第30話 そもそもコイツら、どういう計画なの?
帝国からやってきた、帝国民の皮をかぶった神聖国強硬派出身の冒険者。
大樹国アルバの首都である大樹街フレスヴェルで調子に乗った面々はそのような分類となる。
「そういや、アイツらって結局、何が目的なんだろうな」
「どういう意味ですか?」
ソードハウスのヴィスタ執務室。
そこでは、セラが椅子に座って重厚な机で書類を作っており、ダイナがルービックキューブをガチャガチャ……と音はならない消音素材のそれを回している。
ヴィスタはいつも通り、スライム杖の触手からインクを噴射して書類を作っている。
……なお、書類を作っている人が二名いるが、ヴィスタは書類の全体を作って、セラはそこにサインを入れたり、印鑑を押したりと、書類を仕上げる作業をしている。
ヴィスタのスライム杖も書類を作るには十分だが、あまりにも活字であり、人の手で書いた筆跡ではない。
もちろん、活版印刷技術は広く存在するため、紙の書類として、内容を活字にしてサインを直筆にするというのはほぼ世界で共通だ。
そのため、大樹国アルバの権力者の中で『全権代理』であるセラがサインを入れている。
ヴィスタにペンを握らせると、『ヴィスタ・アルバ』という名前を書くだけであっても三枚が限界。印鑑は押し込んだ感じが全くしないため、どうしようもないのだ。
というわけで、書類を作るのはヴィスタだが、仕上げるのはセラという形になっている。
「いや、神聖国と王国にいる強硬派が失態を犯して、帝国に潜んでるのが調子に乗ってるのはわかったけど、『その上で大樹国に来る』っていうのがよくわからん」
「あまりにも距離が遠いからね。運送距離もその費用も馬鹿にならない。『独占』を掲げ行動しているけど、『帝国民が大樹を独占するのは無理がある』から、疑問に思ってるわけだね」
「まあ、そんな感じだな」
『北』に位置する大樹国アルバに対して、方角的に『南』に位置する帝国が関わろうというのがそもそも困難な話。
だからこそ、八風は大樹国と帝国の国境で最短距離となる『レッドエリア』を開放し、そこに集まれる場所を作ることで、大樹国を関わらせようと計画しているわけだ。
「まあ順当にいえば、『強硬派が抱える』をゴールにすることだね」
「ん?」
「王国や神聖国にいる面々は失態を犯したけど撤退はしていないわけで、帝国の派閥がうまく頑張って『独占権』を手に入れて、神聖国の強硬派に全部ぶん投げれば、『強硬派が世界樹を独占する』という目的は達成できるわけだ」
「だよなぁ。だけどアイツら、帝国で世界樹を独占するって話してたぞ」
「確かに、たとえ大樹国が帝国としか組まないと宣言したとしても、神聖国と王国から抗議が入るでしょうし」
帝国の中に潜む強硬派はあまり多くない。
というか、モンスターの出現数が多く、とりあえず今日をどうにかしようという都市や村がかなり多いのだ。
多少の不満や煽りなんて寝たら忘れるレベルである。
そのため、強硬派が入り込んでうまく操ろうとしているが、なかなかうまくいかない。
よほどの予算をかけないと帝国をどうにか誘導することは困難である。
要するに、強硬派は帝国内で味方を増やすことができていない。
そして、神聖国の保守派は、人口1000万人の神聖国の中で八割の800万人であり、権力も強いため、『帝国が独占する』という形になったらまず抗議が入るし、これにあらがうのは相当困難だ。
「まあそこは、上が考えている計画と、末端にとりあえず言っていることに差があるというだけだろうね。行動した結果手に入れたものを抱えていたいというのは普通の考え方だよ」
「なるほど、帝国に潜んでる中で上の人たちは、『独占権を神聖国強硬派に渡すことで手柄にする』と考えていますが、それだと下の人たちが『なんで俺たちが手に入れたのに神聖国に全部渡すんだ?』と言い始めて納得しないから、『差が出ている』と」
「神聖国側だって、自分たちに渡さないとそもそも独占が現実的じゃないのはわかりきってるもんな。なかなか受け取らないように時間を稼いだ場合、帝国側が独占できたとしても維持できねえから、あれこれ理由をつけて報酬をいじるってわけで……やる気でねえなマジで」
距離の問題があるので、どのみち帝国が独占権を手に入れたとしても、神聖国側に渡す必要がある。
その際に『帝国側に潜んでいる連中への報酬』がカギになるわけだ。
とはいえ、神聖国側も、『自分たちに渡さないと独占は維持できない』のはわかっている。
『どのレベルの報酬を渡すのかの交渉』を長引かせれば、いずれ神聖国保守派と王国が動き出し、そして帝国民も『放棄』を選び始めるだろう。
そのような『反強硬派』の動きが強くなれば、いずれ大樹国は世界樹を管理する『主権』を取り戻す。
そうなると苦労をかけた割に水の泡になってしまう訳だが、強硬派としては独占権を放棄するデメリットは大きいので、どこかのタイミングで交渉を終わらせるだろう。
その結果決まった『報酬』がどのレベルになるのか。
派閥争いというのは何事も面倒なものである。
「確かにやる気は出ませんね。ただ、こちらに送られてきている冒険者たちは、その上の考えがわからないと?」
「あー。確かに、帝国が独占するっていうのが現実的じゃねえって、ちょっと考えりゃわかるよな」
「それは、帝国に潜んでる連中の一部が『通信魔道具』の研究をしているから、それで距離の問題はどうにかなるってうまくごまかしてるんだよ」
「え、そんなことやってたのか!?」
「そうだよ。現在、『通信魔道具』の実用化に成功しているのは冒険者ギルドだけ、しかも上級職員だけが利用できる。帝国に潜んでる連中はこれを研究しているんだよ」
「どれくらいの完成度なんだ?」
「音に関する魔法を研究しているみたいだね。今のところ、録音機はそこそこの値段で買えるよ。リドナーエ家でも、保守派からのルートで何個か買ったね」
リドナーエ家には付き合いが長い保守派の商会として『コートス商会』がある。
そのルートだろう。
「へぇ……あ、なんかそれっぽいのあったな」
「で、通信のほうだけど、準備さえしっかりできれば、できなくはないかな」
「そうなのか?」
「世界樹はありとあらゆる植物を成長させる力を持っている。というか、結果的にそれができる。帝国はモンスター素材の宝庫みたいな場所だから、品種改良で作った『植物型モンスター』をうまく栽培できれば、体内から魔石を回収できる。それをもとに、通信魔道具を動かそうっていう計画だろうね」
「魔法の構築が多少は杜撰であったとしても、消費する魔力量を多くすることでゴリ押すというのはよく聞く話ですし、そこは私もわかりますが……」
「え、じゃあ、すでにユグシティに通信拠点が作られてるのか?」
「もちろん」
「なぬぅ!?」
すでに作られている。という質問に『もちろん』と即答されたため驚いているダイナ。
「え、放置でいいのか?」
「レッドエリアの開放のために利用する気満々だから、むしろもうちょっと早く準備してほしいまである」
「人の心ねえなコイツ」
「セラ、口調」
「あら、すみませんね」
「まあ、俺もひでぇとは思うけどな……」
こう、なんというか、ここまで敵に惨めな思いをさせることに躊躇がない人間もそういない。
何度でも言おう。悪いのは強硬派。ひどいのはヴィスタである。




