第62話 こちらに大砲を向けるのならこっちは台風を向けるからな!
港町ミーミル。
現場の人間として超スペックと言えるダイナが疲労を感じるほどの速度で仕上げたもので、その規模はなかなか大きい。
大型の船にも小さな船にも対応しており、多種多様なタラップも用意され、『まだ船が来てもいない』というのに、船を使った職業に就く者たちにとって至れり尽くせりな環境だ。
ただし、まだ町と言っても、ヴィスタが選んだ最低限の職員が役所で書類を作っている程度のものであり、『体裁だけは整えました』と言えるものだ。
まだ王国とも神聖国とも連携できていないので、ある意味当然だろう。
形だけは整ったが、それ以外はまだまだ。
それが、この港町ミーミルの実態だ。
「……なんか、めっちゃデカい船が見えるな」
「金色の王冠のエンブレムの旗……ゴッズゴルドの国旗ですね」
ダイナとセラはそんな港町に来ていた。
そして、海に浮かぶ巨大な船を見ている。
海運は使っているが発展はしていない神聖国や王国とは違い、本格的な船だ。
「……なあ、気のせいか? 甲板に大砲を準備してるようにも見えるけど」
「気のせいではないでしょうね。私にも大砲のように見えます」
そう、船では乗組員たちがせっせと大砲を用意しているのだ。
「どういう計画だと思う?」
「目算ですが、一般的に知られている魔法の射程圏外です。その距離から一方的に大砲の球を打ち込んで港町を壊滅させて乗り込む。その後はここを拠点にして、世界樹の力を使う……そんな筋書きでは?」
「だよなぁ……俺もそんな風に感じるけど、もし大砲を撃ってきたらどうする?」
「十倍の速度で投げ返します」
「パワフルだねぇ……」
大砲を向けられていても暢気なものだ。
というより、普通の物理学を用いた兵器に対して、もはや何も思わないレベルに達しているともいえる。
主張もせず、相手の言い分も聞かず、一方的に武力で壊滅させて乗り込むというのは、外交がどうの以前の問題だ。
「で、世界樹が青く輝いてるよな。どう思う?」
「既視感がありますね」
「俺もあるわ。結構前にヤバい事があった気がするけどな……あ、天候が悪くなってきた」
よく晴れた雲一つない青空だったのに、だんだん雲が出てきて、空を覆い隠していく。
しかも、めちゃくちゃ急速に。
「あ、降り始めてきたな」
「そうですね。港町の上はものすごく晴れているのに、船の上周辺の海域だけ降り始めてますね」
「……風、出てきたな」
「彼らにとっては向かい風になる強風ですね。帆なんて張っていたらひとたまりもありませんよ」
「あいつら張ってるけど」
「じゃあひとたまりもありませんね」
……で。
「あ、台風になったな」
「豪雨と強風。確かに台風ですね。世界樹の葉が輝いているので、おそらくその影響だと向こうにはバレているでしょうが……」
「灸を据えるには十分か? まあ、少なくとも話し合いの場にはつけよっていうメッセージにはなったか……大丈夫かな。沈み始めてるように見えるけど」
「大丈夫でしょう。脱出用ボートくらいは用意しているはずです」
「沈むんかい」
……というわけで、大砲を向けてきた船は、台風にやられて沈んでいった。
それを、緊張感のない様子で二人はこう思っていた。
『あーあ、可愛そうに』と。




