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第58話 ラータテール・ルスマナード

「そういえばさ……もぎゅもぎゅ……あの真っ黒になったコンロだけどさ……もぐもぐ……どうやってキレイにするの?」

「食べるか喋るかどっちかにしろ」


 赤市場の役所の屋上。


 UPBBQセットだが、普通に置いておくにはあまりにも邪魔すぎるので屋上に置かれました。

 ラータはその横で別のコンロを置いて、ホットドッグを貪っている。


 ……ちなみに、自分の体の体積の五割に到達しそうな量なのだが、体のどこに入っているのだろうか。先ほどから体格が変わっている気がしないのだが。


「もぐもぐ」

「食べるのかよ」


 この女帝。ぶっちゃけコンロのことはどうでもいいと思っていないか?


「はぁ……で、ルーディ。このコンロをキレイにするのはどういう手順になってるんだ?」

「ベレンゼとダンストン。この町に来ている帝国から来た強硬派の人が船に乗せてきた特殊な素材を使うのが一番早いですね」

「ほう……次善の策は?」

「アルバにある町、『大樹街フレスヴェル』の中央広場に噴水が用意されているので、そこでたまっている水に放り込むことですね。十秒できれいになります」

「何故そっちが最善策にならないんだ?」

「その場で宴会が始まったらうるさいから嫌とのこと」

「なるほど」


 とにかく腕力でどうにかなるというスタイルの帝国民の女帝ともなれば『まあ筋力もすさまじい』のは明白だ。

 明らかに100キロは超えていそうなコンロを担いできたというのだからわかる話である。

 ただ、ヴィスタにとっては迷惑でしかないのだ。


 そして、キレイになったコンロを見て宴会が始まるのはわかる話だ。


 すでにこの赤市場からアルバに向かっている帝国民もいる。

 なんせ、アルバは本当に食料が安い。


 そのため、『真の筋肉を付けに行くんだ!』とアルバに向かっているものが多いのである。

 真の筋肉というのが何なのかは本人にもたぶんわかっていないので放置しよう。


 で、そんな食べ物に目を向けて出発した帝国民も多いので、巨大コンロがきれいになったら間違いなく宴会が勃発する。


 しかも、キレイになる場所であるフレスヴェルで。


 うるさいのなら窓を閉めるなりして防音処置をすればいいのだが、基本的に、貧弱権化であるヴィスタは換気が必須である。

 すでに十分な世界樹による空気がソードハウスの中を満たしているのでは? という意見に関しては、まだまだヴィスタの体の弱さを見くびっているといわざるを得ない。

 ……何なら、世界樹の力が使えるとのことで体調管理のリソースをほかのことに使っているので、ちょっと油断したらすぐに死ねます。


 ……とまぁ。そんな感じで窓を閉められないし、窓が開いたままだと絶対に絡んでくるので、嫌なのだ。


「森を切り開いてそこでパーティーをやらせるのは? 宴会場なんてアルバにないだろうし、これからも使えるとなればそっちでもいい気はするが」


 ただ、八風としては強硬派の連中を利用するより、噴水の水を利用する方がわかりやすいのは事実である。

 そのため、ヴィスタの気分は生け贄にするのが彼の頭の中では決まっているようだ。

 ……そして、そもそも『次善策』として紹介する以上、別にヴィスタも死ぬほど嫌というわけではないのだろう。結局はただの騒音だ。


「今はダイナが重要な工事にかかわっているので、開拓に向いていませんからね……そもそも、森が少なく、平地が多い帝国民は開拓の経験があまりないので、『事故が起こる』そうです」

「……事故。ねぇ」


 否定はしない八風。


「うーん。うううううん……」


 唸っている八風。

 どうしても噴水を使いたいらしい。


「……ん? そういえば、ラータさんは何処に?」


 ルーディが首を傾げた。

 そう、ホットドッグを食べまくっていたバカがいなくなっているのだ。


 ……ちなみに、仮にも一国の王を相手にさん付けで大丈夫なのか。様をつけたりとかは必要なのではないかという意見に関しては、いまさらである。

 威厳もくそもない話だが、『威厳があってもモンスターは減らない』ので、結局はモンスターを倒せる実力こそが重要なのである。

 威厳があってもモンスターから人は守れないが、腕力や実力があれば人を守れる。


 まあ、非常にシンプルな話ではある。適応するのに簡単な話ではないが、ルーティはすぐにさん付けで呼べるところを考えると、納得できるかどうかはともかくとして慣れるのは速いらしい。


「……そういえば、一体どこに」


 あまりいい予感のしない展開である。


 ★


「さて、これからどのように作戦を進めていくかだな」

「『ゴリラ兄弟』の異名を持つあの三兄弟の末っ子がいるのは計算外だったな。作戦が大きく狂うぞ」


 お前らは作戦という言葉を辞書で引け。


 というわけで、用意できた拠点でベレンゼとダンストンは唸っていた。


 身長250センチ体重300キロのアムダが職員として働いていたのを見て、『これからの作戦に不備が生じる』と考えているようだ。


 さすが、祭服の下にシックスパックができている人間は思考が違う。

 ……いや、別に、シックスパックの持ち主をバカにする意図はないのだが。


「たのもー!」


 ドアが破壊され、砂埃が舞い、真っ黒のドレスを着た銀髪美人が姿を現した。


「な、じ、女帝陛下だと!?」

「何故このタイミングで、不思議筋肉女が!」


 ラータって帝国でそんな不名誉な呼び名が付いてるの?

 ……まあ、見た目は細いのに圧倒的な膂力があるので、確かに不思議ではあるが。


「貴方たちがこの町に持ってきたものの中で、物をキレイにするやつがあるはずなんだよ。それを貰いに来た!」


 ストレートすぎるだろ。


「フンッ! そこまで突き止めているのなら、我々の正体も分かっているという訳か」

「当たり前だよ。えーと、どっかの国の何かの人だね!」

「ぐっ、やはり全てバレているか」


 会話成立してる?

 ついでに言えば、『物をキレイにするアイテム』というだけで、『そこまで突き止めているのなら』に続くという文脈もよくわからん。


「というわけで、今すぐ出してもらうよ。コンロをキレイにするのに必要だからね!」

「ただで渡してやるとでも?」

「ふっふっふ……ふーっふっふっふっふっふ!」


 なんか言えや。ごまかし方が幼稚過ぎるだろ。


「そんなごまかし方で出すと思っているのか?」

「さすがに通じないか。そうだねぇ……うーん……(ピコン) この町で手に入る利益を帝国の強硬派のものにするなんて反社会組織に法律を一々適用させてたら、余裕がいくつあっても足りないんだよ! というわけで没収だよ!」

「横暴だ……」


 まだ証拠はないのに。

 というか、一瞬、電球の幻覚が見えたが、『良いことを思いついた!』という表情をしてるわりに強権もいいところだ。

 ……いや、女帝であることを考えれば権力者として申し分ないのだが、ここは四か国の要職者が集まる場所であり、罪の扱い方には気を付けなければならない。


 のだが、ラータにはわからないようだ。

 これでこれまで何とかうまくいっているということは、『本当にやばい地雷を避ける直感』は優れているようだが、それはそれで腹立つ。


「というわけで、キレイにするというアイテムを貰うよ! 安心したまえ、他のものなんてどうでもいいからね!」

「くそっ、女帝だからって調子に乗るな!」

「そっちがその気ならこっちだって容赦しねえぞ!」


 二人とも拳を構える。

 ラータも拳を構える。


 同時に飛び出し……ラータが二人の十倍以上の速度で動いたので、圧倒的な速度差で頭に拳骨をぶち込んで撃沈させた。


「「~~~~っ!」」


 悶絶している二人。


「フハハハハハ! 私に拳で勝とうなんて十年遅いね!」


 ……まあ、確かに、幼いころのラータなら、ベレンゼたちも勝てるかもしれないが、あまりにもヒドイ。


「というわけで、キレイにできるアイテムを貰っていくよ。えーと、どれかなぁ」


 遠慮なく物色を始めるラータ。


 ……大丈夫?


 ★


「……はぁ」

「なあマスター。なんでそんな疲れてるんだ?」

「あー。ちょっと前にさ、『カテゴリーR』について説明したよね」

「ああ。確か、『特定の状況で何をするのかが、本当にその時に決まる』みたいなやつらだろ?」

「そう、行動の選択肢は見えても、どれを選ぶのか全然わからないというモンスターのことだ。まあ、その呼び方は私が勝手につけたものだけどね」

「で、今なんでその話を?」

「女帝はね。頭の中にモンスターを飼っていて、実はコイツが思考に影響を与えているんだ。で、偶然にもコイツがカテゴリーRなんだよ」

「脳って……寄生モンスターってことか?」

「まあ、変なものを食べたことで出来ちゃったみたいなもんだよ。ボコボコにしたから完全に従えているけど」

「頭の中にいるやつをどうやってボコボコにするんだ?」

「こう……自分で自分の頭をボコボコ叩くんだよ」

「ほー……」

「女帝の体って本当によくわからなくてね。レンガを握りつぶせるくらいの力があるんだけど、頑丈さもそれ相応に強いんだ。そして、脳みそもいろいろ凄くてね。外からの衝撃が加わった時、不純物だけがその影響を受けるんだよ」

「どういう構造?」

「私もよくわからない。でまあ、要するに、その寄生モンスターが『もうやめて!』って言ったから、完全に屈服させてるわけで、モンスターの命令に忠実ということはなくなったんだけど、脳にカテゴリーRのモンスターがいるという事実は変わらず……」

「女帝そのものがカテゴリーRになったってことか」

「そういうこと」

「要するに……女帝の行動は、マスターでもその時にならないと分からないってことか」

「一番面倒だけどね」

「……よくわかんねえな」

「私が想定する限り、彼女にしかないケースだからね」

「そうなのか……ただ、あの膂力で、寄生モンスターによって知性を得られていたら厄介極まりねえけどな」

「まるで今の女帝に知性がないかのような言い分だけど、まあ同意しておこう」

「ハハハ……で、これからどうなるんだ?」

「とりあえず、コンロはキレイになるね。後は……その時次第です」

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