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第37話 リューガ+マックス+八風

 ユグシティは広い。

 

 その最たる理由は、入ってくる人数が多いことに加えて、『森との境界線』がないからだ。


 柵も堀も壁もなく、どこからでも入れるし、どこからでも出られる。

 そして、どこまでも広げられるのだ。


 もちろん、整備や建築にはルールが存在するので、違法や無許可の整備や建築に関しては、あらかじめ予定されていた職員が対応する形になっている。

 まあなんとも気色悪い。


 ただ、それゆえに広がりやすく、最も便利なのが『中央広場』

 そこには露店や豪華なショーケースを用意した店舗が軒を連ねており、『一度入ってきた富が広場を介して情報が広がる』という形になっているので、かなり『多種多様』だ。


 ヴィスタがルールを整備しており、暇な連中は早速穴場を探している。


 ……そんな都市の、日が暮れた隅の店。


「おっ、なんかいい雰囲気だな」


 リューガはサイラを寝かしつけてぐったりした様子だったが、良い雰囲気の店を発見した様子。


 ドアを開けると、小さい鈴がなった。


「おお、リューガ君。いらっしゃい」

「あれ、ソバルさん。久しぶり」


 顔見知りなのだろう。カウンターの奥でソーセージを焼く男をみていい笑顔になる。


「……こんな広い都市で、『ふと入った店で顔見知りに会う』……しかも僕がいるタイミングで……はぁ」

「ん? なんかヴィスタに会ったことがあるやつがするため息してんな」

「ああ、君の弟には実際に会ったよ。そうだな……気色悪かった」

「はっはっは! よく言われるぜ」

「八風君も、あまりそういうことを言わないように」

「八風? ……ああ。帝国の裏宰相か」

「ヴィスタから聞いたのか?」

「聞いたっていうか、なんか、父さんが持ってる領地経営の本に書かれてたんだよ」


 紛れもなく『ゴードン・リドナーエでもわかる領地経営』だろう。

 まあ、その本の存在は知らずとも、八風はなんとなくわかっている様子。


「……おかしいな、情報操作はしっかりしているはずなんだが」

「ヴィスタからの伝言が一個あってな。『君は私の脳みそに負荷をかけられるカテゴリではない』だそうだ」

「逆に言えば、負荷をかけることができるカテゴリがこの世にあるということか、逆算すると『毒霧竜』っぽくはあるが……」

「まあそんなことはいいや。ソバルさん。ソーセージの盛り合わせ一人前」

「すまんが、二人前で頼む」

「「?」」


 出入り口を見ると、そこにいたのは……。


「マックス・ヒュベルサー……神聖騎士団の第二隊隊長か」


 基本的に職務中は鎧を着ているのだが、今はゆったりした普段着である。

 もちろん、鍛えらえているのが服の上からでもわかるし、何よりその静謐な表情はどう見ても一般人ではないので、見る人が見ればすぐに『戦闘にかかわる人間』であることはわかるだろう。


「ほー……こんな庶民っぽさ全開の店に来るんだな」

「伯爵家の長男であるお前が言うか?」

「俺はまぁ、昔からの付き合いだからいいんだよ」

「……そういうことにしておこう」


 というわけで、リューガとマックスもカウンター席に座った。

 すると、二人分の盛り合わせが出てきた。


「……いつもは少し待つが、今日はすぐに出てきたか」


 マックスはリューガと八風を見てため息をつく。


「何言ってんだ。出された料理見てため息なんてつくなよ。お、うまい!」

「……ここの料理が絶品なのはいつも食べているからわかる。ため息をつきたいのはお前たち二人のことだ」

「お互いのセリフだと返しておこう」


 ため息の原因にされた八風は即答する。

 ……ちなみに、八風の右にリューガが座って、その右にマックスが座っている形である。

 真ん中にいるリューガがおいしそうにソーセージを頬張って、他二人はため息を押し殺している。


「……そういえば、リューガ、君はこの店を本当に知らなかったのか?」

「知らんかったのは事実だけど……この都市の開発が、なんかフェラリムに似てるんだよなぁ」

「リドナーエ伯爵領最大の都市にねぇ……」

「どこか裏路地っぽいけど、流通で不便さはほぼない。そういう場所だぜここ。ソバルさんも、なんとなくそれを感じてこういう場所を見つけたんだろ?」

「ええ。ヴィスタ君が設計したあのフェラリムによく似ているので、あらかじめ確保しました」

「……フェラリムを設計した?」

「簡単な理屈だ。25年前の帝国との戦争で、いきなり準男爵家が伯爵家になった。だが、それに見合った屋敷を用意する余裕も、大きな町を運営する人材も足りず、成り上がりのリドナーエ家を支えようと思うやつは、周囲にあまりいなかった。が、ヴィスタの物心がつき軌道に乗って回復に向かったことで、『伯爵家に見合った町が必要』ということで設計されたのがフェラリムだ」

「……生後間もなく、都市の設計ができたのか。本当に化け物だな」

「自慢の弟だぜ!」


 楽しそうな様子のリューガ。


「しかし、人の心があるのかと疑いたくなる時はあるが、あれほどの頭脳がありながら、思ったよりまっとうに育ったんだな」

「ん?」

「あまりにも賢い人間を周囲は気味悪がるものだ。神聖国では『賢人学会』という『優れた知識で手にできる栄誉』ができたことで多少改善はされたが、それができる十年前より以前は、ひどいものだったらしい」

「何か、ヴィスタだからこその折り合いのつけ方があるのかもしれないが」

「んなもんあるわけねえだろ」

「「ん?」」

「ヴィスタのことを気色悪いだの怪物だの言うやつがたくさんいるのは知ってるよ。ソバルさんも昔は言ってたしな」

「ハハハ、耳の痛い話です」


 急に流れ弾が来たソバルとしては苦笑するしかない。


「だけど、気色悪いだの怪物だの……俺も父さんも母さんも、ヴィスタに言ったことは一度もない。それだけのことだろ」


 リューガは美味しそうにソーセージを食べている。


 そして、その穢れを知らないかのような奇麗な目を見て、二人は思う。


 ヴィスタがあそこまで『強い』のは、このリドナーエ家があったからこそだと。


 仮に、ヴィスタがリドナーエ家ではなく、『リドナーエ家の伯爵領の一般家庭』に産まれたらどうなっていたのか。

 貴族の生まれであるかないか以前の問題として、『今とは大きく違っていた』のは、なんとなく予想できる。


「そうですね。家族に愛されているヴィスタ君を見て、我々の意識も変わった。まあ、最初はゴードンさんへの扱いが杜撰だったという話は聞きますが、それを込みで考えても、ヴィスタ君はみんなに愛されて育ち、みんなを愛しています」


 ソバルも良い表情だ。


「……嫉妬のない愛に育まれたか。なるほど、賢いとかそれ以前に『隙がない』と思ったが、それはそういうものか」


 どれほど優秀だろうが、承認欲求にとらわれた人間ほど脆く、視野が狭くなるもの。


 ただ、ヴィスタは愛されて育ち、他者から認められる才覚があるゆえに、『焦燥』がない。


「わかるなぁ……」


 小さくつぶやいた八風の声は、静かに溶けていった。

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