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第3話 『急所』の意味。そして人は集まる。

「ふう……マスターの予想だと、初日は二百人だったな。事情を考えるとそれぞれが知りあいってことはないだろうし、とりあえず、これだけ作っておけばいいだろ」


 ナズズ村跡地にて、ダイナは手に持っている紙と目の前の光景を見比べながら頷いた。


 この村の空き地にヴィスタの小屋が作られたわけだが、その周囲には『住宅街』と呼べるものが出来た。


 ダイナが持っている資料には、『先住民の人数は三十人』と記載されており、当然、開拓された森林の規模もそれ相応の物。


 流石に二百人を一気に詰め込むと破綻するので、ダイナが物理的に木を切り倒して切り株を取り除き、加工して建材にした。


 それを元に、二階建てのアパート。一階と二階に部屋が五つずつ並んだ十人規模のものをニ十個用意した。


 それを並べても問題がないほど拡張されており、ダイナの能力値がエグイレベルに到達しているのは紛れもない事実。


 そんな光景をヴィスタの小屋の上から眺めて頷くと、中に入った。


「ふぅ……マスター。とりあえず二百人に個室を与えらえるようにしたぜ」

「あぁ。初日はこれで大丈夫……」

「喋れるようになってたのか」

「いつまでもしゃべれないと困るからね」


 栄養剤をチビチビ飲みながら、ヴィスタは話す。


「はぁ……まあなんていうか、正直大丈夫なのかって思ってたけどな」

「毒の抗体の話か」

「ああ」

「この森にある毒の霧は魔力を吸って増えていて、ダイナの魔力知覚だとその毒が何となく認識できる。で、相当強い毒だったわけだ」

「そうだな。ていうか気になってんだが……」

「森の外じゃなくて、森の中に住むって決めた理由かな? 私はアルバ地方に追放と決まったが、アルバ大森林に追放とは言われていない。森の中にしか毒の霧がないし、なんで森の外に拠点を作らなかったのかが気になったわけか」

「……」

「ダイナは私の言うことを基本疑わないだろうけど、それでも、私の考えを聞けば半信半疑になる。だから結論だけ言おう。『後で森の外から森の中に拠点を移すのが面倒』だからだよ」

「……全然わからねぇ」

「だろうね」


 チビチビ栄養剤を飲むヴィスタ。


「あと……」

「私が書いた『透明魔力説』の論文。アレになんで【教会】がビビり散らかしたのかがわからない。と言ったところか」

「だな」

「これに関しては順序よく説明すれば簡単だけど、聞く?」

「マスターの喉が大丈夫なら」

「半日休めば喋れる程度になるよ。そうでない時もあるけど」


 簡単に言うとね……と続ける。


「まず、【教会】の中で最も大きな収益っていうのは、まあ……彼らの言葉に合わせて『寄付金』ってことにしておこう。で、二番目は『治療事業』だ」

「あー。確かに、回復魔法が使える奴を発見したら、囲い込みすごいよなアイツら」

「そういうのを囲って、『治療師ギルド』を作ってあちこちで運営させてる。治療費はまあ高い方だよね。あとまぁ、治療薬に関してもかなりの情報を集めてる」

「二年前。毒霧竜の討伐に向かわせる時、大量の解毒ポーションを売ってたもんな。それも込み……ああ、だから『治療事業』って言ったのか」

「そう。ただ、解毒ポーションを作る時、性能を上げる場合は回復魔法を混ぜるのが効率良いし、実質同じものだね」

「ああ……」

「言い換えれば、彼らは『回復魔法の独占』をすることで、そのビジネスを形成しているわけだ」

「うーん……うん」


 まだピンと来ていない様子のダイナ。


「で、【教会】が広めてる魔力の性質っていうのは、『魔力そのものに属性が宿っている』という説なんだ。まあこれを『属性魔力説』と言おう」

「……そんな言葉、聞いた事ねえけど」

「無意識に植えつけるような教え方だから仕方ない。これを広める利点は、魔法を使おうとしても使えない場合、『適正がない』という言い訳ができるわけだ」

「適正……」

「魔法を使おうとして、最初に水を出せた場合、自分の魔力には水属性が宿っている。同じ人間が火を出そうとしても出せない場合、自分の魔力に火属性は宿っていない。そういう認識だね」

「ほう……」

「だけど、私の『透明魔力説』っていうのは、そもそも魔力に属性など宿っておらず、使用できる属性は『先天的な適正』ではなく『後天的な訓練量』で決まる。ということだ」

「ほー……なるほど」

「もちろん、才能の質も量も個人で違うが、それは『得意不得意』であり、『可能不可能』ではない……もうわかるね?」


 ダイナは頷いた。


「要するに、マスターの『透明魔力説』が世間に露呈すると、『回復魔法の独占』ができなくなるから、ビビり散らかしたってわけか」

「その通り、ただ、回復魔法の取得難易度が高いことは事実。だけどね、『絶対じゃない』ってことは研究の余地があるってことだ。だけど研究されたらこまるから、私を始末したいってことだよ」

「理解した。確かに、順序よく言われると簡単だ」


 独占。

 素晴らしい響きであり、それができるのならば、間違った情報などいくらでも広める。


 それが権力という概念の『悪性』であり、利権という蜜の甘さに呑まれた人間は止められないものだ。


 そしてそれが脅かされるとなれば、滅茶苦茶な論理を『正しいように見える道義』で押し通すことなど、人類の歴史を見れば繰り返されているのがよくわかる。


「てか、マスター。『凄い』より『気色悪い』って言われねえか?」

「それを一番言う人がこれから帰ってくるよ」

「何の話をしているんですか?」

「あ、セラ。お帰り」


 スーツを全く汚さずにセラが帰ってきた。

 ちなみに……森の中を、足をほぼ露出させた状態で移動していたはずだが、綺麗なままなのはダイナにもよくわからない。


 で、セラの後ろには人が大勢いて、どこか安堵した様子である。


 毒が治り、大量の雨風をしのげるアパートがあるので、とりあえず『住』は大丈夫だと思ったからだろう。


「毒霧竜の毒って、肌が紫色になるって聞いたけど、もう治ったのか」

「最新式の解毒剤は飲ませましたからね」

「……セラ。怖がらせてないよな。こんな環境だし、第一印象は大切だぞ」


 ヴィスタが細い声で話す。

 セラは微笑を浮かべて頷いた。


「もちろんです。きちんと対応しました」


 そういうセラ。

 ただ、後ろにいた誰かが呟いた。


「そうか? 最後の方は面倒になって、無言で解毒剤をぶっかけてたような……」

「何か言いましたか?」

「いや、何も……」


 セラが良い笑みを浮かべながら視線を向けると、呟いた男は訂正した。


「……ふぅ、とりあえず、挨拶くらいは必要かな」


 ヴィスタはベッドの傍に置いてある杖を取ると、そのままベッドからゆっくりと降りる。


 途中、ダイナがヴィスタの体を支えて、窓まで連れた。


「窓から失礼。私はヴィスタ。しばらく、ここに厄介になる者だよ。よろしく」


 挨拶したヴィスタ。


「……病み上がりの私達よりすぐ死にそう」

「シーッ! そういうこと言うな!」


 十歳くらいの女の子が呟くと、先ほどセラの余計な部分を言って睨まれた男が止めている。


「安心してくれ。自覚はしている。公の場じゃなければ『もやし』でも『ごぼう』でも何でも呼ぶといい」


 今もダイナが彼の体を支えている。


 喋れる程度ではあるが、本来は自分の体を自分で支えられないのだろう。


 もやしとかごぼうとかそれ以前の問題だ。


「昨日までこのナズズ村には何もなかった。それは君たちも知っているはず。だけど、ダイナが半日でここまで仕上げてくれた。セラの優秀さは君たちも理解していると思う。で、私は二人のまとめ役だ」


 全員を見渡す。


「この村……いや、もう小さい町といって良いか。私が決めたルールに従い、この町に住む限り、余裕のある生活を保障するよ。これからよろしくね」

「解毒剤のレシピはアンタが書いたって聞いたからな。命の恩人だ。こちらこそよろしくだぜ!」


 先ほどから返事が多い男。


 というか、病み上がりなのにここまで歩いてきて喋れるというのも、なかなか頑丈な身体だ。


「というわけで、私はそろそろ限界だからベッドで横になるよ」

「ゾンビのお兄ちゃん。頑張ってね」

「頑張るよ。頑張るけど……なんかゾンビで広まりそうだな。まあいいんだけどね。もっとひどいこと言われたことあるし」


 言いながらベッドに横になる。


「あ、そこの紙、取ってくれない?」

「ああ、はい」


 ダイナが机の上に置いてある白紙を取ってヴィスタに渡す。

 ヴィスタが杖を手に取ると、持つ場所から触手のようなものが飛び出てきた。


「……その杖、確かスライムだったな」

「その通り、私が考えていることをある程度認識してくれる。インクも出せるから、書類は私が作っておくよ」


 ヴィスタはダイナの方を見る。


「というわけで、プランCで皆をまとめてほしい」

「わかった」


 ダイナも窓から出てみんなの前で話し始めている。


 ヴィスタはそれをうっすらと聞きながら、次々と作られていく書類を見つつ、溜息をついた。


「はぁ……最善から四番目ってところかな。ま、何とかしようか」

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