珍しいな……?

   いったいどうしたんだ?」

  「さァな!!

   何があッたが知らねェが

   俺たちはこのままけ抜けるだけだ!!」



 ロインたちがそのまま通り過ぎようと

 足を早めると、

 番人がその前に立ちはだかりました。



  「おっとそこの2人組ぃ!!

   今日からここを通るには 

   ちょいとばかし〝関税〟を払ってもらう

   必要ができ──」

  「知るかてめェェェェーッ!!

   金が欲しけりャくれてやらァァァーッ!!」



 ロインはそう叫ぶやいな

 腰からげた皮袋から

 金貨をひと握りつかむと、

 番人に向かって力の限り投げつけます。


 金貨は風を切る音を立てて

 まるで矢のように飛んでいき、

 すべて番人の顔へ命中しました。



  「あべゃああああああああああ!!!」



 顔面を押さえながらうずくまった番人の横を

 ロインたちはけ抜けていきます。



  「わ、悪い!

   俺たちも急いでんだ、

   その〝関税〟とやらはその金で

   支払ったってことで!!」

  「う……うぉぁ……!」



 鼻血を流しながら、

 番人は悪いことをしたばちが当たったのだと

 後悔こうかいしました。


 そしてそのばちを与えた2人を見送ると、

 もうこれ以上悪いことはすまいと

 心を入れ替えることを決心しました。









  「ロイン!

   お前いくら何でも

   ぶつけることはなかったんじゃ……!」



 ロスがたしなめるようにロインに話しかけると、

 ロインは吐き捨てるように言いました。



   「あんなことでいちいち

    立ち止まッてる場合かよ!!

    俺はこの先姉ちゃんを

    助けるまで簡単には止まらねェ……!

    邪魔するもんは全部踏み倒していく、

    叩きのめしてでもいく!!」



 その声は決意とも、

 ともすれば狂気とも呼べる

 固い意志に溢れていました。

 ロスはその声に一瞬いっしゅん気圧けおされましたが、

 確かにそれほどの決意でなければ

 途中でくじけるかもしれないと

 思い直しました。



  「はぁ……はぁ……

   ははっ!そう、だな……!

   それぐらいの意気込みでなきゃあ

   途中であきらめちまうかもしれないな……!」



 ロスは両頬りょうほほてのひらで叩いて

 気合いを入れなおし、

 ロインの横へと並びました。



  「それじゃあ行こうじゃねえか!

   お前の姉ちゃんと、

   俺の妹のミニョを助けによ!!」



 ロスが笑いながら宣言すると、 

 ロインも笑いながら言い返しました。



  「当然だろうが!!

   途中で逃げだしたらぶちのめす!!」



 2人は笑いあいながら町を走っていきます。


 その旅は過酷かこくなものになるでしょう。

 それでも笑いあう2人は

 その逆境を跳ねのけていくだろう、

 勇気と希望に満ち溢れていたのでした。






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