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第4話 賑やかになる町

 挨拶を済ませたわけだが、当然、森の中でそれぞれ果実を集めてその日ぐらしをしていた者たちが大量の食糧を抱えているわけもなく、ダイナが特殊肥料を用いた高速栽培で食料を用意する形になった。


「よし、出来たぞ。肉じゃがとカレーとシチューだ!」

「具材全部一緒だな」

「仕方ねえだろ」

「別に不満じゃねえって」


 夜遅い時間。


 大量の大きな鉄鍋に洗った野菜や持ち込んだ肉を使った料理が用意された。

 それらは、ダイナが木で作った食器に盛り付けられ、木のスプーンと一緒に配られる。


「大量に作ったからお代わり自由だぞ! で、セラ。パンは焼けたか?」

「できていますよ。というか、こんなデカいオーブン。どこに積んであったんですか?」

「俺の手づくりに決まってんだろ」

「器用すぎません?」

「あらかじめ、加工しやすい鉄板を大量に積んでただろ。後はマスターが作った設計図を使えば、この程度は問題ねえって」

「それもそれでおかしい」

「だよな。俺もそう思う」


 ダイナの身体能力に関して、膂力、速度、器用度が常人の域にとどまらないのは、町の整備技術とその速度を考えれば明白である。


 しかし、高性能の身体能力と言うのは、優れた設計図と膨大な経験によってその真価を発揮するものである。


 そう考えれば、物を作るという経験がほぼなく、頭の中で考えているだけのヴィスタがそのような設計図を書けるというのは、なかなか意味が分からない。


「……とりあえず、私はパンを配ってきます」

「よろしく!」


 セラがパンを抱えて運び始めた。


「うーん……とりあえず、これで食べ物と住む場所は確保できたな」

「……昔から器用だが、お前おかしいよ」

「あー、そういえば、とりあえず作業量が多くてずっと放置してたけどさ」


 ダイナは男の方を向く。

 ヴィスタとセラのやり取りの際に余計なことを言った男。


「王国冒険者ギルドのAランク。『雷斬鬼(らいざんき)』ヘルバが、こんなところで何してんの?」

「こんなところで、はこっちのセリフでもあるだろ。元Sランク、『魔剣コレクター』ダイナがあんな貧弱小僧に仕えてると知ったら、驚く連中が多いと思うぜ?」


 ガリガリと金髪をかいている男。ヘルバ。


 冒険者ギルドに所属する高ランク冒険者。


「ま、答えるなら、毒竜の討伐に参加して、逃げ遅れて毒にな……知ってるか? アイツの毒ってやたらとスタミナをガリガリ削られるんだ。気力なんて振り絞ってもほぼ出ないくらいにな」

「お前がそこまで言うほどか……」


 単にお互いの情報を持っている。というレベルではない。

 昔に会ったことがある。と言うレベルのやり取りだ。


 ちなみに……彼が言っていることが事実なら、毒に侵された時点で、自力で生き残ることはかなり難しい。

 体力もスタミナもほぼない状態で、自分で食料を探す必要があるとなれば、想像を絶するほどの苦行だ。


 要するに、それを乗り越えて生きている彼らは、活力がとんでもないレベルに達しているということになる。


「だからさ、あんな貧弱小僧が耐えられんのかってちょっと心配ではある」

「安心しろ。もう抗体を作ってるから毒は効かん」

「今まで見たことのない毒の抗体って、二年で作れるっけ?」

「普通は無理。マスターは普通じゃねえってだけだ」

「だろうな」

「ちなみに、お前が使った特効薬だが、一応あれにも体の中で抗体を作る成分が含まれてるから、定期的に飲む必要もないぞ」

「それをタダで……か。酔狂な奴だ」

「物好きとはちょっと違うけどな」

「はぁ……」


 ヘルバは溜息を吐いた。


「で、俺って、ヴィスタの役に立てることあんのか? 以前はダンジョンに潜ってばっかだったし、手先は器用じゃねえぞ。人にものを教えてこともねえしな」

「安心しろ。冒険者らしい仕事が後に控えてる。ただ、早くても一週間後だ」

「この森に二年いるけど、マジで想定できん」

「まあ、それは後で分かる。使うのはサーベルが二本だったな。かなりの業物を調達してるから、それを使って病み上がりの体をどうにかしておけ」

「その準備はアイツの計画か?」

「それは知らんが、雷属性と相性が良い素材を使ってるのは確かだ」

「露骨だねぇ。まあその方が分かりやすくていいや。どこに置いてあるんだ?」

「マスターの小屋の横に倉庫に入ってすぐ右。見ればわかるようにしてる」

「ああ。じゃあ、持って行くよ」

「おう」


 ヘルバはダイナに踵を返すと歩いていった。


「受けた恩はきっちり返す……か。そういうの、マスターの周りにいると苦労するけどな。人のこと言えねえけど」


 ヘルバの姿が見えなくなったあと、ダイナはそんなことを呟いた。


 ★


「アーシェ。これを持って行ってください」

「はい!」


 セラがトレイを用意してパンとシチューをのせて渡す。


 受け取ったのは、黒い髪をショートヘアにした可愛らしい少女だ。

 まだ十歳前後で幼いが……この森で生き残っている以上、やはり活力はあるのだろう。


 セラからトレイを受け取って走って持って行き、緊張が解けたことでぐったりしている人たちに渡している。


 それが終わるとまた戻ってきて、セラが用意したトレイを次々と運んでいった。


 もちろん、アーシェもあらかじめ食べているが、病み上がりとは思えない体力だ。


「……ええと、自分で動けない人には全員渡せたと思います!」

「ご苦労様です。アーシェもきちんと休んでくださいね。あなたも毒が治ったばかりですから」

「しっかり休みますよ。でも、頑張れるところは頑張りたいんです!」


 良い笑顔になるアーシェ。


 彼女が毒の特効薬を使ったのは二時間前。

 一応、その段階で近くに生えていた食べられる植物を使って体力を少しでも回復したが、体力の総量も、そしてその回復力も圧倒的だ。


 当然のことだが、毒の特効薬を飲んだ瞬間に緊張が解けて寝てしまった者も多い。

 今までの環境が悪すぎたのだからそれは当然で、そういった人たちは別の人たちが運ぶ形でここまで移動してきた。


 それに比べれば、アーシェはとても体力がある。


「そういえば……ゾンビのお兄ちゃんって大丈夫なんですか?」

「本当にそれで広まりそうですねぇ……一見大丈夫には見えませんが、大丈夫ですよ。自分専用の栄養剤を使ってますから」

「へぇ……わかりました。あと、あの……その……」


 アーシェの視線がチラチラ動く。


 動く先は、セラのでかい胸、ほっそい腰、めっちゃ綺麗で触り心地が良さそうな太ももだ。


「ど、どうしたら、セラさんみたいにおっぱいが大きくなりますか!」

「フフッ……」


 微笑むセラ。


 まあ、穢れのない少女の頭の中などそんなものだろう。


「そうですねぇ……ご飯をしっかり食べて、夜更かしせずにしっかり寝ること。毎日元気で良い子にしていれば、大きくなりますよ」

「「「「真面目か!」」」」


 周囲からの総ツッコミが入るが、セラは気にしない。


「でも、近所に住んでたお姉さん。よく食べて夜は寝てるって言ってましたよ?」

「お菓子をバリバリ食べながら『なんで私痩せないんだろう』と言ってたでしょう?」

「言ってました!」

「それは痩せませんよ」


 シンプルに急所を抉るな。

 ついでに、周囲に女性にもダメージが入ってるから。

 ……まあ、こんな森にいれば痩せるので、今は全員がガリガリだけど。


「お菓子はほどほどにしておきます」

「まあ、しばらくは作れるかどうか……おや?」


 遠くから小さい袋が飛んできた。

 セラがキャッチして中を見ると、そこにはビスケットが入っている。

 一枚取り出しつつ、セラは呟いた。


「ダイナ……もう作ったのか。頭おかしいなアイツ」

「口調変わってますよ」

「あ、すみませんね」


 微笑むセラ。

 それを見て、周囲は『結構黒いな……』と思っていた。

 ……救出される段階で何となくそう思っていたが。


「まあ、こんな時です。皆さんは栄養が必要ですからね。お菓子だってしっかり食べましょう」


 ビスケットをアーシェに渡す。

 アーシェはかじった。


「とてもおいしいです!」

「レシピはヴィスタ様ですね。ダイナ単独では作れませんから……何かいい匂いが……ちょっと行ってみましょう」


 先ほど、小さい袋が飛んできた方向に向かって、セラとアーシェは歩いていく。


「本当にいい匂いですね。何を作ってるんでしょう」

「さあ……」


 近づくと……そこでは、大きな鍋の中身を混ぜているダイナがいた。

 ヘラについている液体の色を見る限り、チョコレートだろう。


「……ダイナ。何をしているんですか?」

「チョコレート作ってるんだよ。少量でも栄養があるって聞いたし」

「どこにカカオ豆があったんですか?」

「えっ? 森の中に時々実ってたぞ。少量ずついろんなところに」

「全然気が付かなかったです!」

「やっぱりおかしいですね……」


 観察眼も移動速度もずば抜けていておかしいレベルだ。


「まあでも、こういうのがあるといいだろ? 娯楽もないし」

「初日は具材が全部一緒でしたからね」

「明日からは改善するさ!」

「そうですか。頑張ってください」


 セラも料理が出来ないというわけではないだろう。

 少なくともパンを焼いていたし、レシピ通りに作ることは可能で、手先も十分器用だ。

 だが、ダイナはちょっとレベルが違いすぎる。


「……あいつら、連れてきてよかったな。ほんと」


 小屋の中でヴィスタは静かに呟いた。

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