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弑逆者エドワードと女神の涙

 読書中のアリスの前に、エドワードが淹れたジンジャーティーがコトリと置かれた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 本から目を離さないアリスに構って欲しいエドワードは、アリスの耳から垂れる「女神の涙」を指で弄んでいる。


「……心配したのよ。あなたのことを」


 突然、自分にガバリと抱き着いてぎゅうっとしがみつくアリスに、エドワードはアリスが何を心配したのか分かってしまった。


「私がどうやって『女神の涙』を手に入れたか気になる?」


 エドワードがすぐにピンと来たことで、アリスが心配したのに近いことが起きたこと察したアリスは、更にぎゅうぎゅうとエドワードにしがみついた。


「予言書を作った時、あなたがヴィヴィアンを弑逆して、『女神の涙』を手にしたのかもしれないと、不安に思っていたわ」


 予言の書の中で、「女神の涙」は、魔王討伐後、氷の王子エドワードから聖女に与えられるマジックアイテムで、魔王城を封印することができる。


「思っていた? 今は、そうは思わないってこと?」


「だって、知ってしまったもの。ヴィヴィアンの涙は綺麗だけど役には立たないって」


 ヴィヴィアンは、アンソニーとの結婚式で「女神の涙」を量産していた。

 でも、それらは何の機能もないただの宝石だった。

 魔王城を封印する力なんてない。

 それがヴィヴィアンの涙だったとしても、特別な機能を付加するなんらかの「助力」があったはずだ。



「あぁ、80粒ぐらいあるらしくて、ノアが『最愛のティアラに使おうかな?』って言ってたよ。そのうちデザインを依頼されるかもね? ……君のコレも綺麗だ」 


 エドワードは、自分の胸に顔をうずめているアリスの耳元で輝く「女神の涙」を耳たぶごとすくって、優しくなでる。


「ゃん。くすぐったいわ。これもヴィヴィアンの涙?」


「暗黒神の涙だよ。姉神様の方だね」


(倒そうとしたの?)

(彼女が生み出した瘴気が元凶だとわかったからね)


「10才のあの時、ジェンは高熱を出した。そして生還した後、中身が別のものに変わってた」


「いつ気付いたの?」


「すぐにさ。義父上だけでなく、心が読めない義母上もね」


 アリスは、その時に家族の気持ちを思うと胸が痛くなった。


「でも新しく中に入った『それ』がユージェニーに必死に呼びかけ、自分の中にユージェニーの魂を探していたこと、深く悔いていたことで、憎むに憎めなかった」


(悪い人ではなかったのね?)


「憎みきれなかったが、許すこともできなかった。『それ』が願うように、いつか眠っているユージェニーが目を覚ますかもしれないと思えば、『それ』を傷つけることはできなかった」


(一つの器に二つの魂が入っているなんて、これまで考えたことなかったわ)


「ひたすらに神に君の魂の無事を祈り続けていたら、義父上が神より神託を賜り、ユージェニーの魂が無事であること、本人の意思で戻らないこと、『それ』がユージェニーの体で健やかに暮らすことを望んでいることをお告げくださった」


 エドワードはアリスを抱きしめ返しやすいように、彼女を膝の上にのせて、彼女の存在を確かめるように腕の中に包み込んだ。


「それからも『それ』を許すことはできなかったけれど、君の望みであるならばと、義父上も義母上も『それ』が健やかに暮らせるように配慮している。でも、私は耐えられなくて、生家に戻って剣術の修行をした」


 エドワードの顔は苦痛に歪み、今にも泣き出しそうだ。

 思い出すだけでツラいことが伝わり、アリスもエドワードの首に腕を回して抱きしめ返す。


「私が戦神の加護で身体強化ができるようになった後、義父上と私は、魔王領へ行ったんだ。その時点では瘴気が世界で最大の問題だったから、きっと君はここにいる。迎えに行こうって。あてずっぽうだけどね」


「お父様も?」


「そう、義父上も。それで、私は魔王領で瘴気に当たりすぎて闇落ちしそうになったところを、暗黒神に拾い上げられた。他神の愛し子が瘴気で闇落ちしたら、まずいよね?」


 アリスはこくりと頷く。


「諸悪の根源を発見した私は、すぐに斬りかかって、本気で討伐しようとしたよ。そしたら、ロスシュリの守護神が顕現なさった」


「まぁ! 神に反逆したのね! 危ないことを!!」


 アリスはエドワードにしがみついて、エドワードが無事でよかったと神に感謝した。


(それだけ君が傍にいないと寂しいってこと)

(!!!!)


「ロスシュリの守護神は、暗黒神が国づくりを始めたばかりで、未熟なことを詫びてくれて、叱られてメソメソしていた暗黒神に命じて、3つの涙の粒に『いつでもどこでもなんでもお願いを聞く権利』を封入させ、私に下賜した」


(ヴィヴィアンの神様への3つのお願いみたいね)

(暗黒神はお兄ちゃんっ子だから、すぐに作ってくれたよ)


「その代わり、私は、その女神の『はじめての神の試練』の行く末をもう少しだけ待つことを約束させられた」


「予言書でも似たようなことが起きたのかしら?」


「多分ね。物語の強制力はなかったとしても、中の魂は同じだからね。それぞれの魂の思考のクセは変わらないから、似たような行動を起こしても不思議ではないよね? 神様の行動も含めて、ね」


 エドワードは、再びアリスのピアスを耳たぶごと掬って、愛おしそうに撫でた。


「だから、これは、暗黒神へのお願い券でもあるんだよ」


「3つ目の涙もどこかにあるの?」


「3つ目の涙はネックレスにして、私が身に着けているんだ。探してみて」


 アリスは、エドワードの首元にそっと手を差し入れ、チェーンを探す。


(くくくっ。くすぐったいし、ぞくぞくするよ)


(ひゃぁぁ)


 アリスは、真っ赤になって、手を引き戻した。


(見たくないの?)


(み、みたい)


 再び、そろそろと手を差し入れて、首元を撫でるようにチェーンを探し、キラキラと輝くティアードロップ型のネックレスを手繰り寄せた。


(ピアスとおそろいね?)


(お揃いだよ。ロスシュリ家の新しい家宝だよ)


 エドワードは、微笑んでいる。


「それから間もなくのことだったよ。魔王領に『ディヴァインライト』が降り注いだのは」


(ヴィヴィアンね)


「瘴気の問題が解決したから、義父上、義母上と私は、君が帰ってくるのを期待した。でも、君はロスシュリに帰ってこなかった」


「ええ。あれは、わたくしたちが考えていた理想の解決方法ではなかったから、あれから大変だったの」


「うん。そうやって君は単独で他人事に首を突っ込み続けるんだ。私たちはそのことについて話し合う必要があるよ。戦神も君を気の毒に思っているしね」


「わたくしを気の毒に?」


 突拍子もない話に、アリスは、顔を上げてエドワードを見つめた。



「ロスシュリの守護神は、王族一世代に一人だけに祝福を与えるために降臨する。君が生まれて、君に祝福を与えた後、旅人を装ってふらりと国を見て回った神は、一人の剣士と出会った」


(旅人を装って?)

(つえぇ奴を探すのが、彼の楽しみなんだよ)


「剣劇を交え、旅人を気に入った剣士は、旅人を夕食に招き、生まれて間もない我が子を旅人に抱かせた。旅人はうっかりその額にキスを落とし、その子には神の祝福が授けられた」


「うっかり?」


「そう。うっかり。偶発的に神の祝福を授かったその子は、上手く生きていけなかったため、最終的には祝福と共に生きることに慣れた王族に預けられた。


しかし、それは、一人の姫に神の意図せぬ試練を与えた。姫はずっと考えていた。何故、今世代では、祝福を与えられた子が2人もいるのか? 自分の使命はなんなのか? 


その姫は、魔王領の瘴気の問題を自分の使命と捉え、このために捨て身で力を注いだ」


「それは予言の書のユージェニー姫のこと? 大聖堂で育った『ななしの聖女』も同じ様に考えていたわ。『そうか、このためだったのね!』って」


(そう。どっちの君も、そんな風に考えるんだ)

 エドワードは、悲し気にアリスの額にキスを落とす。


「でも、わかったでしょ? アリスだけに与えられた特別な試練なんてないんだよ。戦神の『うっかり』なんだ。君にやりたいことがあるなら、私たちにも相談してほしいんだ。私を追いて行かないで欲しいんだ。離れ離れにされたらちゃんと迎えに来て欲しいんだ」


(君はどうすれば私に会えるかずっと知っていただろう?)

(こめんなさい、エドワード。寂しい思いをさせてごめんなさい、エドワード)

 恐る恐る扉を開くようにアリスの唇をついばむエドワードに、アリスははじめて大人のキスを受け入れた。


 寂しさで神にも反逆してしまうエドワードに、もう二度と寂しい思いをさせないように、なんでも話し合うことを決意したアリスだった。

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