第54話【強硬派SIDE】 いざ、赤の市場へ
「レッドエリアの『クリムゾン・クレイドル』は知っているか?」
ルスマナード帝国で最も栄えている『帝都マスルピア』
……おそらく『筋肉郷』が語源と思われる世も末な都市の辺境で、二人の男が話し合っている。
「もちろん。四か国が関わる重要地点。おそらく重要で希少なものが集まる場所だ」
「我々、帝国強硬派は神聖国から流れて長い間、成果は少ない」
「いつの間にか、帝国に派遣されてる中で、幹部が俺たち二人だけになっちまったからな。だが、王国と神聖国の強硬派がミスをした。ここで俺たちが活躍すれば、『上の覚えもよくなる』だろ」
木造の平屋で話しているのは、中年男性と青年。と言ったところか。
どちらも引き締まった体格をしており……というか、帝国に揉まれたら誰だって引き締まった体になるか。
そんな二人が、書類を片手に話し合っている。
「神聖国側も王国側も、強硬派は予算が減らされている。今が、我々が活躍するチャンスだ」
二人は決意を胸にしている。
「で、具体的にどうするんだ?」
が、やることは決まっていない。
なんせ、レッドエリアが解放され、クリムゾン・クレイドルとして運営され、『それが問題なく続きそう』という状態がとんでもない速度で成立したからだ。
帝都にいると、なかなか『ヴィスタ慣れ』することが難しい。
というか、情報の伝達速度が他国と比べてかなり遅いのだ。
いや、馬は他国よりも早いのだが、人の動きが速いだけで情報の動きが遅いのである。
単純に情報を動かす思考能力が低いからということもあるが、それを筋力でどうにかしてしまっている。
そういう事情もあり、ヴィスタに関して『やばい頭脳を持った貧弱野郎』という情報はあるのだが、そのヤバさが『実態をもって』帝都まで届かないのだ。
考えることよりもモンスターを倒すことのほうが帝都の中では情報が広まりやすく、ヴィスタ自身は討伐とは無縁のため、このようなことになる。
そのため、『クリムゾン・クレイドルで実際に何をするのか』は無計画だった。
まあ、できたとしてもそのままモンスターに押しつぶされると思っていたのだから、計画などするわけがない。
「クリムゾン・クレイドルに存在する利益を我々のものにする。というのが最も成果としてわかりやすいだろう」
「そうだな。規模は大きくできないから、その分、嵩張らない重要なものが集まるだろうし」
希少なマジックアイテムやら情報やら、様々な物が集まる。
「それに、輸送なら都合がいい。ダンストン。船の用意はできるか?」
「予算は限られてるけど、なんとかするぜ。ベレンゼさん」
船の用意ということは、言い換えれば大きな運河があるということだ。
神聖国よりも西には縦に伸びた山脈があり、神聖国と帝国の国境に沿って運河となり、それがレッドエリアの逆三角形の河を作っている。
その河は上下に分かれ、上は十五年前に王国を襲った『湖の決戦』における湖につながり、下は帝都まで続いている。
要するに、しっかりした船を作ることができれば、四か国の中で、帝国だけが輸送に優れた船を使って首都に直行できるのだ。
船に関しても、レッドエリアは使えないが、河に隣接する都市なら使えるので、造船技術は皆無ではない。
……皆無ではないのだが、実用的なものを用意するなら神聖国から買った方が安いのは事実である。
そういうわけで、ダンストンという青年がこれからすべきことは、その『神聖国から購入した帝都の港になる船』を使えるようにすることだ。
「……はっ、ま、マズイ。こうしている間にも、船が予約されている可能性がある!」
そう、帝都とレッドエリア間において、『船が重要』なのは、何も強硬派幹部であるベレンゼとダンストンだけではない。
産業規模が大きくないので関われるものは少ないが、『移動速度』において重要なのが船であることは間違いない。
帝国は南から北へ向けて風が強く、海流の上から下だが、風の流れは下から上なので、帆を張れば帝都からかなり早く到着する。
「は、早く確保しろ!」
「はい!」
というわけで、二人は帝都の港に言って、船を管理している役所に言った。
……結論から言うと、めっちゃ余ってた。
当然のことなのだが、無関係の奴が多すぎるのだ。
なんせ、希少で重要なものが集まる……というか、それしか集められないのがクリムゾン・クレイドルだ。
当然、多くの商会にとっては関係ない。
そして、帝国と王国、および帝国と神聖国。という関係だと、クリムゾン・クレイドルを利用せずとも十分交易場所がある。
というわけで、思ったより船は余ってました。
「……なんというか、行動の邪魔になる部分はないんだよなぁ。思ったようにいかないだけで」
「そうっすね……」
他人をうまく動かそうとすごく苦労するが、自分で動く分には何も障害がない。
暗躍者にとってはやれることが多いわりに何の成果も得られないという地獄のような環境だが、これから向かうのはクリムゾン・クレイドルという四か国が入り混じる場所。
「クリムゾン・クレイドルには、四か国が集まる。『利益の調整は帝国民だけの話ではない』のだ。これを言い換えれば、帝国以外の国をうまく動かすことで、間接的に帝国すらも動かせるということだ」
「確かに。とはいえ、他国に入り込んでいた連中と連携が取れないのがキツイですが、その分、成果を出した時の我々の報酬もよくなる。頑張りましょう」
二人の幹部は、赤の市場で向かう。
★
「帝国関係者で、ようやくまともな人が来るね」
「強硬派なのに『まとも』って……」
「帝国だと、本当に帝国のやり方に合わせないと何もできないからね。行動やら思考がそっち向きに矯正されるもんだよ。『郷に入っては郷に従え』というより、郷に叩き直されるって感じだから」
「てか、女帝も『アレ』だしなぁ。会ったことあるけど……世も末か。てか、八風は帝国関係者だよな。まとも枠に入らないのか?」
「まともではあるけど、計画を率先して進める行動力はないからね」
「それは……そうだな」
どこかでそんな会話があったそうな。




