第42話 準備完了
「このイミダ商会のトップが武力行使を……なんて、お前らに言う必要もねえか。単刀直入に言うと、『手間賃をくれてやるから祖国でおとなしくしてろ』ってマスターから伝言を預かってる」
一階部分に冒険者用のアイテムをそろえる商会に扮して、ルイベルが使っていた建物。
その一階の奥にある応接室で、ダイナは三人と向き合っていた。
なお、ドゼラフ、エルネス、ジャスパーの三人の心境だが……。
(((ついにこの日が来たか)))
といったものである。
まあ、気持ちはわかる。
「しかしまぁなんというか、上司が変に行動力あると苦労するよなぁ。アラガスの時もそうだけど、なんか勝手に閃いて、凄い勢いで行動し始めて、勝手に撃沈してるんだもんな」
「誰にせいだと思ってるんです?」
「アラガスに関してはマスターが誘導しただろうけど、ルイベルのほうはほぼお前らの『上』の判断だと思うけどな。ま、それはいいや」
ダイナは大きめの茶封筒と、小さい封筒を出した。
「こっちの小さい方は今読んでほしいってさ」
三人のまとめ役であるドゼラフに渡す。
ドゼラフは嫌そうな顔になったが、封を開けて四つ折りの手紙を読んだ。
「……ヴィスタ・アルバ。思ったより遠慮がない」
「ドゼラフさん。いったい何が……」
「簡単に言うと、ここに用意した通信拠点を置いていけ。ということだ。とはいえ……傍受できるようにあらかじめ『仕込み』を入れているから、我々にとってもゴミ同然だがな」
「し、仕込みって、一体いつ……」
「うちの諜報員はなかなか身軽でスペックの高い奴がいるんだよ。お前らの関係者にそれとなく接触して、あらかじめ設計図の一部を送らせてもらった。それをもとに作ったからここまで早く完成したわけだ」
「……ここの通信設備、いったい何を使っているのか。知らんわけじゃあるまい」
「ああ。俺も聞かされてる。二年前に討伐された毒霧竜の死骸、そこにある『角の内部』をくりぬいて外側だけ死骸に戻し、内部のほうは『モンスターの素材加工』の経験値が多い帝国に持ち込んで研究してたんだろ? ここの通信設備にはそれを使ってる」
アルバ大森林に残されていた毒霧竜の亡骸。
角に関しては、時間が経過すると『特殊な加工』を施さなければすぐにダメになって素材に使えないが、二年前、彼らは角の内部だけを回収し、研究していた。
「圧倒的に高い感知性能。これがあれば、遠くから飛ばされた『通話魔法の送信側』を素早く感知して拾うことができる。で、マスターはそれを利用する気満々ってわけだ」
「……傍受されることがわかっている通信機器ほど、利用価値のないものもない。残してここから立ち去ろう」
「ま、ゆっくりしてくれ。てか、アラガスがマスターからボコボコにされてる間、『相手にするのやめて帰りたい』ってずっと思ってただろ」
「それは間違いないな。 気力や意思だけではどうにもならない相手がいるとよくわかった」
ジャスパーがため息をついている。
「というわけで、通信設備は貰っていくぞ」
「好きにしろ。我々もこの店を畳む手続きをする」
ドゼラフは小さく、ため息をついた。
「……ヴィスタ・アルバか。奴は一体、何を見ているのだろうな」
「それは俺にもわからんよ。ただ……臆病で、卑怯で、つまらない人間の俺が、一緒にいて不安にならないやつだって言っておく」
「そういえば『聖剣を抜けなかった』という話だったな。なるほど……ふぅ、エルネス。ジャスパー。帰ろうか」
「そうだな」
「はぁ、わかりました」
★
「で、マスター。これでそろったのか?」
「そうだね。『毒霧竜の角を素材として組み込まれた通信魔道具』を使うことで、『とあるドラゴン』を呼べる。コイツは輸送能力がすごいから、フレスヴェルとレッドエリアを往復するとしても十分な性能だ」
「そんなすげえのがいるのか」
「そう。そしてレッドエリアには、この領域で安全圏を確保するのに重要なコアを持ったモンスターがいるんだけど、コイツがとあるカテゴリに属しているせいで話がややこしい」
「マスターにとってややこしい?」
すべてを理解しているのではないかと思えるほどの頭脳を持つヴィスタにとってややこしいとはどういう理屈なのだろうか。
「モンスターの中には、『何をするのか選択肢はわかっても、実際に何を選ぶのがわからない個体』がいる。本当の意味で、『その時の本人の気分次第』というものだ。自由奔放というわけではなく、その特性を発揮するのに条件はあるが、その条件下においては、私の頭脳でも、選択肢は見えても実際に何をするのかわからない」
「そんなモンスターがいるのか」
「種類……じゃなくて、モンスターであれば稀に発現する希少特性だね。私は『ランダム』の頭文字をとって『カテゴリーR』と呼んでいるが」
「『カテゴリーR』か……確かにそういうのがいるとややこしいな。あ、前に『順当にいけば最短で五年』って言ってたけど、これって、選択肢の中で『良い方』ってことか?」
「いや、選択肢はわかるわけで、別に避けて通れないわけではない。避けて通った場合は五年かかるということだ。ただし、避けずに接触して利用する場合、私にも『現場で何が起こるか』は、何が起こるのかはわかっても、どれが起こるのかはわからないということだね」
「ふーむ……まあ、マスターの下で働いてたら、心当たりはいくつかあるな」
どこか納得した様子。
「で、その『コアモンスター』なんだが、はっきり言って隠れる性能が強すぎて、ダイナでも発見できない」
「選択肢はわかるんだよな。大体どれくらい?」
「25……」
「まあそれくらいならしらみつぶしに――」
「桁?」
「多いわ!」
さすがにやってられない。
「まあ安心しろ。こいつをパッと発見できる人間が、今はこの町に一人だけいる」
「誰だ?」
「サイラだよ」
「え、リューガの息子だよな。アイツ、そんなすごい力があるのか」
「いや、貴族の子は基本的に保有魔力が多く、産まれたばかりのころは五感が弱いから、どうしても周囲の認識方法が『魔力感知』によるものになりやすいんだ」
「へー」
「ただ、触覚に関しては『若干鋭い』から、魔力が少し乗った息を吹きかけたりすれば、『魔力感知』と『触覚』の両方を刺激できるから安心させやすいんだよね」
「へぇ、じゃあ、サイラがセラの太ももに執着しているのは……」
「あれは父親譲りだろうね」
「どうにかした方がいいような……いや、足フェチは悪でも罪でもないんだが……」
めっちゃモヤモヤするダイナ。
「で、とりあえずサイラはセラに懐いてるから、セラとサイラには一緒に行ってもらおう」
「そうなるわな……てか、サイラが見つけられるのはいいとして、どうやってそれをサイラに理解させるんだ? さすがにまだ言葉で説明しても分からんだろ」
「サイラが感知できる魔力の種類を絞ることで、コアモンスターを認識するという方法が手っ取り早いかな」
「ああ、そういう方法はあるのか、モンスターの性質はわかってるわけだし」
「そうなるね。というわけで、サイラ君には頑張ってもらおうか」
一番の問題は……。
「その、コアモンスターを発見した後、セラから離れるのきつそうじゃね?」
「それは兄さんがどうにかする話だよ」
「ヒドイ……」
がんばれ、リューガ。




