第38話 包囲作戦
大樹街フレスヴェルに人が集まっている。
ただし、町の中に入ってくるのではなく、町の外で包囲するような形だ。
人数だけで言えば千五百人ほどだろう。
思ったよりしっかりした鎧を身にまとい、各々がしっかり武器を装備している。
「この大樹街フレスヴェルは、神聖国公爵家の長男である俺、ルイベル・ユフェードが包囲した! この町は俺のもの。大樹国アルバの首都を抑えたのだから、この国は俺のものだ!」
ルイベルも立派な鎧を身にまとって、広場で宣言している。
そんな様子を、ソードハウスの窓からダイナが見ており、ため息をついている。
「……最適解っていうのかね。この町を相手に『包囲』したいっていうのなら、ユグシティに普段紛れ込ませてる『公爵家の飼い犬』をまとめるのが手っ取り早いのはわかるんだよ。ユグシティは関所なんてないし、人の出入りは予測されているがいうほど管理されてねえしな」
「通信拠点を使って実家に電話した結果、ユグシティにいる人間を使えって言われて、その通りにしたんだろうね」
とはいえ、実際にそうなる。
なんせ、実家の力を使って本国から人を大量に呼んで包囲したとしても、それはイグライトの二の舞になるだけだ。
しかし、『ガチの少数精鋭』で固めたところで、ダイナがいるので対処可能。
となれば、『ユグシティに紛れ込ませているそこそこの実力者』を動かして、フレスヴェルを包囲するという形にすれば、少なくとも巨大台風は来ないし、人数は最低限確保できているのでダイナ一人ではどうにもできないだろう。
という……妄想だ。
「おい! 聞いてるのか! ユフェード公爵家に逆らったらどうなるか。わからないわけじゃないだろう! おい! おい!」
吠えるルイベル。
ただし、フレスヴェルの住民に緊張はない。
一番大きな原因は、『ソードハウスの窓から、中にダイナがいるのが見える』ということ。
それだけで、この町に『緊張』はない。
「こうなったら……おい、すべての民家に火矢を放て! 魔法もだ。こいつらに俺の武力を教えてやる! 俺に逆らったことを後悔させてやれ」
ルイベルが指示を出すと、中に待機している兵士たちが動き出した。
矢の先端に油をしみこませた布を巻き、火をつける。
杖や魔導書を取り出して、魔法を構築する。
「……はぁ」
ダイナは窓の外に手を出すと、魔剣ダークマターを出現させて、逆手で構える。
そして、地面に切っ先を突き刺した。
「『魔剣』をなめすぎだ。バカ」
全員の足元から『黒い斬撃』が迫って、それぞれが持つ道具を破壊していく。
弓矢も杖も魔導書も粉々に粉砕し、地面に落ちていった。
「……はっ?」
「お前じゃ力不足なんだよ。わからんか? 実力のねえ奴に何の策も与えず放り出す奴も無能だが、お前も、好き勝手出来る範囲を見誤るんじゃねえ」
ダイナは呆れたような声でそう言った。
「少し、わからせてやるよ」
再び、地面から斬撃が彼らを襲う。
圧倒的な速度で彼らを襲い……そして、直撃した瞬間、バチッ! とはじけて、全員がマヒして倒れた。
「お前らは全員、国家にケンカを売った犯罪者だ。全員捕らえて捕虜確定だよ。神聖国の強硬派に賠償金を吹っかけてやるから覚悟しやがれ」
ダイナはそういうが……彼の内心を述べるならば、『惨め』といったところだろう。
……実は、今回のこの騒動、どのように収集をつけるのかは、ダイナに一任されていた。
結果がどうなるのかを ヴィスタは予測しているだろうし、そしてその予測が『許容範囲内』だからこそ任せたのはダイナも理解している。
ただ、そうしてダイナに任せた結果、こうして全員麻痺というあっけないものだ。
「……はぁ」
ダイナはソードハウスから出ると、千五百人の捕虜を回収するために歩き出した。
「……」
そんなダイナに対し、ヴィスタは一瞬だけ視線を向けたが、すぐに書類整理に戻っていった。




