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第28話 朝森八風の提案

 ルスマナード帝国。


 総人口200万人の国家であり、周囲の国家と比べると『まあまあ賢いけど根っこが無骨』という印象のある国である。


 大雑把に言えば、何か問題が発生したら『力が強ければ解決する』であり、力で解決しなかったら『だったら鍛える』になり、鍛えても解決できなかったら『これは人類には早い問題だ』としてみんなで無視するという、知恵という言葉が辞書に存在しないものになっている。

 少なくとも古い時代になればなるほどその傾向がものすごく強い。


 ただこういう国家になったのにも理由はあり、ルスマナード帝国は『人口1万人に対する年間のモンスター出現数』というデータにおいて、全国家トップクラスの数値になる。


 ……具体的に言えば、それぞれの国で年間で出現するモンスター数を記録して、人口1000万人の神聖国ならその数値を1000で割る。人口200万人の帝国ならその数値を200で割る。という比較をした場合、帝国は神聖国の三十五倍の数値になる。


 神聖国ですら、モンスターの対応というのは常日頃から悩まされているわけで、帝国だって困らないわけがない。


 というわけで、『考えるな。鍛えろ』という根も葉もない事態になっている。


 食料に関しては神聖国からの輸入の部分が大きく、体を作るために結構食べるので、借金も多い。


 ……ここまで聞くと冒頭の『まあまあ賢い』の要素がなさそうだが、一応、モンスターを対処しつつ国家として継続できるレベルにまで発展しているわけで、文明のレベルはともかく、獲得したモンスターの素材を活かす技術は蓄えられている。


 高度な経験が必要になる種類も多く、素材の加工という点において、かなりの経験を積んでいる。


 ……あと、ものすごく力がないと加工ができない素材も当然多いのだが、筋肉レベルはみんな高いので、ごり押しで何とかしてしまうのだ。


 武器や防具、戦闘で使う道具もかなり開発されているのだが、すべて『パワー』を底上げし、それを活かすようなものになっている。


 なお、注意しなければならないことがあるとすれば、『パワー・オブ・ジャスティス』というより、単に『パワー』である。


 『力は全てを解決する』というより、単に『力』である。


 そんな国家だが、三年前、とある少年がフラッと帝国を訪れてから、流れが変わった。


 ★


 ソードハウスのヴィスタの執務室。

 そこでは、帝国の裏宰相、朝森八風がソファに腰かけていた。

 反対側にはダイナが座っており、そのそばにあるベッドではヴィスタが書類を作っている。


「……とりあえず君の要件をまとめると、『レッドエリア』を開放して、帝国、王国、神聖国、大樹国の四か国が集まれる場所を作るってことでいいかな?」

「レッドエリア……帝国と王国と神聖国、三国の国境だが、今は大氾濫したモンスターで埋め尽くされてるんだよな。で、そこにいるモンスターのほとんどが赤い体の奴が多いから、『レッドエリア』って呼ばれてる」

「三国が交わる国境ではあるが、このレッドエリアの存在でしっかりした中継地点がない。黎明期から存在する問題で、解決されたことがないから、連携もイマイチだ。これを解消したい……んだけど、なんでわかった?」


 ヴィスタは『とりあえず君の要件をまとめると』と言いつつ話し始めたが、八風は何も言っていない。


 それですべてがわかったように話をされても困るというものだ。会話の仕方がわからなくなるので。


「あー。マスターはいっつもこんな感じだぜ。話す前から、相手よりも相手の言いたいことがわかってるから」

「どういう理屈だ……」


 直感に外れた領域に達している頭脳を前にすると、なんだかどうしようもなくなる。


 要するにそういうことだ。


「八風。君が姉の影響で、『何も考えてないやつが中心になって世の中は回っている』と考えているのは知っているが、私がいる場合は少し異なるから認識しておいてくれ」

「姉さんにあったことがあるのか?」

「父親に連れられていたよ。そうだな……あの子に関しては私にもよくわからん」

「だよな。そうだよな。うん」

「マスターが『よくわからん』って、どういう存在なんだ?」


 十年以上前から人がどんな感情を抱くのかがわかっているかのような化け物っぷりを発揮するヴィスタだが、一応、彼にもわからないことはあるらしい。


「まあそれはいいや。で、帝国としては、レッドエリアを開放して大樹国をかかわらせることで、その豊穣の力を取り込みたいということだね」

「正直に言えばそうなる」


 食料の大部分を神聖国に依存しているのが今の帝国である。


 神聖国にとっても、食料の良い輸出先ではあるが、それと同時に『有事の際』には輸出を控える必要があり、その事態になると帝国が食糧難になる。


 王国に頼ろうとすると、そもそも人口が帝国の半分であり、肥料の開発も進んでいないこともあって、なかなか『食料の備蓄』というのは難しい問題なのだ。


 一応、加工したモンスターの素材を他国に売ってはいるものの、莫大な食糧を解決するには至らない。


 だが、世界樹ならばその力は圧倒的であり、食料の過剰供給など造作もない。

 ただ、距離の問題がある。


 しかも、大樹国に行こうとすると神聖国と王国の許可を求める必要があり、その手続きも時間がかかるうえ、輸送費だって莫大だ。


 そのため、大樹国側から近づいてくれるのが帝国の理想だろう。


「……ただまぁ、商会をしっかり呼び込んで集まれる場所を作るとなれば、相当な『安全保障』が必要になるけど、レッドエリアだと難しいのがなぁ」

「マスターの頭脳でも難しい判断なのか」

「時間をかければ問題はないよ。すべてのモンスターの必勝法がわかってるからね。ただ、放置した年月が長すぎて、どうしようもないほどモンスターが多い。正攻法なら、順調に進んだとして最短で五年かな。でも八風、君は一か月くらいで解決させようとしてるよね」

「その通り」

「……そのタイムリミットにこだわる理由はわかってるから追及はしないが、最初に言っておく、ものすごく働いてもらうからね?」

「覚悟の上だ」

「なるほど、良い表情だ。まあとりあえず……これからここに来る調子に乗ってる冒険者に焼きを入れてくれ」

「……だよなぁ」


 バカは死んでも治らない。

 ただ、バカは殴れば黙るのだ。

 人類の躾の歴史がそこで止まったままであるという事実は変わらない。

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