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第32話 シンプルに暴言

 ユグシティの中央広場に面した五階建ての建物。

 明らかに外見がほかの建物とはレベルが違うもので、『アルバ政府役所』だ。


 一階部分に『こういう要望を通してくれ』とか『税金納めに来た』とか、そういう『政府にかかわる手続き』のために使われるカウンターが何種類か用意されている。


 そして、基本的に閑散としている。


 要望書を通すといっても、あらかじめ『何を言いに来たのかが予測されている』のだ。

 そこで働いている職員には適切が回答が用意されており、理屈が通じない場合は強面(こわもて)でムキムキの男がスッと出てきて対応することになっている。


 要するに、『ものすごく気持ち悪い』のだ。


 住民が何を考えているのか、どんな不満を持っているのか、そんなものは人それぞれであり、行政に頼るレベルなのかどうかも個人次第。


 それなのに、どんな人が何を言いに来て、最終的にどうしたいのかがすべてあらかじめわかっているなど、背筋が凍るだろう。


 もちろん、閑散としているだけでゼロではないので、たまに来たりするのだが、結構すんなり帰っていく。というか、必要書類を提出するだけの人間が時々いる程度というのが現実だ。


 上司がキモいくらい優秀だとどうなるのか。というのが如実に出た職場ともいえるが、基本平和だ。


 で、そういう職場なので……。


「ハッ! ガラガラじゃねえか。政府には何も期待してねえってのがよくわかるぜ」


 ルイベルのようなバカがやってくるタイミングも分かるということだ。

 ちなみに、職員は緊張した様子はない。

 なんなら、彼らは『同意』している。

 政府というか、ヴィスタに対して『ちょっと加減してくれません?』という期待が全然できない場所であることは否定できないからである。


「おい、ここの責任者を呼べ。どうせ俺のものになるんだから、今のうちから媚びを売りに来るなら多少は――」

「はいはい。ほかの人の迷惑になりますから、移動しましょうねー」


 クッソ棒読みでセラが近づいた。


「あ? 何だよお前……」


 イラついた様子のルイベルだったが、セラを見て言葉を失った。


 セラは基本的に、上半身はきっちりしているが、下半身は股下がほぼないマイクロミニスカートで足をガッツリ見せているのだ。

 しかも、露出の少ない上半身もFの巨乳が存在感を主張している。


 顔も『美貌』といって差し支えない。

 ルイベルはここに来る前に高級娼館でサッパリしてきたが、そんな場所であってもお目にかかれないような金髪碧眼の美少女である。


「私はこの大樹国アルバの全権代理を務めているセラといいます。ルイベル・ユフェードですね。部屋を用意していますから、そこで要件を済ませてください」

「おいお前、俺の女になれ。って、お前が全権代理? ならついでに、この国も貰ってやるよ」

「……」


 セラは一瞬、『何言ってんだふざけんじゃねえぞ汚物権化』と言おうとしたが……


「何言ってんだふざけんじゃねえぞ汚物権化。生きる価値ねえ短小が調子のんなよアァ? 五体満足で実家帰れると思うなよこの脳内チンパンが」


 我慢できなかった。なんなら暴言が増えた。めっちゃ増えた。


「セラ、口調」

「あら、すみませんね」


 めちゃくちゃ奇麗な営業スマイルになるセラ。


「……」

「ん?」

「どうした?」

「……マスターの『進行表』だと、『立ったまま気絶する』って書かれてるけど」

「刺激が強すぎたか……」


 ユフェード公爵家は神聖国の中でもトップクラスの権力者だ。


 当然、そんな貴族の嫡男である彼に対し、『明らかな暴言』というものはいない。

 というか、社交界でぶつかり合うのが主に『皮肉』であり、ストレートな暴言ではない。


 そもそも社交界の場でそんな暴言を吐いたら、それを種に『不利』になるので、あえて皮肉をかぶせるのだ。


 ただ、セラはそんなことしません。

 いや、する時はあるだろうが、しない相手には絶対しません。


「コレどうします?」

「コイツの拠点に返しておこうぜ。ずっとここにいても邪魔だしな」

「ダイナもひどいですね」

「お前ほどじゃねえよ」


 このやりとりをみていた職員たちとしても苦笑いである。


 確かに、セラの内部がかなり『黒い』ことはわかっていた。

 時々口から出てくる言葉がかなり汚いうえに、普段はいい微笑を浮かべていることもあって、急に言われるとなかなか『!?』となる。


 ルイベルとしても、もともとストレートに暴言を言われるような立場ではないし、こんなきれいな顔からあんな暴言が飛んでくるなど、想像もできなかっただろう。


「さてと、とりあえずあの商会に運んでおきましょうか」

「だな。しっかし、アイツらもフェラリムから遠路はるばる、ご苦労様って感じだよなぁ」


 セラとダイナはドゼラフたちに会っていない。

 が、ヴィスタにとってそれは予想済みで、あの三人が来ていることはすでにわかっていたこと。


 総指揮をルイベルがとっており、その扱いに困っていることも、すべてわかっている。


 だからこそ、ダイナの口から、『遠路はるばる』という言葉が自然と出るのだ。


 というわけで、ルイベルは来て早々アレだが、商会のほうにお帰りになってもらおう。

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