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ななしの聖女14才、聖女アリスのハッピーエンド

 アンソニーと神様の養子になり、マイルズ伯爵家に入るにあたって、ずっと名無しの聖女だったわたくしにも還俗した後の名前が必要になりました。


 表に出ることはないと思っておりましたから、ずっと名無しのまま通すつもりだったのですが、俗世で「聖女」と呼ばれるわけにはまいりません。

 困りました。


 わたくし、異世界から召喚された魂に「ユージェニー」という名前を取られてしまってからずっと新たな名前を持つことを受け入れられないでおりました。


 どうか、勘違いしないでくださいませね。

 大聖堂に来てからこれまで、不幸なことは何一つありませんのよ。

 アンソニー、ヴィヴィアン、ノアと出会えて、家族になれて、幸せです。

 大聖堂の皆様もとても大事にしてくれました。

 アンリやアイザックのような友人にも恵まれました。

 そして、よく笑うようになりました。



 それでも、やっぱり、わたくしから全てを奪った異世界の魂を許しきれておりませんの。

 ユージェニー・ロスシュリの体や立場を取り戻したいと思っているわけではありませんわ。

 わたくしは今の生活が好き。これは確か。


 ただ、わたくしが新しい名前を受け入れてしまったら、本当にロスシュリの家族との縁が断ち切れてしまう気がして、怖かったのです。


 そんなわたくしに、アンソニーが提案してくれました。ロスシュリ国の両陛下にマイルズ伯爵が引き取ることになった「神の子」の名付け親になってほしいと、お願いしてみようって。


 それで、わたくし自らもお願いの手紙を添えました。


「特殊な事情で4年前からワイト大聖堂で育てられておりましたが、この度、枢機卿猊下に引き取って頂き、共に還俗することになりました。これまで位階名で呼ばれておりました故、まだ名前を持ちません。許されるならば両陛下に名付け親になって頂きたく存じます」


 この内容でロスシュリのお父様とお母様が気付いてくれるか分かりませんでした。


 「神の子」というのは、孤児を暗喩することもあるため、他国の王族にいきなり名前をつけろなんて何と厚かましい子だと捨て置かれるかもしれず、不安でした。


 でも、義弟のエドワードが名前の書かれた手紙を持ってマイルズ伯爵邸を直接訪ねてくれたことで、わたくしも多くを汲み取りました。


 震える手で封を切り名前を見て涙を流すわたくしと、「父上と母上と私の三人で一生懸命に考えた名前です」と言葉をかけるエドワード。


 アンソニーとヴィヴィアンとノアは、わたくしの額にそれぞれキスを落とした後、わたくしとエドワードを二人きりにしてくれました。



 3人が部屋を出るなり、エドワードに駆け寄って、抱き着いてしまいました。


 そしてちゃんと言いました。


「大好きよ。エドワード」


 ユージェニーだった頃のわたくしには言えなかった言葉です。


 エドワードは養子です。ロスシュリの祝福を授かった実子がいる王家が男児の養子を引き取った理由は、彼もロスシュリの祝福を授かった子供だからでした。


 生家も高位貴族ではありましたが、ロスシュリ王家との血のつながりはごくわずかです。

 それでも王族のように嘘を見抜いている様子があり、そしてそれ以上に何かに苦しんで、人間に対して不信感を抱く我が子を心配した生みのご両親がロスシュリ王族に相談して、祝福が発覚しました。


 祝福の内容は「嘘を見分けられる」ではなく「心が読める」です。

 子供には重すぎることも起こりえます。


 それでロスシュリの王と王妃は、代々同じ能力を持つ子供を育ててきた我が家で、彼を我が子と共に育てることにしたのです。


 当時5才だったわたくしはワケが分かっておりませんでした。

 詳しい事情を知ったのは予言の書を作った時です。


 わたくしは彼を嫌っているわけではありませんでした。

 それはわたくしの心が読める彼にも分かっていたハズです。

 わたくしだって彼がわたくしのことを嫌っていないことを知っていました。


 それでも、わたくしは、いえ、わたくしたちは、ずっとどこか他人行儀な距離感のままでした。


 わたくしはエドワードに対してどうしてもう少し親しみを持った接し方ができなかったのか?

 ずっと後悔していました。


 神様にしては愛と煩悩に満ち溢れたヴィヴィアン、ひたすらに子煩悩でかわいがってくれるアンソニー、魔王のくせに人懐っこくて面倒見の良いノアと過ごす時、ロスシュリの両親にもっと甘えたらよかったと、ずっと後悔していました。


 もう後悔はしたくありません。だからちゃんと言いました。

 何度も繰り返して。


「エドワード、大好きよ」


 わたくしが何回目かにそういったとき、エドワードはとうとう泣いてしまいました。

 そして、ちゃんと言ってくれました。


「私も大好きだよ。アリス」


 はじめて新しい名前を呼ばれた瞬間です。


 うん。

 しっくりきます。


 わたくしは嬉しくって、またエドワードにぎゅーっと抱き着きました。


 エドワードは一瞬だけぎゅっと抱きしめ返してくれたあと、わたくしを剥してくちびるにチュッとキスをしてくれました。


 わたくしがびっくりしていると、


「ポッとでの男にデコチューで先を越されたのは、くやしいからね」


 といって、笑いました。


 エドワードの笑顔なんて、初めて見ました。


 きゃ~。

 そういう好き?

 いえ、わたくしも、そういう好きですけれどもね。


 やだ、どうしましょう。

 わたくし、ヴィヴィアンがアンソニーに襲い掛かった気持ちがちょっとだけ分かってしまったかもしれません。


 いけません。

 兄神様をして「お花畑キュン中毒神」と言わしめたヴィヴィアンに似てきてしまいましたわ。


 まぁ、やだ、はしたない。


 ふふふ。


 ん?

 あぁぁぁ?

 ロスシュリの城で暮らさなくなって、すっかり習慣が抜けてしまっていましたけれども、今考えたこと、全部読まれていますわよね?


 きゃ~~~。


 エドワードは大笑いしながらわたくしを優しく抱きしめて、背中をポンポンしてなだめようとしてくれましたわ。


 逆にもっとドキドキしただけでしてよ。


 それにわたくし、エドワードが笑うと、嬉しい気持ちがどんどん溢れてきます。


 これがわたくし、アリス・マイルズのハッピーエンドです。



 予言の書のわたくし、ユージェニー・ロスシュリ姫は、ワイト国からの3回目の婚約の打診に承諾しています。


 それは、おそらく、魔王ノアに協力するためです。


 予言書のわたくしは、ロスシュリ王族の一員として、魔王領の民が健やかに暮らせるようにしたいというノアに共感したのでしょう。


 ロスシュリから一つ国を挟んだ先の魔王領に通いやすいようにワイト国に活動拠点を持つための婚約だと思います。


 ワイト王子アンリとは、わたくしがアンリとの婚約を利用してワイトの別邸から魔王領へ通うのを見逃す代わりに、アンリが聖女を王子妃に育てるのに協力するという「協定」があったのだと思います。


 だから、聖女が王子妃に早く認められるように、悪役令嬢は聖女を瘴気祓いが必要なダンジョンに放り込んだりしたし、ノアも自分が取り込んだ瘴気を聖女に祓わせたりして、それなりに協力した。


 でも、ノアも、アンソニーも、わたくしも、聖女の実績づくりに想定より時間がかかるので、途中で抜けさせてもらったのだと思います。


 それが王子アンリによる悪役令嬢ユージェニーの婚約破棄。


 そして、わたくしは、ワイト国にいる理由を失い、魔王城へ向かった。


 ワイトまでわたくしを迎えに来てくれたエドワードは、わたくしが魔王城にいると聞いて、同じく魔王城に向かう聖女一向と行動を共にした。



 いずれにせよ、予言書では、聖女の成長を待ちすぎて、魔王ノアがアイザックとローレンの協力を得られるタイミングが、学園の卒業直前になってしまっています。



 現実では、早いうちからアイザックとローレンの協力を得て、前倒しでノアの魔王領の瘴気問題が解決し、アンソニーは家族を持ち、わたくしは名前を貰って、エドワードと再会できたので、文句なしのハッピーエンドですわ。



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