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ロスシュリ国、第1王女の誘拐

 わたくしは、ユージェニー・ロスシュリ、10才です。

 朝、目覚めたら、知らない場所に移されておりました。


 ベッドサイドに置かれた椅子には、見知らぬ男性がうつらうつらしております。

 高位の教会関係者のようなお召し物です。

 こんなところで何を?


 ぼーっとしていたら、目の前の男性が目を覚まし、恐怖に震えました。



「あぁ、聖女様、お目覚めになられましたか!!」


 喜んでくれています?

 意味は分かりますが、何語でしょうか?

 ワイト語かしら?


「おはようございます」


 試しにワイト語で挨拶をしました。


「おぉ、おぉぉぉ、おはようございます。聖女様」


 わたくしは、ユージェニー・ロスシュリ、10才です。

 聖女様ではありません。

 わたくしは王女です。

 これ、誘拐ですよね?

 

 試しに聞き返してみましょう。


「せいじょさま?」


「聖女様?」


 目の前のおじさまはツワモノのようです。

 まったく同じ言葉を返してきました。

 仕方がありません。

 こちらから聞くしかないでしょう。


「ここは、どこですか? そしてあなたはどなた?」


 目の前のおじさまは「あぁ!」とわたくしを誘拐したことを思い出したようです。


 おじさまは、わたくしのお父様と同じぐらいのお年でしょうか?

 茶色の髪に茶色の瞳で、わたくしのお父様よりもはるかに優しそうなお顔です。

 わたくしのお父様は、どちらかといえば、わるも…… いえ、何でもありません。

 

 こんなにお優しそうなお顔で誘拐だなんて「人は見かけによらないから、気を付けなさい」と言われていた理由がよくわかります。


 遠くのソファーにいた人たちも目を覚まして、ワタワタしていますが、ひとまずおじさまの話に集中します。



 この国は、ワイト国。

 今いる場所は、ワイト大聖堂の聖女の私室。

 目の前のおじさまはアンソニー。

 位階は枢機卿。

 魔王が復活したという予言があり、神の国から聖女を召喚した。

 その聖女がわたくし。


 わたくしは心の中で思いました。

 いえ、わたくしは、隣国ロスシュリの第1王女です。

 神の国から召喚したのではなく、隣国から誘拐したのですよ。と。


 でも、あえて言葉にはせず、懸命に耳を傾けます。


 わたくし、既に外国語の学習を開始しておりますが、ワイト語は簡単な日常会話ぐらいしか存じません。

 それに、枢機卿猊下のお話は難しすぎてよくわからないのです。

 枢機卿猊下もそれを察して根気よく、できるだけ簡単な言葉で説明してくださいます。


 途中で面倒くさくなって、心の声を聞こうかと思ってしまいました。

 あ、わたくし、心の声が聞こえるのです。


 ロスシュリ王族に与えられる「ロスシュリの祝福」ですの。

 鍛えれば「戦神の祝福」も使えるようになって、配下の戦士を強化できるようになりますが、わたくしは子供なので、まだできません。


 わたくしに出来るのは、心の声を聞くことだけ。

 それでも言語に関係なく、相手の考えたことが理解できるのでとても便利です。

 これぞ神の御業ですわね。


 でも、不便な部分もあります。

 人の思考は自由ですから、都合よくこちらが聞きたいことばかりを考えてくれるわけではありません。

 聞きたいことがある時は、こちらから質問して、その答えについて考えてもらう必要があります。

 つまり、会話することは避けられません。



 ロスシュリ王族が授かる祝福は、「嘘を検知できる」能力だと思われています。


 確かに、会話の中で嘘をついていることが分かったりすることもありますが、多くの場合は、思考の答えと口から出てくる答えは同じです。

 むしろ、口下手な人が言葉に出来ないことを汲み取ることができることの方が便利かなと感じます。


 ごめんなさい。

 脱線してしまいました。



 目の前の枢機卿猊下の話に戻しますと、わたくしが枢機卿猊下の心の声を聞いたとしても、その内容が難しすぎてよくわからないので、結局は沢山質問して、沢山答えてもらう会話形式になってしまうということが言いたかったのです。



 ワイト国教会が聖女を召喚した理由は、魔王を封印するためだそうです。


 魔王は勇者によって弱らせられますが、封印できるのは聖女の魔法だけとのこと。


 勇者も召喚するのか聞いてみたところ、勇者は聖女が選ぶそうです。

 複数人選んで力を合わせて戦ってもよいようです。



「枢機卿猊下、わたくしは魔法は使えません」


 枢機卿猊下に正直にお伝えしました。

 わたくしは、ロスシュリの祝福を授かっていますが、魔法は使えないのです。


 枢機卿猊下は、目をまん丸にして、「私のことはアンソニーと呼んでください」とおっしゃいました。


 そしてアンソニーは「魔法のことについては神様に聞いてみましょう」といって、わたくしを祈りの間に連れて行ってくれました。


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