【本編最終話】アンリ・ワイト16才、俺様王子のハッピーエンド
アリスに僕のハッピーエンドについて書いてくれって、頼まれたよ。
僕も一回ちゃんと整理しておきたかったから、ありのままに書くことにするよ。
僕、アンリ・ワイトは11才の時に、プライドをズタズタにされた。
予言の書を読んで、僕の策は悉く失敗することを知ったんだ。
それまで、頭脳明晰とかチヤホヤされて、自分を過大評価していたことを思い知らされたよ。
言われたことを理解する明晰さと、施策を成功させる明晰さは別物で、
僕には前者しかなかった。
だから、僕は支援に徹した。
僕に振り回されなかったアリスとノアとアンソニーは、魔王領の問題を早期解決してしまった。
エドワードは予言の書ほど待たずにアリスと再会できた。
物語は、それが全てだね。
そうそう。今日の主題は、僕のハッピーエンドについてだったね。
僕の仲間は、僕が想い人のユージェニー・ロスシュリ姫を手に入れるのにも協力してくれたよ。
12才の時に、ワイト大聖堂に設置された水鏡でユージェニー姫を覗き見て、僕は大笑いした。
すっごくポジティブで、自信満々すぎて、大失敗しているのに気付けていないタイプ。
そういうところが、かわいいんだ。
徹底したバカっぽさで、僕を心の底から笑わせてくれる唯一の人だよ。
守ってあげたくなる。
この人は、予言の書の聖女だってすぐにわかったよ。
マナーは酷い、頭は悪い、魔法も下手、努力が嫌いで、浮気者。
王太子の妃には、全然向かない人だ。
聖女だったらダメだっただろうね。
現実では、幸いにも、隣国王女だからね。
彼女が「戦神の加護」を持っていないことが父王にバレなければ、何一つ障害はないんだ。
最初に予言の書を読んだとき、俺様王子が聖女に求めたものは、「魅了無効」のパッシブスキルなんだと思った。
聖女は「魅了」を使うけど、言い換えると、くっそヘタクソな「テイム」なんだよ。
僕と聖女は、同じ「愛の女神」の祝福を受けているからね。
多分、聖女も下位スキルは「魔法」で上位スキルは「テイム」だろうね。
そしてパッシブスキル「魅了無効」を持っているハズだ。
予言の書の僕は、父にも僕にも操れない人を結婚相手に望んだんだと思った。
愛の女神のいとし子は、魅了体質でね。
いろんなものに好かれるんだ。
でも、傍に置くなら、自由意志を持っている人物がいい。
僕のことが嫌いなら嫌いでいいんだ。
魅了の影響を受けていない素の自分で接してくれる人ならね。
そういう意味で、アリスやノアは、別の神様のいとし子だから、魅了無効ではないけど、耐性がある。
そんな彼らが僕に協力してくれるとすれば、それは彼らの自由意志って感じがして、嬉しいんだ。
だから、予言の書でも二人は僕の大事な友達だったと思う。
ノアには「耐性があるなしに関わらず、君の人となりを好む人は多いと思うし、もっと自分に自信を持っていいと思うよ」と言われたことがある。
僕も今は自分の魅了体質についてあまり深く考えないようにしている。
そういうわけで、最初の頃は、予言の書の僕は聖女の持つ「パッシブスキル」に固執していたんだと思ったんだ。
僕は聖女の魅了に掛からないし、聖女は僕の魅了に掛からない。
でも、蓋を開けたら、違ってた。
普通にバカっぽい彼女が大好きになった。
聖女が魅了を掛けた相手は誰一人聖女を好きにならなかったのに、聖女の魅了が効かない僕が彼女を好きになるとは、皮肉だね。
アリスは、ユージェニー姫の正体を教えてくれなかったけれど、婚約を勧めてくれた。
すごく感謝してる。
予言の書では、婚約の打診は2回断られるって書いていたから、まずは文通でもして交流を続け、気に入らなかったら3回目の打診をしなければいいやってぐらいの軽い気持ちで申し込んだんだけど……
初回の打診で受けてくれて、正直ちょっと焦ったってのは、内緒にしといてね。
兎も角も、僕の目標は、ワイト国に到着した姫に浮気されないで、僕を好きになってもらうことだよ。
だから、僕は、予言の書に記された「僕以外のフラグ」をできる限り姫が傷つかない方法でバッキバキに折って行くことにした。
アリスには、俺様王子が腹黒王子にクラスアップしてるって、言われたよ。
くくくっ。
まず最初のフラグは、僕のフラグ。
入学式に学園の門の前で転ぶ聖女を助け起こすってやつだね。
聖女がいなくなったから、困ったよ。
ひとまず元聖女のアリスに頼んでズッコケる練習をしてもらった。
アリスは、ステップが瞬間移動に見えるほど足元は確かだから、コケるのが難しいと苦戦してた。
それに、ズッコケが成功しそうになるとエドワードが反射的に抱きかかえちゃうから困ってた。
結局、アリスとエドワードがイチャイチャしているのを見せつけられただけだった気がする。
本番は、アリスがズッコケを仕掛ける前に、義姉のユージェニー姫を校門までエスコートしてたエドワードが姫を僕の腕の中に放り投げてくれて、上手く行ったよ。
エドワードは、姫を僕に向かって放り投げた後、双子のノアにエスコートされてたアリスの手を剥して、ちゃっかり自分の腕に絡めてたよ。
彼は僕より腹黒だと思うね。
予言の書の中で、「氷の王子」なんて呼ばれていたけど、自分で「アリスがいないと不機嫌な王子」と公言して憚らないから、現実世界で彼のことを「氷の王子」と呼ぶ人は、いないよ。
割とよく笑うしね。
ユージェニー姫は、エドワードがエスコートするアリスを見て「なんでエディはモブなんてエスコートしてんの?」と呟いた。
アリスが神様に聞いてくれたんだけど、モブってのは「取るに足らない存在とのこと」のことらしい。
隣国の王子であるエドワードが入学式でエスコートしていた令嬢は、他の人にとって「注目すべき存在」で、ものすごく視線を集めていたのに、ズレまくってて笑えるよね。
最初のフラグ破壊は、赤髪でヘーゼルの瞳の脳筋神殿騎士ウィリアムだったよ。
校門でユージェニー姫は、聖女がいないことに気付いた。
聖女がいないのに、護衛の神殿騎士がいないのは当然だよね?
ごく自然に片付いた。
次のフラグ破壊は、インテリ眼鏡のアイザック。
アイザックは魔道具部をつくらないことでフラグ消滅したよ。
最近、魔王領からの依頼が増えていることもあって、そんなヒマはないらしい。
この時は姫がアイザックに突撃したみたいだね。
それから何か様子がおかしかったみたいで、ワイトの別邸から姫と一緒に学園に通うエドワードに「王子様からのデコチュウ」を発動させるように勧められて、実行したら、忘れてくれた。
よかった。よかった。
その次は、商家の富豪子息ローレンと妖艶な魔王ノア。
平民になって責務から解き放たれたローレンは学園に入学しなかった。
その代わりに伯爵令息になったノアが学園に入学した。
それ自体は問題なかったんだけど、別の問題が生じたんだよね~。
姫の中で「子猫救出作戦」が重要イベントだったらしく、梯子を小脇に抱えてウロウロするユージェニー姫が多くの人に目撃されたんだ。
エドワードが義姉の奇行に頭を抱えていたよ。
アリスは、梯子を使おうとしているだけマシだとエドワードを慰めていた。
姫がガシガシ木登りしてたら、ドン引きだからね。
どうやらユージェニー姫は、木の上で震える子猫を発見するまでその奇行を続ける覚悟があるってことが分かって……
困った僕たちは、猛烈に嫌がるノアをネコに変身させて、安全そうな木の上で待機させた。
ノアは割と早い段階で魂の器を手に入れたからなのか、変身が何かよくわかっていなかったよ。
器から魂を出して、小さい塊になって「にゃーにゃー」言ってみてた。
樹の下からだとネコに見えるかもね?
ノアの空の器は、アリスとエドワードが学園まで徒歩圏内の別邸で預かってくれて助かった。
姫がノアの魂を見つけ、木に登り終えたのを確認したノアは、木から飛び降りて、梯子を倒して、僕を呼びに来た。
僕は颯爽と助けに行ったんだけど、姫がずーーーーっと号泣していて、困ってとりあえず宮殿の庭で話を聞いたら、どうやら猫と仲良くならないと、魔王を助けられないと心配して泣いているようだったから、魔王領へ連れて行って、それが余計なお世話なことを教えてあげた。
そして、それから姫は宮殿で暮らすようになった。
最後のフラグ破壊は、氷の王子エドワードだったんだけど……
エドワードは、予言の書を読んだあと、芝居には絶対に乗らないと決めているんだ。
表も裏も、彼はアリス至上主義を貫き通す!って。
だから、こればっかりはどうしようもなくて、アリスが別邸を訪問すると言っていた日に、姫を連れて行って、現実を見せた。
可哀そうではあったけど、まぁ、立ち直ってくれると思う。
ほとんど何の障害もなく、想い人が王子妃の居室で暮らし始めたわけだから、これが僕のハッピーエンドだよ。
あとは、姫が僕のことを本当に好きになってくれるように、努力するよ。
これで乙女ゲームの攻略対象たちにとってのハッピーエンディングを書くという目標が達成されたので、本編完了です。
転生悪役令嬢視点のエンディング、インテリ眼鏡と商家の富豪令息のハッピーエンディング、エドワードの7年間、ノアの攻略の証など、後日談&種明かしが10篇ほどあります。
よかったら読んでみてください。
次の目標は後日談なしでスッキリ話を完結させることです。




