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第39話 【権力】という話のタネ。

「はぁ……」

「その様子だと、喚き散らすばかりで会話にならなかったのかな?」

「まあ、そんなところだ。『俺はユフェード公爵家の長男だぞ。ここから出せ』ってさ。自分が何をやったのかわかってねえんだろうな」


 フレスヴェルから少し離れた場所に、犯罪者をぶち込んでおく牢屋がある。

 千五百人も入るものを用意できているのかという話に関しては、『そもそも千五百人の犯罪者が出ることがわかっている』のであれば計画を立てること自体は簡単なことで、そこにダイナを投入すれば十分に建築可能だ。


「アルバは人口だけで考えれば小国もいいところだね。ただ、小国であろうと、国家元首である私がいる首都で、武力を用いて占拠した。しかも、『公爵家』という自国の権力を前面に出してね。ただ、それが国際問題になると分かってないんだろう」

「なんでだろうな」

「彼にとっては、貴族だから。なんだろうね」

「……俺には理解できん」

「心の根っこのほとんどが『不安』で出来てるダイナにはわからないだろうさ」


 ダイナは苦笑するが、すぐにため息をつく。


「……イグライトといい、ルイベルといい、なんか、『ああいうのばっかり』見てるから、最近思うんだよ。権力って、なんなんだろうなって」


 ダイナなりにどう考えているのかはわからない。

 ただ、疑問に思って、それが口から出たというだけのことだろう。


「……権力ねぇ。いろいろ話の軸はあると思うけど、私なりの考えでいいかい?」

「ああ」

「私が思う『権力がどういうものか』を語る場合、少し順序がある」


 ヴィスタの言葉に淀みはない。


「まず『正しさ』について語ろうか。私が考える正しさというのは、『全員がやらなかったらひどいことになるが、全員がやったらもっとひどいことになる』という条件に合う行動のことだね」

「全員がやったら、もっとひどいことに……」

「例えば、人のものを盗らないことは正しいことだが、危険物の没収ができないと安全が保障できない。これが一番わかりやすいかな」

「まあ、そうだろうな」

「そこで、『人のものを盗ってはならないという正しさ』は、『危険物を没収していいという特例』が存在することで成り立つ。言い換えれば、『正しいことをしなくていい特例』がないと、『正しさ』を保証できないということだ」

「……」

「もちろん、危険物の没収は『安全保障』という理由がある」


 ヴィスタはダイナをまっすぐに見る。


「要するに、『安全保障を理由に、正しいことを守らなくてもいい特例を集めたもの』に、人が『権力という名前を付けた』……それだけのことだと、私は思うけどね」

「……じゃあ、安全を保障できない権力ってのは」

「私はそれを実行する人間を権力者とは呼ばない。犯罪者と呼ぶ」

「そうかい……」

「権力は、社会の安全を確保するために存在する理性で作られたシステムであるべきだというのが私の理想なんだよ。利益を求めるのは民間がやればいい。そして、その利益を求める行為の安全性を保障するのが権力だ」

「じゃあ、なんであいつ等は、このアルバに攻め込んできたんだ?」

「それは単に犯罪を犯罪と思っていないだけだろうね。とはいえ、私はさっき『理性で作られたシステムであるべき』といったが、そのシステムを運営しているのは人間だ。安全を守るために禁止することが多くなれば、それだけ『権力』は大きくなる。でも、報酬に満足できない人間ほど、『賄賂』をすぐに受け取るんだ」

「……リドナーエ伯爵領にいたとき、強硬派の連中が、『ぬくぬくと生きてるだけの貴族に多額の予算がつけられてるのは不公平だから、王は予算を減らすべきだ』って吠えてたの思い出した」

「後で賄賂がやりやすくなるからね。貴族や政治家といった『ルールを決められる人間』に対して、『人数を減らせ』とか『予算を減らせ』という意見に賛同できる人間は、『後で賄賂政治になってもっとひどいことになる』のがわかってないんだよ」

「人間ってバカだな」

「そうだね。で、話を戻すけど、結局のところ『理性』がどれほど重要なのか、もっと言えば、『理性を緩めるという行為の代償がどれほど大きいのか』がわからない人間に、私は権力を与えるべきではないと思うけどね」

「……まあ、政府っていうのは多くのことを禁止してるが、禁止するという行為には『利益を遮断する』っていう要素があるからな。その規制を緩和すれば、利益が顔を出す。でも、本来それは、やっちゃダメか」

「いい場合もあるよ。というより、社会の進歩というのは、悪や罪の許容できる範囲を増やすことと同じだからね」

「そうか?」

「食料を多く生産できない国では、『暴食』は罪だ。でも、食べ物があふれている国では、暴食は罪にならない。そういうこと」

「ああ。なるほど、で、その『規制を緩和させても大丈夫かどうか』っていうのは、民間がどれだけ成長できるかにかかわるってわけか」

「食べ物があふれてるのに暴食が罪とか頭おかしいからね」

「確かに」


 ダイナはうなずいた。

 それを見て、ヴィスタは『要するに』といってまとめた。


「権力は安全保障のために、正しいことを守らなくていい。だけど、社会というのは成長するものだから、『本当に今使っているシステムが、国民の安全を保障しているのか』ということに議論を重ねる必要がある。貴族や政治家はね、その『議論』が仕事だ」

「武力をチラつかせて相手を脅迫し、占拠するなんてのは、権力者じゃなくて犯罪者ってこと。で、イグライトやルイベルは犯罪者というわけね」

「まあ、私が考える『権力』という話題の結論はそんなところだね」


 ヴィスタはダイナから目を離して、書類を作り始めた。


 とりあえず言いたいことは終わったということなのだろう。


 ダイナは再度ため息をつくと、窓の外を見上げた。

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