転生悪役令嬢、隠しキャラがモブと婚約してた
これ以降の話は、いまだにツラい。
だから、明るい口調は、ムリゲー。
フツーのアラサー社畜OLに戻ってしまうし、長くなるけど、ごめんね。
義弟エドワードを心配して別邸へ向かった私とアンリ。
玄関に入ると談話室から今まで一度も聞いたことがないエドワードの笑い声が聞こえた。
もしかして失恋のショックでおかしくなっちゃった? と焦って、全速力で走っていってドアをばーーーんって開けたら、めっちゃ笑顔のエドワードが知らない女の子を膝の上にのせて、お菓子を食べさせてた。
女の子は、ビックリして、目をまん丸にした後、慌ててエドワードの膝の上から降りて、優雅な所作で挨拶してくれた。
「お義姉さま、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。お初にお目にかかります。ワイト国マイルズ伯爵家が娘アリスと申します。お会いできて光栄です」と。
「え?」
私は固まった。
「気にしなくていいよ、アリス。どう考えても、勝手に人の家に上がり込んで、取次ぎも、挨拶もなしに、いきなり入ってきた義姉上が悪いんだから」
びっくりした。
エドワードが普通の弟が普通の姉から普通に彼女を庇うような感じでしゃべってた。
エドワードはいつもの氷の表情ではなく、力の抜けた柔らかい表情で、アリスという名の女の子の頭にチュッとキスを落として、その女の子を長ソファーにかけさせた後、自分も隣に座った。
それがまた、普通に自分の家のソファーでくつろいでる感じで、驚いた。
私がここに住んでた時は、ゲームと同じ、氷の王子だったよね?
先週の話だよ?
一週間でこんなに違う?
ようやくアンリが入ってきて、私の手を引いて反対側の長ソファーに誘導しながら挨拶してた。
「やぁやぁ、ごきげんよう。ごめんな。ユージェニー姫がダッシュで部屋に入っていくなんて予想できなかったものだから、お邪魔しちゃったかな?」
エドワードと女の子は、もう一度立ち上がって、アンリに挨拶した後、飲み物は何がいいとか、なんとか、いろいろ、話してたけど、私はビックリしたままで、声が出なかった。
いや、だってね?
エドワードとわたし、6年ぐらい姉弟やってたんだよ?
だけど、エドワードがあんなに快活に笑うとか、知らなかった。
ビックリするし、素でショックだよ。
しかも、その女の子、かわいいんだよ。
ゲームキャラとしては名前もついていないようなモブだよ?
どういうこと?
そんなかわいい子、どこで見つけてきたんだよ~~!!
って、なるじゃん?
その子は、富豪の息子ローレンの従弟で魔王と同じ名前のモブのノアの双子の妹だった。
つまり、ローレンの従妹。
まぁ、ゲーム内のローレンに似ていなくはない。確かに、ちょっとだけ似ている。
アリスはお母さん似で、ノアはお父さん似らしい。
ローレンはノアとアリスの父方の従弟だから、こんなもんかも?
エドワードは、2年前お父様のお遣いでマイルズ伯爵家に届け物をした時、アリスに一目惚れした。
それから二人は文通をして、去年から婚約していたらしい。
え?
氷の王子、モブと婚約?
ローレンが平民になった派生で、従弟でモブのノアと従妹でモブのアリスが大暴れしてるんだが?
もしかして、入学式の時、エドワードがエスコートしてたモブ?
アイザックとノアはそれぞれ仕事が忙しくなってきたから、学園を辞めるといいだして、皆んなが行かないならアリスも行きたくないと、エドワードとの結婚を早めて一緒にロスシュリへ帰る相談をしていたらしい。
ちなみに、別邸は、エドワードとアリスがワイトに滞在する時のために準備したエドワード所有の個人宅で、私が使っていた1階の部屋は客室だったらしい。
アンリが「夫婦の寝室は3階?」とか聞いていて、モブのアリスが真っ赤になってた。
んで、エドワードが真っ赤になっているアリスのほっぺにチュッってして、ますます真っ赤になってるのを見て笑ってた。
繰り返し言うけど、先週までは氷の王子だったよ?
でも、アンリは「あ~。またいちゃつき始めたよ。いつもこうなんだよこの2人」って苦笑いしてた。
何にも知らなかった。
別に隠していたわけではないと思う。単に私がゲームのシナリオ通りに進むと確信しすぎて、見えていなかったんだと思う。
そういわれてみれば、エドワードがお父様の名代であちこちに行くようになったのは、2年くらい前からだと思う。
エドワードは、「義姉上! ワイト国ですっごくかわいい子を見つけたんです!!」とか言ってくるタイプではない。私が仮に姉じゃなくて兄だったとしても、「義兄上! ワイト国で一目惚れしてしまいました!」なんて言ってこないだろう。
どちらかと言えば「義父上、少しお時間を頂きたいのですが」だ。
そして、そんなことを言ったエドワードを見たことがある気がする。
それに、昨年は留学先の準備だと言ってちょくちょくワイトに行っていた。
それを私は、「あ~。あの別邸ね。逆ハーするなら宮殿よりそっちが便利だわ」とか、「エドワードも義姉思いだね~。一緒に住むなんて、萌え」とか、「こりゃ、攻略は成功でしょ」とか考えていたような気がする。
私の部屋は王宮の王子妃の居室を「正しくロスシュリ風」にしたり、私の好む色調で家具や小物を揃えてくれたり、細部まで気を配ってくれてた。
ワイトの王室の努力だけではあそこまで私にとって居心地がいい部屋にはならない。
だから、王子妃の居室を見た時、「エドワードは、わたしのことわかってる!」って、キュンだった。
蓋を開けてみたら、エドワードからの相談を受けたモブのアリスが従弟のローレンに頼んでロスシュリからいろいろ取り寄せてくれたらしかった。
そんないろんな人の手を煩わせた王子妃の居室なのに、私は住みたくないと我が儘言って、エドワードが準備した新妻との新居に図々しく居候してたってことになる。
それでも私を住ませてくれたのだから、この義弟は、間違いなく私の家族だ。
私が王子妃の居室に住むことを決めた時、アンリが言った言葉は、「ここに住んでも大丈夫な気がする?」だった。
今ならみんなが異国の地に嫁入りする私に心を配ってくれてたってことがわかる。
これは、きっと、あれだ。
異世界転生した後、シナリオにこだわりすぎたり、目の前の人物をゲームキャラ扱いして、異世界を新たな現実とみなさなかった結果、ざまぁされるやつだ。
でも、これは、意図的ではない「ざまぁ」だ。
むしろ感謝するべき「ざまぁ」だ。
私は、ユージェニー・ロスシュリ姫として、幸せにならなきゃならないんだね?
高熱に耐えきれなかったユージェニー・ロスシュリ姫の分も。
エドワード、ごめん。
迷惑かけて、ほんとに、ごめん。
ユージェニーが死んじゃって、ごめんなさい。
私は取り返しのつかないことをしてしまいました。
ごめんなさい。
そして、ありがとう。
心の中でエドワードにそんなことを言った気がする。
その時の、私は、ショックを受けすぎて、その場でちゃんと振舞えたか分からない。
6年間のマナー教育の成果でちゃんと取り繕えていたかな?




