第51話 筋肉帝国の女帝
「クリムゾン・クレイドル。流石にユグシティよりは発展してねえな」
「さすがにあの量が一気に来たら破綻するよ」
リューガと八風は中央に作られた広場に隣接する『クリムゾン・クレイドル議会』の建物で資料を作っていた。
四か国の重要地点であり、入ってくる人間の人数やその分類に関しては報告書が届いている。
なお、ヴィスタが書いた『予想数』の書類と見比べると完全に一致しているので八風の頬が引きつっているが、リューガは慣れているのか表情を変えず書類を作っている。
「アルバとは違い、ヴィスタがすべてを決められるわけではないからな」
「とはいっても、『安全保障』をヴィスタさんが考案する以上、その前提には縛られますけどね」
マックスとルーディが書類を持ちながら会議室に入ってきた。
「ユグシティはシステムをヴィスタが定めて、それに沿って人が入ってくる。都市と森の間に壁も堀もないし、出入りもかなり自由。世界樹の地下ダンジョンという働き口もあるし、まあ、正直に言って『反則レベル』だね」
「ただ、ここはそういう場所じゃねえしなぁ……なんていうんだろ。『希少性』『価値』『流動性』が高い物を集めて、それを四か国で分配するような場所だからな」
「主に、『情報』や『高性能の魔道具』だな」
「国境線を考えると、四か国がまとまれる場所はなかなかありませんからね。ただ、ここも大勢が関われるようにはできていません」
『圧倒的に肥えた土地』と『面積の制約が緩い都市』と『大勢が来ても問題ない産業』という特徴と持っていたユグシティは反則レベルだ。
しかし、ここはその逆。
土地はモンスターに踏み荒らされている上に、結界内部でしか社会を作れず、道の整備もまともにできないので利用できる物資が限られている。
というより、『戦争の最前線』の大地に『希少なものが集まる市場』を作るようなもので、世間的な定石ガン無視である。
「そういや、八風がここを開放しようって言い出した理由は、アルバの世界樹の力を帝国に絡ませたいからだよな。流石に大量の食糧をアルバからここに持ってくるのは無理だと思うけど、そこはどうなんだ?」
「ヴィスタと交渉して、世界樹の力が少し入った『種』を貰った。これが一つあるだけで、かなりの食糧問題が解決する」
「なるほど……ん? 過去形? もう貰ったのか」
「ああ。今頃は帝都の近くにある穀倉地帯に植えられているはずだよ」
「もうその段階か……」
ヴィスタの権限が及ぶ範囲だと展開がすごく速い。
「りゅ、リューガ様! 大変です!」
王国のエンブレムバッヂを制服につけた女性が慌てた様子で入ってきた。
なお、四か国の人間が入り混じっており、一応利権の問題が発生しやすいので、誰がどこの国の所属なのかがわかりやすくなっている。そのためのバッヂである。
「どうした?」
「へ、陛下が! 帝国の女帝陛下が!」
「あの人が来たのか……」
「というか、何故王国側の職員が? 帝国側の関所には帝国民から選ばれた職員しかいないはず……」
「そ、それが、王国側から入ってくる荷車の中においしそうなソーセージのにおいがしたから、そちらを食べてから来たと……」
「……僕が対応するよ。君は持ち場に――」
その時、ドアが思いっきり開いた。
「八風! ここにいたのね!」
穢れをしらないめちゃくちゃ奇麗な瞳をした長い銀髪の美少女だ。
真っ黒のドレスを身にまとい、金細工の装飾品を最低限つけている。
ドレスは生地こそ質は高いがデザインはかなり一般的。
ただし、大きな胸と細い腰と形のいいお尻がわかりやすく女性らしい魅力を発揮している。
それを見た八風のテンションは下がり気味のようだが。
「八風~♪」
瞬き一つの時間で八風に接近すると、そのまま八風の顔を自分の胸に埋めるように抱き着いた。
「ぐへへへ。いいにおいだね~」
抱きしめて、八風の頭のにおいをかいでいる。
「あ、自己紹介がまだだったね。私はルスマナード帝国皇帝。ラータテール・ルスマナードだよ! 気軽にラータ、もしくはラーちゃんって呼んでね!」
「呼べるか!」
元気いっぱいな様子のラータ。
……それを聞きながら、八風はこんなことを考えていた。
ルスマナードの伸ばし棒を消して反転するとドナマスル。
ちょっと変換すると『DNAマッスル』になる。
遺伝子レベルで筋肉主義だとでも言いたいのだろうか。
クリアグラス神聖国を見習ってほしい。
「あの、何と言いますか、ずいぶん宰相さんと親しいんですね」
「八風君が来てから帝国はいろいろ改善されたからね!」
「例えば?」
「魔法をめちゃくちゃ使うモンスターを解剖して、体内に文字っていうか、記号っていうか、そういうのを発見したんだよ! 魔力を通す素材でその記号を形作って、魔力を流したら実際に魔法が使えたんだ。これで魔道具技術がとても進歩したんだよ!」
「思ったより先進的だった!」
もうちょっと原始的な、というか理性的な部分のことだと思っていたら、思ったより優れた概念の話だった。
「てか、モンスターの体内ってそういうのがあるんだな。普段使ってる魔法文字の原文ってそこにあったのか」
「普段、私たちは魔法をイメージで使っていますからね」
脳内にはイメージに対応して魔力を操作する器官があるのだが、これの構造は誰にもわからない。
ただ、魔道具に関してはそれに応じた文字を使っている。
その文字を使うことで、現代の魔道具は作られており、その文字は神聖国が古くから使っている物を応用しているのだ。
ただ、原データはモンスターの体内にあるらしい。
「……強硬派って、『モンスターを倒したらすぐに火葬処理するべきだ』って言ってるけど、その事実を知ってる可能性があるな」
「高そうですね」
ここで、ラータが八風を開放した。
「さてと、私がここに来た理由を教えてあげよう」
ラータはニコニコしながら、近くの椅子に座った。
「ズバリ、ヴィスタ・アルバが、帝国の『宝』である、『アルティメット・パーフェクト・バーベキューセット』の力を復活させる方法を知っているかどうかを聞きに来たのさ!」
「この文化、マジでどうにかならないかな……」
八風は魂の底から吐き出したかのような深いため息をついた。




