第33話 ルイベルの価値
ルイベル君には彼が拠点とする商会にお帰りになってもらった。というかセラが直送した。
で、一応『進行表』は貰っているのだが、一応話しておこうと思ったダイナは、十分くらいでユグシティからヴィスタがいるソードハウスに到着。
窓からパッと入って、特に驚いた様子のないヴィスタに話しかける。
「なあマスター。セラが暴言を吐いたんだけど、大丈夫か?」
「彼の記憶には残ってないから大丈夫」
「そんなにショックだったのか……」
「まあ公爵家の嫡男だからね。汚物権化とか短小とか脳内チンパンなんて普通言われないでしょ」
「公爵家の嫡男であろうがなかろうが普通は言われねえけどな。ていうか、なんでわかるん?」
「計算」
「……そうか。わかった」
ダイナは『諦めたほうがいい』ということが分かったようだ。
「で、ルイベルは次はどういう手を打ってくるんだ?」
「進行表に書いたけど、さすがに信じられないか」
「ああ……『アルバ関係者ではなく、神聖国や王国からの商会に圧力をかけ始める』って、正気か?」
ダイナは資料を見ている。
そこにはルイベルが政府役所に来る時間帯や、そこでセラに暴言を吐かれること、ルイベルが立ったまま気絶することなど、まあいろいろ書かれているが……。
その次に書かれているのは、ダイナが語った内容だ。
進行表には『事象』が書かれているが、主要人物の内心は書かれていないし、必要ではない因果関係の説明もない。
要するに、『ルイベルが圧力をかけ始める』という『次の手』はわかるのだが、何故そんなことを始めようと思ったのか、そしてなぜそれが成功すると考えているのかがわからないのだ。
ルイベルは神聖国公爵家の嫡男だが、『帝国にいる強硬派』だ。
まあそもそも、常にモンスターの脅威があふれるルスマナード帝国は『筋肉。鍛えろ。KILL』の3Kがそろった、『とりあえず筋肉を鍛えてモンスターを殺せ』というハイパー野蛮国家だが、それゆえにポジティブである。
そのため、『安全圏でぬくぬく育った権力者』のねじ曲がりやすい性根を叩き直すのに十分な環境である。
ルイベルもそうした場所に送られたわけで、いうほど『強硬派の活動としての権限』はないのだが、『上』は『帝国にいる逸る愚者』の中から候補を選んで、ドゼラフたちをつけてアルバに向かわせるという計画を立てた結果、ルイベルが抜擢されたわけだ。
もちろん、ドゼラフたちの言うことを聞く方がいいのだが、一応彼らは『失態』を犯したわけで、ルイベルの精神の都合上、『失態を犯した奴の下につける』のに納得するわけがない。
というわけで、大樹国アルバに向かう重要な作戦の総指揮に抜擢され、三人を下につけたという形になっている。
そう、『その程度の男』なのだ。
『いったい何がどうなると圧力をかけられると思えるのか』が周りの人間から見てよくわからない。
通商路の妨害することやそれをちらつかせる脅迫、他の商会のものをまねた低品質なものを流すネガティブキャンペーン。
圧力といっても、『現実性』というか、『実行力』がないと話にならない。
「ああ、ルイベル君はね。自分が部下にちょっと指示を出せば、強硬派関係者をいくらでも動かせると考えてるんだよ」
「え、自分の権限を理解してねえの?」
「当たり前でしょ。公爵家の嫡男だよ」
「……自分の頭の中で考えた計画がすべて現実になると思ってんのか?」
「私と同じだね」
「いや、マスターと一緒にされると困るけどな」
「でも、私の場合は思ったことが現実にならないと死に直結する場合があるからなぁ」
「それは……そうだな」
ヴィスタはあまりにも貧弱であり、『常に周囲に余裕がある状態』を作ることで、自分を支えてもらう環境を用意している。
『余裕』というのは言うに易しするに難しで、計画するだけでは達成できないものだが、ヴィスタの場合は誰かに助けてもらわないとどうにもならない。
仮にヴィスタが自分一人でも生きていけるようにするとなれば、それこそ、周囲の人間の酷使に酷使を重ねて、ヴィスタを強化する手段を整える必要がある。
それほど『普通の人間として必要なものが足りていない』ので、基本的に頭の中の計画を現実にするためだけに動いている。
「まあ、マスターのそのスタンスはいつも通りだからいいか。で、しばらくは泳がせておけばいいのか?」
「そうだね。というより、ユグシティにいる人たちは、強硬派の問題をすべて私が片付けると考えているみたいだからね。もう少し、自分たちにもかかわる問題であるということを理解してもらうよ」
「でもそれはそれで、行政のほうに何とかしてくれっていうのが来るんじゃないか?」
「来たら、『他人に迷惑をかけてるんだから自重しろ』って言えるからね。問題なのは、私が何とかすると思っていることだよ」
「うーん……」
「もっと言うと、『何とかする方法を教えてくれ』というのなら構わないが、『自動で何とかするだろ』と思われるのはダメだよ。そういう考え方は、大樹国アルバの負担が増えるだけだからね」
「ああ、なるほど」
建国時、千人しかいなかったアルバが今のところ問題なく運営できているのは、ユグシティという枠を作り、世界樹の地下ダンジョンと、肥沃な土地という要素をうまく使いつつ、『ルールの整備さえすればあとは手を出す必要がないから』だ。
言い換えれば、『ヴィスタが考えるだけで何とかなる範囲』であり、単なるシステムの話である。
これが、『ヴィスタが人を使って解決する範囲』にまでやることが広がると、負担が増えて問題が発生する。
そういう立ち位置はよくないのだ。
「まあ、私のやり方を理解している人間は、王国側にはそこそこいるから、あとはどうやって『問題児』を用意するかということなんだよ」
「……要するに、アラガスに関しては建国するときに便利。ルイベルは『立ち位置を理解させる』のに便利ってことか」
「ダイナも私の言い分がわかってきたみたいだね。そんなところだよ」
問題というのは解決するものだが、ヴィスタにとっては利用するものだ。
それを解決させなければならないという『意識』や『意欲』があるということは大切である。
「なんか、マスターって、絶望的に普通の人とズレがあるよな。『問題児』が『邪魔じゃない』ってことだろ?」
「まあ、敵が敵対的な行動をとるのは当たり前のことだからね。そんなことで一々癇癪を起こしたりしないよ」
やっぱりズレてるな。と思いながら、いつも通りかと納得するダイナである。
まあ、彼も彼で毒されすぎではあるが。




