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第36話【強硬派SIDE】 通信拠点が完成

「クソが! なんで俺の言うことを聞かねえんだよ。おかしいだろうが!」


 ルイベルは会議室で拳を机にたたきつけて怒鳴っていた。


「当然でしょう」

「そうだな。当然だ」

「何故いうことを聞くと思っているのか……」


 エルネス、ジャスパー、ドゼラフの三人は呆れているし、それを隠そうともしない。


「俺は神聖国公爵家の嫡男だぞ。俺に逆らったらどうなるかわからねえのか!」

「……一応聞いておきますが、どうなるんです?」

「あ?」

「貴方に逆らったらどうなるのか、聞いてるんですよ」

「それは……」


 エルネスに言われて考えている様子のルイベル。

 だが、言葉が出てこない。


「そいつを破滅させることができるに決まってんだろ。公爵家だぞ! 公爵家!」

「どうやって破滅させるんだ?」

「……お、俺には何時でも動かせる部下が大量にいるんだ。その気になれば、この国を武力で制圧することだってできるんだよ! たった千人のクソ国家だろうが!」

「世界樹の力で巨大台風すら自由自在だ。その力で、五万の軍勢が何もできずに敗走したのは記憶に新しいがな」

「はっ? 聞いてねえぞそんなの!」

「知らぬ方がおかしい。帝国にもその話は広まっている。とはいえ、噂だと片付けている者もいるがな」


 アラガスが用意した五万の軍勢。


 ただ、事実として、世界樹の力で巨大台風が発生し、バケツをひっくり返したかのような豪雨と強烈な向かい風で、誰一人森に近づくことはできなかった。


 雨も過ぎれば災害で、人間は災害が起こる中で戦争ができるほど、強くはない。


「きょ、巨大台風が自由自在……じゃあ、この森を包囲しても意味ねえじゃねえか」

「そもそもこの森を包囲することなんてできませんよ。どれほどの人間が必要だと思ってるんです?」

「公爵家として部下を総動員するに決まってんだろ!」

「誰に指示を出すんですか? 一応言っておきますが、『上』からの指示書をみればわかる通り、私たちにそこまでの人間を動かす権限はありませんよ」

「そうだな。このダミーの商会を運営できるよりも少し多いくらいの人間しか連れてきていない。そんな状態で、どのように包囲するのか……」

「そ、それなら、この町を包囲すればいい。それくらいの人数は……」

「高ランクの冒険者や凄腕の兵士が十倍以上の人数で叩き潰しに来る。それに耐えられるわけもあるまい」

「……ど、どうなってんだよ」


 唸るルイベル。


「あの、どうしてあなたの思い通りにいかない状況なのか、本当に分からないんですか?」

「あ? 何言ってんだエルネス」

「あなたの思い通りにいかないのにはちゃんと理由があるんですよ」

「なんだと!?」

「簡単な話。ユグシティの特性の問題です。この都市は、莫大な初期費用を用意できる大型の商会や、聖木を手に入れることで強化をもくろんでいる高ランクの冒険者がうじゃうじゃ来ているんです」

「そうだな。こう言っては何だが、『普通の平民』が集まっているのであれば、公爵家の嫡男の名を出せば震えあがって道を開ける。だが、ここにいるのは、『ユフェード公爵家がゴチャゴチャ言おうが、自分の身を守れる』連中ばかりだ」

「独裁的な権力が通じるのは、周りが弱い場合だけだ。ユグシティは魑魅魍魎の巣窟。要するに、『怖くない』のだよ」

「ここにいる連中が本当に怖いのは、ヴィスタ・アルバですからね」


 本当ならば、圧倒的な『力』がぶつかりすぎて誰にも制御できない。


 だが、大型の商会や冒険者ギルドの幹部たちは、『ヴィスタ・アルバが怖い』から、まっとうな範囲で、『白にかなり寄ったグレー』みたいな運営をしている。


 彼らが本当に怖いのはヴィスタのほうで、そこだけに注意している。

 それに比べれば、ユフェード公爵家などどうでもいいのだ。


「ば、バカな。こんなクソみてえな国家の王に、ユフェード公爵家が敵わねえってのか!」

「まあ、物理なら勝てると思いますけどね」

「肉体面は貧弱だからな」

「175センチ40キロという報告書を見たときは唖然としたものだ」


 政治や経済という面では絶対にかなわない。

 もちろん、腕相撲なら絶対に勝てる。

 というか、腕相撲をする机にずっといることすらできないだろう。そういうレベルだ。


「……あのー、すみません」

「どうした?」


 ドアを誰かが開けた。

 連絡員だ。


「通信拠点が完成したという報告です」

「おおっ! 完成したのか! すぐに使わせろ! 公爵家に連絡して、兵隊を使ってこの町を占領してやる!」


 ルイベルは元気そうな様子で部屋から出て行った。

 ……そして、三人は呆れた様子だったが、とりあえず連絡員を見る。


「それで、まだ何かあるんでしょう?」

「え、ええ……それが、技術者が言うには、『試運転のたびに、誰かに見られているような気がする』と……理論的にそのようなことはないはずなのですが……」

「……どう思う」

「いや、これってどう見ても……」

「泳がされた……いや、通信拠点を用意した経験がある立場として言わせてもらえば、今回は速すぎる。おそらく、どこかから入れ知恵でも降ってきたか」


 全員の頭にヴィスタの顔が思い浮かぶ。


「どうする?」

「……ルイベルにやらせておけ、アイツが総指揮なのはかわらん」

「諦めたのが見え見えだぞ」

「もともと私たちの手に余る」

「それはそうですね」


 通信拠点。という単語を聞いた瞬間に部屋を飛び出していったルイベルだが、正直、そこまで楽観的には見れない。


 ルイベル、いったい何をするつもりなのか……いや、大したことは考えてないと思うけど。

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