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第25話 ヴィスタの趣味は『役者集め』

「なあマスター」

「ん?」

「思ったよりなんも変わってなくてびっくりしたんだけど」


 大樹街フレスヴェルのヴィスタの小屋。

 最近、町の人間が『ソードハウス』と呼ぶことが多くなったのでこれからはそう呼ぶとして、ヴィスタの執務室にダイナが来ていた。


 窓の外から町を眺めているわけだが、正直、あまり変わった様子はない。


「最初に言った通りでしょ」

「まあ、それはそうなんだが……」


 建国文書をもってセラと一緒に王城に向かい、その後はマックスと合流して『聖都ラスターム』に直行。『垂毒龍皇』をぶっ倒してフレスヴェルに戻ってくるという、なかなかの移動距離がある計画を済ませたわけだが、当然、相当時間がかかる。


 帰ってきたわけだが、思ったより建物は増えておらず、人の通り方もあまり変わらない。


「現状、大樹国アルバの主要産業は、世界樹の地下ダンジョンを利用した『聖木集め』だから、そこまでの道が整備されているほうがいいし、それは外注すればやってくれる話だ。ただ、いうほどフレスヴェルには関係のない話だからね。冒険者たちが集まる拠点は世界樹に近い場所に作ったほうが都合がいいし」

「まあ、それはわかるんだが……」

「ダイナは知らないだろうけど、首都よりもダンジョンのそばにある町のほうが発展しているなんてことはよくあるよ」

「うーん。まあ、それは納得できるけどなぁ……」

「まあ、外国と取引してる商人の力が強すぎて、ダンジョン町ばかり育つパターンが多いけどね」

「制御できてねえじゃねえか」


 現状、大樹国アルバの主要産業は聖木集めくらいだ。


 もちろん、土地に値段をつけて売れば、農家が大量に入ってきて『成長させにくい植物』を植えまくっては刈り取りまくる光景になるのは目に見えている。


 ただ、大樹国アルバという国家そのものが、『そこまで要求レベルが高くない』のだ。


 なんせ建国時は千人ちょっとである。規模も確かに町といえるが特別多いわけではない。


 そのため、結局は聖木集めになる。

 ただ、この産業そのものにも問題はあり、『木材』なので嵩張るのだ。体積が異様に大きくなるので、馬車をいくつも作る必要がある。


 取引場所をうまく作ろうとすれば、当然、世界樹のそばに町を作ったほうがいいのだ。


 大樹国の外からやってきた人間は早速世界樹の近くに町を作り、そこで大きな取引を行っている。


「はぁ……で、世界樹の地下ダンジョンへの入場料だけをとってるってわけか」

「それだけでもかなりの収益になるからね。というか……食べ物には困らないから文化的なものが必要だけど、そんじょそこらの文化的なものなら私の脳みそに大体入ってるから、それを再現するだけでいいから、本当に『ほしいもの』がないんだよなぁ」

「資源も文化も自給自足可能……世界樹とマスターが組むっていうのが一番問題あるってことじゃね?」

「否定はしない」


 困らない。というのが一番困るのだ。


 だって自分たちでいろいろできちゃうんだもん。


 ……という、なんだか幼稚な結論になってしまうわけだが、現状、世界樹の力とヴィスタの頭脳をかなり無駄遣いするかのような状態なので、仕方がない。


 世界樹のほうもヴィスタのほうも余裕があるのだ。


「……てか、その町に行ってきたんだが……」

「名前、彼らは『ユグシティ』って提案してきたよ」

「それでいいのか?」

「困らない」

「ならそれでいいか。で、そのユグシティに行ってきたんだが、冒険者ギルドが中心になって運営してたけど、アイツらに任せていいのか?」

「大丈夫。十年位前からフェラリムのギルド支部の職員をいくつか見繕って鍛えてたから」

「……十年前からこうなることを予測してたのか?」

「こうなると思ったのは生後半年」

「……俺、多分、何かをあきらめたほうがいいな」

「私もそう思うよ」


 ため息をつくダイナだが、まあ、ヴィスタといると大体こんなものだ。


「てか、マスターって冒険者ギルドと仲いいよな。なんかこだわりが?」

「私は基本的に対話拒否をしない主義だけど、その中でも冒険者ギルドは突き放そうと思わないだけ」

「マスターが突いてもビクともしねえと思うけど」

「むしろ私の手の骨が折れるだろうね。まあそうする理由だけど、そもそもリドナーエ家の『初代』は、小さいダンジョンを拠点として縄張りにしていた冒険者で、近くの森の魔物の氾濫を単騎で鎮圧した功績で騎士爵を貰ったんだよ」


 ダイナは『なんか思ってたより豪快だな』とは思ったが、そこに関しては言わないことにした。


「リドナーエ家の初代って冒険者だったのか」

「で、二代目の時に準男爵家になって、そこから四代目の途中までそれが続いてたわけで、冒険者時代の縁っていうのは強かったんだよ。伯爵家になってから付き合いがほぼ取れてなかったけど、余裕ができた後は連携もとれてる」

「なるほどー。そういや、リドナーエ家の屋敷、ギルド支部と位置が近かったな。そんなもんか」

「そんなもんです」


 もちろん、冒険者ギルドを選んだ理由はヴィスタの私情だけではない。


「まあ、冒険者ギルドそのものが『中立』の要素が強くて、かなり多くの国にすんなり入れるからね。入り込んだ後のノウハウも持ってるし、こっちが手綱を握れば良い感じになる」

「最初から利用する気満々だったってことか」

「交渉に来た人は最後には泣いて帰ったけどね」

「なんて言ったんだ?」

「秘密」


 ヴィスタは冷酷でも冷徹でもないが、その思考は合理的でバランスがいい。しかも数字だけで判断した場合はそれがより顕著になる。


 加えて、彼自身が伯爵領を動かしてきた経験があり、ぶっちゃけ扱っている規模はそのころと比べてかなり小さいのだ。


 そして、伯爵領であるがゆえに責任も大きく、調子に乗るやつに対して容赦しない方針も取れる。


 冒険者ギルドが持っているノウハウなんぞすでに情報量にもならないレベルでヴィスタの脳に入っているので、手綱を握るのは造作もない。


 まあそもそも論、財政面で火の車を超えて全焼寸前の広大な領地を一人で立て直す頭脳を持ってるやつと、交渉のテーブルに着きたいだなんて物好きはそういない。


「……まあ、こう、なんていうんだろう。俺がとやかく考える必要はないってことがわかった」

「よろしい」


 そもそもダイナは超現場の人間だ。器用だし賢いが役割はヴィスタとは大きく違う。


「それに……こっちには上手く動いてくれる『良い人材』もいるしな」

「アーシェのことだね」

「ああ。驚いたわ……アーシェが、『超人ラボ』の作品だったなんてな」

「『ケラダホア王国地下強化人間研究所』……略称『超人ラボ』だね。まあ、アルバ地方の事情を考えれば、『アーシェみたいな外見の子がいるということ自体不自然』だったけど」

「俺は全く不自然に思わんかった」

「それは単純に『そういう部分』はアーシェのほうが格上なだけだよ」

「あっそ……」


 ダイナはため息をつく。


「まあ、ああいう外見は確かにアーシェ以外にいなかったな。『自分から入ってこない限り』そうだろうよ……しっかし、『受けてた任務の内容』も思うところはあるが……」

「私は仕方がないと思うけどね。とはいえ、今は私の優秀な諜報部員だし、これからも頑張ってもらう必要がある」

「神殿地下の機密保管庫から宝剣を二本パクった後だし、そこまでキツイ仕事もそうないだろうな」

「それで済めばいいんだけどね」


 そう言って窓の外を見るヴィスタ。


「はぁ、そろそろ帝国も絡んでくる頃か。仕方がない。アラガスさんはもう立ち上がれないし、ちょっと踊ってもらおう」


 『今』なんだかんだ考えているように見えなくもないが、実際には何年も前から考えていることだろう。


 ひどいというか、人の心をもっと大事にしたほうがいい。


「マスターって遠慮ねえよな」

「私基準でいえばまだ加減しているほうだけど、まあ、趣味は『役者集め』だといっておくよ」


 エネルギーがないゆえに表情が顔に出ないヴィスタ。

 ただ、内心、嘲るような笑みを浮かべているのではないか。と思わせる何かをダイナは感じた。

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