第31話【強硬派SIDE】 馬鹿に権力=猫に小判
「通信設備はどうだ?」
「順調です。あと一週間もすれば完成しますよ」
「はっはっは! ここの連中は馬鹿だよなぁ。まとまった土地を俺たち強硬派に格安提供なんてよぉ」
「大声を出すな。どこに耳があるかわからんぞ」
ユグシティのとある建物。
一階部分に棚を並べ、そこに武具やポーションを置いているところだけを見れば、『世界樹ダンジョンに向かう冒険者向けの店舗』といえるだろう。
世界樹の地下はあまりにも広大であり、真っ黒の木材を落とすモンスターはうじゃうじゃいる。
しかし、相手は植物型モンスターなので、剣で行ってもいいが、メイスや斧など、打撃系、重量系の武器が非常に効きやすい。
特に質の高い木材を落とす『奥』ならばともかく、小遣い稼ぎのような気分で向かうのなら、適当にぶち当てるだけでも効果的なそれらの武器は需要がある。
『世界樹の地下ダンジョンから木材を取ってきたら、今なら高く売れる!』
という文句だけを聞いてやってきた低ランクの冒険者たちとしても、自分が持っている切れ味の悪い剣より、分割払いでメイスや斧を使った方が稼げるので、なおさら人は来る。
要するに、『まっとうな商売をしている店舗』という体裁を整えやすいのだ。
その『上の階』では、会議室で数人の男たちが集まっていた。
というか……具体的に言えば『四人』なのだが、そのうち三人は、『都市フェラリム』にある神聖国大使館でアラガスと同じ会議室にいたメンバーだ。
「なあ、ドゼラフのおっさんよぉ。宝剣を奪われるだなんてありえねぇ失態を犯したアンタを拾ってやったのを忘れたのかよ。俺に口出しする権利はねえの。わかる?」
「……」
『湖の決戦』で宝剣を奪う部隊を指揮していたという男。
アラガスの三人の部下の中でも『別格』といえる風格があり、名はドゼラフというらしい。
「拾ってやった? 調子に乗るなよルイベル・ユフェード! お前がどこにも拾われないから、上がお前をここに押し込んだのがわからないのか!」
「うるせえんだよエルネス。年上には敬語使えや。これだから平民は――」
「具体的な計画を何も立てていないお前に敬語を使えと言っても無理な話だろう」
「はぁ? 計画立てて全部利用されたお前らに言われたかねえよバーカ! ジャスパー。調子に乗るのもいい加減にしろよ?」
ルイベルも外見は若いが、そんな彼に名を呼ばれたエルネスはさらに若い。
そして、ルイベルよりは年上であるジャスパーという男性も諫めようとはするが、聞く様子はない。
とはいえ、経験値としてはジャスパーのほうが断然上だろう。
ジャスパーはエルネスに『アラガスがヴィスタに憎悪を抱く現状とその理由』を正確に説明したことがあるので、おそらく、アラガスの部下として付き合いが長かったと思われる。
……そう。
ドゼラフ、エルネス、ジャスパーの三人は、都市フェラリムにあった神聖国の大使館で、アラガスと同じ会議室に座っていた男たちだ。
「いいか? 世界樹を帝国強硬派のものにする作戦。その総指揮を執るのは、俺だ。ったく、お前らは俺の指示に従えばいいんだよ。そんなことも分からねえのか?」
「お前が総指揮なのは上の指示だ。それは認めましょう。だが、相手はあのヴィスタ・アルバだ。油断など言語道断! 敵の本拠地が目の前にあるんだぞ。警戒だ! 一にも二にも警戒すべきだ!」
「はぁ、だからさ。こうして本拠地の目の前まで踏み込んでやったのに、相手は何もしてこねえじゃねえか。どうせ何もわかっちゃいねえよ。自分たちがうまくいかなかったからって相手を過剰評価しやがって」
「お前は敵にしたことがないからわからないんだ。アレは――」
「エルネス。そのあたりにしておけ」
「ドゼラフさん。しかし……」
「いいから黙っていろ」
「……わかりました」
「くくっ、ドゼラフのおっさんはわかってんなぁ。ま、俺が通信拠点を完成させて、世界樹を俺のものにすれば、莫大が報酬とともに、世界樹の力をすべて使える。そうなったら、雑用として引き続きこき使ってやるよ」
ルイベルは椅子から立ち上がった。
「どこに行く」
「はぁ? お前たちに言う必要はねえだろ。ま、調査だよ。調査。それじゃ」
ルイベルは下品な笑みを浮かべて出て行った。
「……あの表情なら、向かったのは娼館だな」
「『上』から貰った予算が多いからって、高級娼館に行きますか普通」
「好色家という噂はあったが、これほどとは」
「あれで神聖国侯爵家であるユフェード家の嫡男。あそこまで展開が読めないなんて……」
「敵が無警戒だと思ってるようだな。あの男なら、そんなことはあり得ないが」
三人ともため息をついている。
最も、それで解決はしない。
「今回の人事。どう思う?」
ジャスパーがドゼラフに目を向ける。
「おそらく、ルイベルは捨て駒だろう。というより、アラガスの『五万の軍勢』を見て、上は『愚か者にデカい灸を据える』ことの重要性を思い知ったようだ」
「そういえば、あの後、あの五万の軍勢がどうなったのか聞いていないが……」
「神聖兵団第一軍団長。イグライト・ドーヴェルタ。覚えているか?」
「会ったことがある。精神性はルイベルと似通っていたな」
「あの一件の後、兵団をやめてしっかり勉強しているようだ。特に、強硬派の内外問わず勢力図に関する意見や資料を重点的に集めている。私は『二度と虎の尾を踏まないため』と予測しているがね」
「なるほど。で、ルイベルに対しても何らかの『反撃』があると予測して、一度プライドをバラバラにしたいと」
「そういうことだろうな」
人間が人の言うことをしっかり聞くのは、大きなミスをしたときだけだ。
だからこそ、成長させるのがうまい人間は、新人をうまく失敗させる。ギリギリ難しいと思える仕事をやらせたりするのだ。
ただ、ルイベルの立場だと、『部下が無能だった』という思考で逃げてしまうので、ヴィスタを敵に回すことで『徹底的にぼろ負けしてもらう』ことで逃げ場をなくし、本人にプライドがバラバラになる経験をしてもらうということだ。
スパルタもここまでくるとすがすがしい。
「……だが、相手はあのヴィスタで、対象がルイベルとなると、まともな作戦が行われない。ヴィスタ・アルバを相手にしたことがある我々がうまくフォローしろということだろう」
「……はぁ、アラガスさん。うまく逃げましたからね。私も逃げたかった」
「エルネス。それは言うな。私もそう思っているからな」
「お前たちいい加減にしろ」
「じゃあドゼラフはどう思っている」
「……ヴィスタを相手にするのは嫌だな」
満場一致である。彼らは逃げられないけど。
「……話を計画に戻そう。これ以上は空しい」
「そうですね……はぁ、盛大に返り討ちにあうのが目的……アレ、おかしいですね。もしかして、『上』は世界樹を手に入れられると思っていないのでは?」
「いや、世界樹自体は手に入れようとしている。ゴールは、ルイベルは帝国に潜む強硬派……というか、アイツの場合は自分が手に入れると考えているようだが、『上』としては、神聖国側で最終的に抱えるつもりだ」
「距離の問題があるからな」
「ああ。要するに、通信魔法があればどうにでもなると言いくるめられているのは、ルイベルも同じという訳だ」
「やってられません……というか、ヴィスタ・アルバを相手にするのが本当に嫌です」
「そうだな。私も勝てるとは思っていない。要するに……我々は『勝てると思っていない勝負』という『茶番』を踊るということだ」
ドゼラフはため息をついた。
「『上』は世界樹を手に入れようと思っている。これは間違いない。我々も足りない頭を振り絞るぞ」
なんとなく、アラガスの気持ちがわかってきた三人である。




