第64話 敵貴族に倫理はない。味方天使は性悪。これでどうしろというのだろう。
船で近づいたときに大砲を向けたら台風が帰ってきた。
こういう経験をしたものが、再度、船を出さなければならない。
そうなった時、どんなふうに来るだろうか。
答えはとても単純だ。
「今回は普通に来てるな」
「これでまた大砲を向けてきたら頭の構造を疑いますよ」
「でも、同じ過ちを犯しても反省しなさそうな国家が南のほうにあるからなぁ」
「それは……否定しません」
港町ミーミルでは、再びやってきたゴッズゴルドの船を見て、ダイナとセラがため息を押し殺していた。
ちなみに、船の型に関しては前回と同じであり、大型の船だが、それを何隻も作れる技術力を持っているのがわかる。
船が規定位置に到着し、タラップを自前で用意しているのか、魔法で浮かせて移動させて、しっかりと地面において固定させる。
船の中から、赤い髪の中年男性が姿を現す。
太った体に質の高い服でまとっており、他者を見下す視線をこちらに向けている。
「世界樹に巣くう寄生虫ども、神公国ゴッズゴルド、ワルドテラス神爵家の八男、リグラム・ワルドテラスが殲滅してくれる!」
おおむね、ヴィスタが言っていた通りのセリフが口から出てきた。
とはいえ、『独占』がスローガンなのだから、世界中にある特別な物は全て自分たちのものだと思っているのだろう。
「無駄な抵抗はするな。世界樹を穢した罪は重い。一人ずつ、我が爆炎の魔法で焼き殺してくれる!」
「まあ、とりあえず敵ということでよさそうですね」
セラが指先を船に向けると、レーザーが出てきた。
それは一直線に鉄素材の装甲をたやすく貫き、船の『火薬庫』に直撃した。
……で、爆発する船を見ながら、港町の住民は思った。
『そうだった。セラはあのヴィスタの忠臣だった。遠慮ねえ』と。
★
「き、貴様らは本当に人間か! いきなり船の火薬庫を爆発させるなど、悪魔に魂を売った罪人同然! ただ、よく見れば良い体をしているなぁ。おい、その場で裸になり、跪き、私への隷属を誓え。そうすれば――」
「かわいそうに。船が沈んで錯乱しているんですね」
「そんなセリフを沈めたやつが言う時代か。世も末だな」
熾天使であるセラの美貌とスタイルは圧倒的であり、上半身は露出が少ないが胸は存在を主張し、下半身は股下がほぼないマイクロミニスカートとパンプスだけだ。
スーツ姿はとても似合っていて、見れば男を魅了するのはわかる。
……ただ、現実として魅了するのかというとそうでもなく、セラの似顔絵とヴィスタの忠臣であるという事実は当然ユグシティに広まっているので、彼女が姿を現すと顔が真っ青になるものも多いのも事実だが。
「ふざけるなこのゴミがああああっ!」
怒鳴り散らすリグラム。
彼の背後には乗組員が勢ぞろいしており、一応武力は確保できていると思っているのか、まだまだ強気である。
そんなリグラムに、セラはまた指先を向けた。
「ヒッ――」
先ほどひどい目にあったので、また何かあるのではないかとおびえている。
だが、彼の後ろにいた魔術師たちが杖を構えると、彼ら全員を覆いつくす結界が出現する。
それを見て、リグラムは喜色を浮かべた。
「フハハハハッ! この結界はワルドテラス家に伝わる防御魔法! この結界を前に、すべての魔法は無力! だが、この結界は内側からならいくらでも攻撃を通せる優れもの。これがあれば――」
ものすごく太いレーザーが放たれて、結界に直撃する。
ただ、結界の質が高いのか、レーザーは結界にあたると霧散していく。
「ヒッ! ……ふ、ふぅ。これでわかったか。貴様の魔法は私には通じない!」
――ピキッ
「え?」
――ピキピキッ
「はっ、ば、バカな……」
――ピキピキビキビキッ
「うあああああっ! ば、バカな。この結界が敗れるというのか! ふざけるな!」
喚いているリグラムだが……。
「なあ、セラ。ヒビなんて入ってないよな」
「入れてませんよ? 『入れた音』は出していますが」
「だよな……」
そう、セラは結界を割ってはいない。
だが、レーザーの効果なのか、ヒビが入っている音がどんどん大きく聞こえるようになっているのだ。
悪趣味にもほどがある。
ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキッ!
「いやあああああああああああああああっ! ああああああああああああっ! やめろおおおおおおっ! この結界を割るのをやめろおおおおおおおおおおっ!」
リグラム絶叫。
「別に結界を割っているわけではありませんから、やめませんよ」
「鬼か」
「天使です」
恍惚とした笑みすら浮かべているセラを見ながら、ダイナはツッコミを入れる。
まあ、最悪の返答が帰ってきたが。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……――ぁ」
リグラム。気絶。
そのまま地面に倒れた。
すると、レーザーは止まり、傷一つない結界が姿を現した。
「あははははは! あははははは! 無様ですねぇ」
「なあセラ。何かあったのか? キャラ変わってね?」
「え、私の本質はこんな感じですよ?」
「知らんかった」
時々黒いのが漏れているのはダイナをはじめとして全員が気が付いていたが、ここまで性格が悪いとは思っていなかった。
「はぁ。とりあえず、牢屋に入れるか」
「そうですね。全員捕らえてぶち込みましょう」
前回は港に誰もおりてこなかったので、誰も捕縛していないのだ。
そのため、今回は捕縛します。




