黄金とんかつ
あたい、肉。
今スーパーの陳列棚であたいの買い手、吟味してるの。
どうせなら、あたいのこのじゅうしぃで肉感的な魅惑のボディ、委ねる相手は選びたいじゃない?
んー、アイツは駄目。
今彼女を無視して高級な肉をカゴに入れたから。
あっちも、だめ。
今こそっと単価の高いスパイスを懐に入れたもの。
あれは転売用だわね。
なかなかいい人が見つからないロンリーミートなあたいだけど。
そう寂しくないの。
だってパックの中には家族が三人。
さらにここには焼肉用、しゃぶしゃぶ用、ステーキ用、細切れ肉と、あたいの仲間たちがちょこんと並んで集まってるんだもの。
特段話すことはないけれど、そばにいるそのひんやりさ、心に留め置きたいものよ。
あっ、いよいよあたい達のパックに人の手が!
うんうん、良いわね。
化粧っけが少しあって、手のひらがちゃんと働いてる人の肌感よ。
今じっと見てる。
きっとグラム単価を確認してるんだわ。
大事よね、だってここが高いと他のものとの兼ね合いが取れなくなることもあるもの。
このバランス感覚、やり手に違いないわね。
あたいがそう思ってると、相手はひとつ小さく頷いてパックをそのままカゴに入れた。
帰宅中に出てくるかもしれないドリップに気を使って、きちんと水平。
なんて素敵なんでしょう。
揺れるゆりかご。
あたいは増えてゆく仲間を横目に歌をうたう。
ふかふかのパン粉に
とろりとつややかな黄色
王族のように黄金に輝いて
あたいとんかつ界の姫になりたいの
なれるかしら
なれるわよ
なれるかしら
きっときっとね
仲間たちからガサゴソと、やんややんやの大声援。
平たいままにお辞儀をしながら、大人しくバーコードは読まれていく。
さようなら、あたいの故郷。
もう帰ってくることはないでしょう。
あたいのともがらよ、いつか下水で相見えんことを。
そんな下世話なことを思いながら。
食品の中四人、肉として新天地へ飛び立ったの。
袋の中揺られ揺られて幾星霜。
たどり着いたのはこじんまりとした、けれど用具がきちんと整えられたそれは素敵なキッチンで。
あたい、感動しちゃった。
いよいよここで、あたい姫になる。
パン粉が出たわ、卵もね。
ピーマンも出たし、たけのこも。
玉ねぎマカロニ、パセリまで。
まずは塩胡椒で下味ね。
それから包丁が……
包丁?
ぎゃー!!
やめて細切れにしないで、あたいはこの豊満なボディが魅力なのよ!
え、ちょっと、どうして片栗粉とらんでぶーなの?!
気づけばあたい、ピーマン様たけのこ様とマリアージュ。
油の妖精に助けられ、青椒肉絲になってたの。
お皿の彼方を見てみれば、ミニグラタンが鎮座して。
その向こうには千切りキャベツと黄金色。
あたいだけ、細切れ人生。
嗚呼、せめて。
美味しく食べてちょうだいね?