魔王ノア攻略の証
(よしよし、アリスは大人のキスを楽しむようになってきたことだし、もう、これはこっちのものだ)
「なにがこっちのものなの? また不穏なことを考えているのではないでしょうね?」
「不穏なことじゃないよ。いや、義姉上がね……」
「あ、いいわ、お義姉様の話ならパスします。ヤキモチ焼いちゃうから」
「ふぅん。ヤキモチ焼いてくれるんだ~~」
エドワードは、話がそらせたことにホッとしつつも、嬉しさがあふれてくる。
「ふふふ。話がそらせたことにホッとしたことがバレバレなの、知ってるでしょ? なにがこっちのものなの? いいなさい? 怪しいわ?」
ジッと見つめてくるアリスの頬にチュッと口づけたあと、更に誤魔化すエドワード。
「ははっ。こういうとき互いの思考が読めると、本当に不便だね。
いや、本当にさ、『義姉上が考えていたこと』を思い出そうとしてたんだ」
「少なくとも、『お義姉さまのこと』を考えていたわけではないのね?」
アリスは、むくれて、そっぽを向いてしまった。
「予言の書は、一つの物語だけど、義姉上は、いくつもの帰結を想定していた様だったからね。
私は義姉上は、ワイト国に留学した後、アンリ王子と共に冒険する物語でも妄想しているんだろうと思ってた。
義姉上は、ファンタジー作家に向いてるかもね?ぐらいの感覚で捨て置いたんだ。
でも、予言の書を読ませてもらって、いろいろ事情を聞いて、そうじゃなかったと分かったから、思い出そうとしてたんだ」
「いくつもの帰結?」
「そうなんだ。義姉上は、ノアのことが好きだったようで、魔王城でノアと共にアンリと聖女を撃退するとか、聖女ポジションでノアと共に悪魔神官を打ち倒すとか、何度も何度も繰り返し、ノアのことばっかり、でもないけど、ノアのことを一番多く考えていたような気がする」
「学園にノアがいても気付いていなかったのに?」
アリスは戸惑いを隠せない。
「あぁ、義姉上が恋い慕う妖艶な魔王からかけ離れているからね? 私もアリスの双子の兄と義姉上の頭の中のノアが同じ人物なんて、しばらく気付けなかったからね」
「お義姉さまは、ノアが恋心に応えてくれると思っていたの?」
「正しい手順を踏めば、両想いになると確信していた風だったよ。とにかく手順さえ間違えなければよい。と。
違和感しかないけど、義姉上が気持ち悪いのも、理解できたことがないのも、いつものことだったからね……」
「すごいお義姉さまですわね」
「確か、ダークセイバー、ダークマター、ダークミラーという三種の神器ってのがあって、ノアからダークセイバーを貰えたら、両想いになった証だとか妄想してたかな…」
ギョッと肩を震わせるアリスを見て、エドワードの目が険しく光る。
「アリス、持ってるんだね? ダークセイバー」
「も、もっていますわ。でも、あれは、ヴィヴィアンの姉神様がわたくしのために作ってくれたものですのよ? 確かにノアを介してもらいましたけど、ノアには使いこなせませんもの。ちょっとお待ちになって?」
アリスはパタパタと自室に戻って、持ってきたダークセイバーを差し出した。
「エドワードが気になるなら、差し上げますわ。あなたにはちょっと刀身が短いでしょうけど、カッコイイのよ」
そう言うと、慌ただしくエドワードの手を引いて、庭に出て、実演する。
エドワードより大事なものなんて何もないと焦っていることがヒシヒシと伝わってくる。
「こうして抜刀して、こうして納刀して、こうすると『漆黒の一閃』がでて……」
美しく舞うように剣を振るうアリスに、エドワードは目が釘付けになった。
しなやかで上品な身のこなしに、黒く輝く刀身が追随し、プラチナブロンドの髪が全てを追うようにふんわりと舞う。揺れ動くシンプルなデイドレスの裾から時折見える細い足首に、凛としたその表情に…… これは惚れない方がおかしいだろ?
激しく心をかき乱されたエドワードは、思わずアリスに駆け寄って、強く強く抱きしめた。
「いいよ、いい。もういいんだ。その剣はアリスが持つべきものだ。よく似合ってる」
「まぁ! 似合っていると思う? あなたがそう言ってくれると嬉しいわ!」
アリスの純粋な喜びが伝わってくると、ヤキモチが残っていないわけではないが、その剣はアリスに持っていて欲しいと心から思った。
義姉の脳内では、短剣の護身刀だったような気がする。
アリスが持っているような片手剣ではなかったから、義姉が考えているものとは違うものだろうと自分を納得させた。
後日、エドワードにダークセイバーを褒めてもらったと喜ぶアリスの話をノアから聞いた根暗ディストピア神は、大いに喜んで、エドワードの用の長剣のダークセイバーを作り、ノアを介して下賜した。
義姉の理論では、ノアとエドワードが両想いだということになる。
「お揃いの物が増えたわ!」っと無邪気に喜ぶアリスを見たエドワードは、自分の脳内もいつの間にか義姉に毒されて、ノアとアリスの関係を邪推しすぎたなと反省したのであった。
これで、後日談も含めて全てアップし終わりました。
お読みいただきありがとうございました。




