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第29話 説得でも制御でもなく、焼きを入れる

 当然のことだが、大樹街フレスヴェルにも宿屋はある。


 食べ物はおいしいし、家具は落ち着いた雰囲気で、素材に関しては世界樹の力があるので一級品であり、設計はヴィスタで作ったのはダイナなので質も十分。


 もちろん、金や銀は大樹国ではなかなか採掘できないので、ユグシティで購入することになるが、まあそんなものがあろうがなかろうが、『世界樹の地下ダンジョンから供給された聖木』であるということは大きい話であり、満足度が高いものになっている。


 ヴィスタが用意した解毒薬を使って回復した国民の中で、宿屋にかかわっていたメンバーが何名かいたため、ヴィスタが作ったマニュアルをもとに運営しているところだ。


 ……といっても、外部から来たほとんどの人間はユグシティに集まるので、人はあまり来ない。


 朝森八風はそんな宿屋に泊まることにしたようである。


「しっかし、レッドエリアねぇ……」


 八風がソードハウスを去ったあと、ヴィスタの執務室でダイナがつぶやいた。


「正直、そこにいるモンスターを相手にしようと思ったら、最低でもBランク以上で集めないといけないと思うけど、集まるか?」


 冒険者ギルドでは冒険者個人にランクをつけている。


 大雑把に。


 S 人外

 A 天才

 B 上級(優秀)

 C 中級上位

 D 中級下位

 E 下級

 F 初心者


 といった分け方である。CとDに関しては、地域によって『中堅上位・下位』といった呼び方をする場合もあるが、大樹国周囲ではこんな感じだ。

 なお、ダイナはSSランクへの昇格試験を辞退し、冒険者をやめてリドナーエ家で働き始めたわけだが、SSランクは簡単に言うと『謎』である。


 SランクもSSランクも一般人からすればわけわからないほどの化け物であり、その差がどこにあるのかはわかりにくい。

 一応、冒険者ギルドの中では明確な線引きをしているようだが。


 まあそれはともかく、ダイナは今回、Bランク以上の冒険者が必要といったので、それを加味すると、『上級』であり、『優秀』な冒険者を数多く集める必要がある。


 ただ、この手の冒険者は『同じ地域で長い経験を積んだことでその評価が認められた』というケースも多い。


 それに加えて、自分の実力で今の評価を勝ち取ったプライドを持つものも多く、それだけの人間を抱えられる器というものをどのように用意するかという話でもある。


 一部の人間はヴィスタの頭脳が尋常ではないレベルに達していることがわかっているものの、言い方はアレだが、彼は広義的には『自分一人では何もできない口だけ野郎』なので、行動原理の中で理屈の割合が低ければ低いほどいうことを聞かない。


 単に国民をまとめるのと、冒険者をまとめるのは扱い方が大きく違う。


「まあ、そのあたりはどうにかするよ」

「はぁ……ならいいけどよ」

「とはいっても、八風が今すぐに欲しがっているのは食料の確保手段だから、私が室内や地下でも十分に育てられる穀物を作って、それを渡せばいい話ではあるんだが」

「そもそも論か」

「そうだね。ただ、八風としては、それ以上にレッドエリアを利用した『集まれる場所』を作りたい理由があるんだよ」

「どんな理由が?」

「『外』に対抗するため。神聖国、王国、帝国の三つがこの辺りでは大きい国だ。ただ、神聖国の西に縦に伸びた山脈があり、帝国の南には横に伸びた大運河がある。強力なモンスターが住み着いていることで外とかなり隔絶した環境だけど……いや、これ以上はまだいいか」

「ん?」


 ダイナはヴィスタが言葉を切ったタイミングが気になったが……。


「おいおい。なんだよこのシケた町は!」

「大樹があるってのにコレって、レベル低すぎだろ」


 バカ騒ぎしているのが聞こえて、ダイナはそちらに意識を向けた。


 窓から外を見てみると、十名くらいのガラの悪い男たちがフレスヴェルの広場に来ている。


「なるほど、調子に乗ってるやつら。か……」

「ダイナも無鉄砲さに関しては見習った方がいいと思うけどね」

「ハハハ……勝ち馬に乗りたいだけの俺には無理な話だ」


 ダイナが苦笑していると……。


「おい、ここで何をしている」


 八風が彼らに接触している。


「あ? 何だよてめぇ」


 リーダーらしい男が八風をにらみつけている。


「調子に乗っている人間を注意するのに立場は関係ない。見ての通りのどかな場所だ。騒がしくするのはやめてもらおう。少し歩けばでかい都市があるから、騒ぐならそっちでやれ」


 一歩もひるむことなく言葉を連ねる八風。


 ちなみに彼らの行動に関して、帝国の首都である帝都で行うのなら、八風は実は文句を言わない。


 王都と聖都に比べれば、人数は多いが文明レベルはそうでもないのが帝都であり、そこには屈強な男たちがどんなモンスターを倒したのかを自慢している光景がどこにもある。


 当然、彼ら自身も騒がしいわけで、都市の人間たちはそれに慣れているし、何よりモンスターの出現数が多く運搬事故も起こりやすいので、ポジティブシンキングじゃないと乗り越えられないのだ。


 威勢がいい程度なら問題はない。


 だが、外に出れば違うというのは弁えておくべきだ。


「はぁ、マスターがいるところであんな調子に乗って……いつの間にか掛け金が自分の命になってても知らねえぞほんと」

「ダイナは私を何だと思ってるんだ。私が遠慮しないのは裏切り者だけで、敵には配慮するよ?」


 なんてことを話している二人。


「うるせえ! こんなカスみてえな町が、大樹国の首都だなんてふざけたこと言ってんのが悪いんだよ。さっさと帝国で抱えちまえばいいだろうが。どうせ宝の持ち腐れなんだからよ。その方が世界のためってやつだ」

「……」


 八風は黙った。


 何を言っても無駄だからだ。

 それがどういう意味なのかというと……そもそも彼らは『帝国から冒険者』という分類だが、彼らは帝国民ではない。


 大量のモンスターという脅威を常に目の前にして、助け合わなければ乗り越えられない帝国民とは大きく精神性が異なる。


 彼らは神聖国の強硬派から流れてきた『他国の人間』なのだ。


 要するに、相手の言い分を認める気はなく、自分の言い分が通ることだけ考えて行動する。


 世間ではそれを『捨て駒』と言ったりもするが、まあ、考えても無駄か。


「説得でも、抑え込むでもなく、焼きを入れろか……なるほど」


 ヴィスタから頼まれたことを思い出して、ため息をついた。


「てか、誰だお前は、ここの人間か――アアアアアアアアアアアアッ!」


 八風は先ほどからうるさい男の顔面を掴むと、そのまま持ち上げる。


「はぁ……」


 用意していたのか、男を持ち上げたまま近くの小屋に入る八風。



 バキッ!


 ドゴッ!


 ズガッ!


 グチャッ!


 メギャッ!


 ――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアァァァァァ……


 ……最後に断末魔が聞こえた気がする。


 パンパンと手をたたきながら小屋から出てくる。

 そして、次の人間に近づいて転ばせると、足を引っ張り始めた。


「お、おい! 俺はまだ何も――」

「連帯責任」

「なっ、ふざけんじゃねえ!」

「先にふざけたのは君たちだ」


 というわけで、八風は次の人間を連れ込んだ。


 ……で、折檻の音が響いて最後に断末魔が聞こえた。


 次に八風が出てきたとき、残りのメンバーは逃げ出していたのか、そこにはいなかった。

 それを見た八風の瞳が、魔力を帯びたように一瞬光る。


「……まったく、マーキングしてるに決まってるだろうに」


 次の瞬間、八風は消えたかと思わせるほどの速度でその場から駆けていった。


 ……。


「なあマスター。あれでいいのか?」

「帝都にも調子に乗るやつは多いからね。仮に彼らが私たちに抗議してきても、彼らを帝国に送り返したら、今度は帝国民からボコボコにされるだけだから」

「……」

「どうしたの?」

「いやあの、ケラダホア王国って、剣で切り拓いて作られて、今も剣を使った功績が認められやすくてさ。帝国は帝国でなんか野蛮っていうか……」

「神聖国が三大倫理を広める理由がわかるでしょ」

「あいつらがそれを言い始めたのってそこが原因なのかよ……」


 何事にも理由はある。

 ただ、歴史の勉強をすればわかるが、理由の中身は大体、バカな話だ。

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