第8話 めっちゃいきなりだけど世界樹復活!
「森の中心部……こんなデカい木があったのか。全然知らなかった」
ダイナは毒霧竜の亡骸を処分した次の日、森の中心部へやってきた。
ヴィスタの命令で来たわけだが、既にその右手には魔剣を持っているところを見ると、戦闘を前提に選出されたのだろう。
とはいえ。
そう、とはいえ、と続けるが、毒霧竜の毒は人間だけでなく他の生物にも影響を与える。
スタミナをゴリゴリ削るこの毒に耐えられる生物と言うのも少なく、言い換えればモンスターと言う脅威が言うほど人類に影響していないのだ。
まあ、もしも毒霧竜の毒がモンスターに影響がないとなれば、スタミナを削られた人間は遭遇したらその時点で死亡確定であり、そもそも他のモンスターに効かない毒を体内で作る意味もないので、現状としては『そんなもの』である。
要するに、森の中を散策するにしても、『高ランク冒険者』で戦術する必要はないということだ。
しかし、現実としてダイナは、装備をしっかりして森の中心部に到達。
そこには開けた土地があり、中央に、大樹が存在する。
「周囲の木と比べてもスケールが圧倒的だな。時代によっては信仰の対象になるかもなぁ。まあ、マスターに言われたことをさっさとやるか」
さらに歩いて、大樹に近づく。
ただ、近づけば近づくほど、大樹は枯れているという現実を見せてくる。
「あの木の根元に大きな穴があって、そこが実質的な『ダンジョン』になってるって話か。マスターの話じゃなかったら半信半疑どころじゃねえけど……」
大樹に近づいて根の方に行くと……そこには、ヴィスタからの言葉の通り、空洞への入り口がある。
「……中は明るいな。何かの植物が光ってる」
ダイナは空洞の中に入っていく。
「さてと、とりあえず目的のものを探さないとな。ん?」
ダイナが何かに反応。
通路の全てが木製の中、十字路に差し掛かったが、曲がり角から何かが出てきた。
「なんか、木の根っこが意志を持ちました。ってところか。トレント……最近、あんまり戦った事ねえけどな。真っ黒なのが気になるけど……」
魔剣を横に一振り。
それだけで、剣から魔力が刃の形となって放出され、トレントは真っ二つになった。
「魔石が遺された。じゃあ違うな」
魔石の回収はするのだが、まだ何も終わっていないといった様子でサクサク進んでいく。
「これも違う……こいつも違う……ダメだな……違う……んー……んー……」
軽く走りながら――といってもダイナ基準だが――進んでいき、黒いトレントたちを倒していくダイナ。
魔石が出てくるたびに違う違うと連呼して、そのまま進む。
……まあ、喋るのが面倒になってきているのが目に見えてきたが、単純作業の繰り返しなので当然と言えば当然。
「んー……おっ!」
魔石以外が遺されたのか、表情を変える。
「木材が出てきた。ただ……やっぱり真っ黒だな。ただ、手ごろな大きさだし、こいつを持って帰ろう」
スーツの裏から布を取り出すと、真っ黒の木材を包んでいく。
……のはいいのだが、明らかにスーツの裏側にあったとは思えないほど大きいのだが、それはそれでどうなっているのやら。
「よし、これを持って帰るか」
満足そうな笑みを浮かべて、ダイナは帰っていった。
★
「これに神聖属性を?」
「ああ、よろしく頼む」
ナズズ村跡地に戻ってきたダイナは、セラを見つけると近くで袋を開く。
真っ黒の木材であり、あまり建材にも使えなさそうだが……。
「なるほど……」
セラが指をパチンと鳴らす。
すると、木材の下に魔法陣が出現し、光があふれる。
その光は真っ黒の木材を浄化しているようで、少しずつ普通の木材の色に変わっていく。
「おお……戻った」
「これを何に?」
「ええとな……」
木材を持ちあげると、上に放り投げる。
右手に魔剣を出現させると、一閃。
それだけで、木材は『木の剣』になった。
……もうここまでくると物理的によくわからない。
「戦闘に耐えるものには見えませんね」
「俺も何に使うのかよくわからんな。まあ、マスターに言われた場所に突き刺すか」
現在、ナズズ村跡地には住宅街が存在し、その別の地区には職人地帯が存在する。
主にダイナがやっていた作業を割り振ったものになっており、人も初期の二百人の三倍以上になっている。
ちょっとした町。という言葉の通りだ。
そして、『広場』がある。
開けた場所が用意されて、そこを広場として扱うことにした。
その中央にダイナは立つ。
「ええと……ここだな」
紙束に描かれた地図を見ながら、ダイナは位置を調節。
そのまま、木の剣の先端を地面に突き刺した。
次の瞬間、突き刺した地面から光が放たれる。
「な……なんだ!?」
ダイナは驚いた様子で剣から離れる。
木の剣に魔力が流れ込み、神秘的な装飾がいくつも刻まれる。
数秒で、ただの木の剣が、相当な業物と呼べるものに変わった。
「……ダイナ。これは一体」
「いや、俺、何も聞いてねえぞ……!?」
ダイナを始め、魔力感知に優れたものは全員、何かに反応。
森の中心部に視線が動いた。
何かが起ころうとしている。
森の中心。
そこには、ダイナが入った大樹がある。
しかし、枯れていたはずで、大樹ではあるが、大森林と呼ばれる森の中では存在感を発揮しないはずだった。
だが……。
「な、なぁ。なんだ、あのでかい木」
ナズズ村跡地からでもその存在を確認できるほどの巨大な木。
「あの位置。間違いない。俺がマスターに言われて向かった大樹があった場所だ」
「大樹が……ただ、あの成長の仕方は妙ですね」
大きくなった木は綺麗な緑葉を付けて、その存在感を大きくしていく。
あっという間に、綺麗な大樹が出来上がった。
「……!」
ダイナの驚愕は続く。
ここにいるものの中では最も魔力感知性能が高いのがダイナだが……彼の感知範囲から、『毒霧竜の毒が消え去っていく』のだ。
森の中に存在する魔力を吸って、いつまでも漂う毒の霧。
それが消滅していく。
「なんだ。毒がなくなって……」
「あの木が周囲の魔力を変質させています。毒がなくなったのはその影響ですね」
「だが、毒霧竜の霧の根本的な解決に関しては、マスターが書いたどの資料にも対策方法が書かれてなかった」
「要するに、あの大樹を利用することを前提にしているのでしょう。そして……見てください」
「……うわ。畑に植えてた野菜が、全部実ってやがる」
特殊な肥料を使ったのは間違いない。
通常のものよりも食物になるのが速いのは事実。
だが、あまりにも急成長。
「人にも、植物にも、ありとあらゆる恩恵を与える。間違いないですね。あれは……『ユグドラシル』……『世界樹』とも称される伝説の木です」
「……ユグドラシル。ねぇ」
以前、ダイナはヴィスタに聞いたことがある。
何故、毒の霧が存在する森の中に拠点を作るのか。
それに対するヴィスタの返答は、『後で森の外から森の中に拠点を移すのが面倒だから』だった。
ダイナの魔力感知は範囲が広く。わかる。
あの世界樹から放たれるあまりにも上質な魔力は、森の中だけ。
森の外には一切漏れておらず、境界線でとどまっている。
「……確かに、こりゃマスターが相手でも半信半疑だな」
「何か?」
「いや、こっちの話。しかし……気のせいじゃねえな。なんかいつもより体調がいい」
「私もです。それに、皆さんもそう感じている様子。あの世界樹……というか、その復活方法もまた特殊ですね」
「ああ……そうだな」
大樹の根元のダンジョンから木材を獲得し、神聖属性を使って浄化して木の剣を作って、地面に突き刺す。
何も知らずにたどり着けるものではない。
「そういや、マスターはどうなってんだろうな」
「見に行きましょう」
ダイナとセラはヴィスタの小屋に向かって歩く。
ドアから入って、すぐ左の扉を開けた。
そこには……。
「……『宝剣祖ユグドラシル』が復活したか……あ、ダイナ。セラ、おかえり」
杖を使わずに立ったヴィスタが、窓から広場を眺めている。
「ま、マスター! 杖を使わずに立てるようになったのか!?」
「……二十秒だけな」
「短っ!」
ヴィスタはダイナの端的なツッコミをスルーして、ベッドに横になった。
「ここまで優れた環境で、自重を支えられるのが二十秒だけ……貧弱というか、なんというか……」
「呼吸で体に入ってきたエネルギーが全部脳みそに向かってるんだよ。だから頭は今まで以上に冴えてる。でも体は動きません」
「マスターの脳が今まで以上に冴えてる……って、今まではどれくらいだったんだ?」
「……今までは最大値の百万分の一だったのが、今は九十八万分の一ってところかな」
「あんなエグイ予測ばっかりしておいて百万分の一というのもどうかと思いますが」
「だって脳みそに行く栄養が全然足りないんだもん」
燃費が悪いというよりエネルギー経路が悪い。
というか、呼吸に関わる内臓が弱すぎて、常人よりも余計に息が吸えないし吐けないのだ。
だからこそ世界樹があるという環境であってもわけのわからん話になるのである。
「てか誤差の範囲だな……俺らからすると何が変わったのか全然わからんだろ」
「でしょうね……」
今までもよくわからなかったのだ。多分これからもよくわからない。
それは確実だ。
「……あ、そうそう、この数時間後に、神聖国穏健派の偉い人が来るから、対応しておいてね。予定表は書いておくから」
「「はっ?」」