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第27話 帝国から遠路はるばるエグい人が来た。

 ユグシティは現在、大金が動きまくっている。


 通貨の交換レートが決まり、『大樹国にモノを売って通貨を得て、それをもとに活動する』というまどろっこしい手順が終わり、自分たちが普段から使っている通貨が使用できるようになったからだ。


 輪転機が動きまくって紙幣が発行され、それをもとに王国と神聖国の金貨と交換。それをもとに大樹国の通貨、単位『テム』を得て取引を行っている。


 ……余談だが、『テム』というのは、古代のアルバ大森林において『薬草を入れる袋』の名前であり、決まった量の薬草が入った袋を交換することで経済が成り立っていた。

 まあ、ヴィスタが世界樹を『復活させた』ということは、言い換えれば『過去にも存在していた』ということであり、『世界樹の森における薬草』に価値があるのはわかりやすい理屈だろう。


 ……なお、薬草といっても、その実態は世界樹の力で健康に害がなくなった『タバコ』だが、これ以上の追及はしないものとする。


 一応、大樹街フレスヴェルには、元となったナズズ村にいた先住民もいるので、そういった歴史的な背景を持ち出して名前を付けていることもあり、そちら方面からも文句を言われていない。

 なんなら、『フレスヴェル』という名前も、ナズズ村を作り上げた初代村長の斧の名前である。


 とりあえず、そのような形でユグシティは大発展しており、多くの商人がその土地と聖木を求めて日々交渉している。


 ただ、ヴィスタの逆鱗に触れたくはないので、今のところ商人たちの汚さは『ほぼ白のグレー』といったレベルであり、ちょっとモヤモヤしているのは事実だ。


 『誰か馬鹿なやつが踏み込んでくれねえかな』と思いながら経営者たちがまっとうな契約書を書いているのが現状である。


 そんな中……。


 ★


「ふああ……はぁ、めっちゃ平和だな」

「あれ、ヘルバ。お前ダンジョンに行ってなかったか?」

「ん? ああ、腕を鈍らせないように入ってるよ。ただ、やっぱりここが気持ちいいから戻ってるんだよ」


 フレスヴェルの広場。

 生活に使えるマジックアイテムは商人たちから十分な数を購入したため、各々の趣味が出た露店がチラホラ並ぶ程度だ。


 そんな広場を見ながら、ヘルバとダイナはしゃべっている。

 ちなみに、ヴィスタがいる『ソードハウス』の壁に寄りかかった姿勢だ。


「それに、ここならあの店があるからな」

「ああ。あれね」


 ヘルバは一つの露店を指さす。


 そこにあるのは、一つの露店だ。

 キッチンカート……調理設備を整えた荷車を使っており、すでにそこには列ができている。


「アオイ商会の『スモルク食堂』ね」

「あそこのソーセージは絶品だからな。希少なスパイスを使わない場合はかなり安いし、フェラリムでも人気店だったよな」

「ああ。冒険者や、仕事終わりの人がよく訪れてたな。マスターはそんなに興味なさそうだったけど」

「そうなのか?」


 二人は窓の中を覗き込む。


「……私はソーセージを噛み切れないし、そもそもあんな熱いものを口に入れたら何も考えられなくなるからね」

「ソーセージに耐えられないのか……」


 聞こえてきた声に悲しい気分になってきた様子のヘルバ。


「はははっ! まあでも、結構歴史があるんだろ? あの店」

「え、そうなのか?」

「そうだね。リドナーエ家は三代目が魔道具開発で有名だけど、当時の神聖国の聖剣杯で露店巡りをしたときに、ソーセージを食べて感激したみたいで、燻製機をめっちゃ研究したみたいなんだよね」

「はー。そこからか」

「アオイ商会はリドナーエ家の初代から縁がある飲料水の商会だもんな。酒だって扱ってるし、そりゃソーセージも完成したらいいメニューだ」

「まあそんな感じで、アオイ商会の中で余ってた人を巻き込んで作ったのが、あのソーセージという訳だね。ちなみに、三代目があまりにも好きすぎて、『リドナーエ家は誕生日に自分の年齢の本数のソーセージを食べる』っていう風習になりかけたらしい」

「バカじゃねえの?」

「三代目が四十超えたら後悔して、『十本の代わりにちょっと大きいのを食べる』に変更されたよ」

「それを込みでもバカじゃねえの?」

「ソーセージおいしいからいいんじゃないかな。まあ別に強制でもないしね。私だってやったことないよ」

「ちなみにヴィスタって、あの店の普通のソーセージ、どれくらい食べられるんだ?」

「一本……いや、四十分の一が限界」


 食べた気になるのかそれ。という視線をヘルバは向けたが、ヴィスタは無視。


「四分の一じゃなくて四十分の一なんだな」

「間違えないようにね」

「昔より体が弱くなってねえか? マスター」

「強くする気はないからね」


 本人の体の弱さに関しては、一応、ヴィスタなりの計画や思うところはあるようだ。


「……すまないが、ここが『ソードハウス』で間違いないかな?」

「「ん?」」


 話しかけられた方向に振り替えるダイナとヘルバ。


 そこにいるのは、一人の青年。


 緑が少し混ざった黒髪を切りそろえて、一部、白いメッシュが入っている。

 身長は170程度で、引き締まった体格をしており、それをシャツ、ズボン、ロングコートで覆っている。


 左腰には刀を装備しており、彼の主武装なのだろう。


 全体的に落ち着いた……いや、疲れているような雰囲気をしている。


「近づくまで全く気が付かなかったぜ」

「ああ。俺もだ」

「すまないが、気配を消しているつもりはないし、これが自然体でね」


 そう言いつつ、青年は窓に近づいた。

 そして、ヴィスタを見る。


「……彼は生きてるんだよね」

「よく言われるけどちゃんと生きてるよ」

「失礼した」


 青年は軽く頭を下げる。


「それで、初めましてだね。まずは自己紹介からか。僕は帝国冒険者ギルド所属。Sランク冒険者、朝森八風(あさもりやかぜ)。よろしく」

「大樹国アルバ宝剣所有者(ソードホルダー)、ヴィスタ・アルバだよ。そうだな……帝国の『裏宰相』が遠路はるばる。と言っておこうかな」

「噂は本物か……」


 本来は隠しているであろう役職を言われたためか、ため息を我慢したような顔つきになった。


 何かをあきらめたような雰囲気を醸し出しているが……これはまあ、ヴィスタといればよくある話である。

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