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第24話【王国SIDE】 茶番の終わり、名は『宝剣返還』

 ケラダホア王国の王城。


 謁見の間では、玉座によく肥えた姿のオードリスが座り、部屋には上位貴族であろう男性たちがそろっている。

 オードリスのそばにはアラガスが立っており、歪な笑みを浮かべている。


 そして……ここに『呼ばれた』のは、ゴードン・リドナーエ。


 リドナーエ伯爵家の当主にして、ヴィスタの父親だ。


 王と高位貴族の面々を前にしても全く緊張していないというやばすぎる心臓の持ち主だが、その表情は『俺、なんで呼ばれたん?』と顔に書かれている。


 周囲の貴族たちが『興奮冷めやらぬ』といった様子で、どこか『爆発するかのような熱』を強引に抑えているかのような雰囲気だというのに、ゴードン自身はとても涼しい顔だ。


「ゴードン。今日ここに呼んだのは他でもない。お前にとある重要なことを伝えるためだ」

「重要なこと? ですか」

「そうだ」


 オードリスは頷きつつ、隣で笑みを浮かべるアラガスを見る。


「……その前に、アラガス司教。何か言いたいことはあるか?」

「では、発言させていただきましょう」


 アラガスは嬉々とした表情だ。


「貴方の息子。ヴィスタが世界樹を復活させた。これはケラダホア王国民として栄誉なことです。そのため、あの地をヴィスタ・アルバ辺境伯領と認定することが決まったのですよ!」


 そう宣言するアラガス。

 ただ、オードリスも、ほかの貴族の面々も、誰もうなずいていない。


「そこで、ヴィスタ殿の父親として、それを追認する宣言をしていただきたい」

「はぁ……」


 ゴードンは『追認って……なんで謁見の間で?』といったことを考えているが、それと同時にとんでもないことを考えていた。


「陛下」

「なんだ?」

「世界樹とは、いったい何でしょうか」

「「「!?」」」


 部屋にいる全員が唖然とする。


「せ、世界樹を知らないだと? 浅学にもほどがありますぞ!? 人類に圧倒的な恩恵を与える聖なる大樹! これがあればありとあらゆる資源を使えるということ! それを知らない? 王立学校でも歴史の教科書に書かれていますよ!?」

「いやぁ……子供のころは多忙だったもので、あまり通えていないのですよ。卒業資格に関しては戦闘試験をクリアして認められただけで、あまり学んでいないもので……」


 先代である四代目のころに伯爵家となり、領地が広がりまくったリドナーエ家だが、それを管理できる余裕はなかった。


 魔道具を軸にした領地経営戦略をとっていたがゆえに、彼自身も子供のころから魔石集めに奔走する日々であり、あまり学校に通えていない。


 というか、とりあえず腕っぷしが強ければ卒業ができるというシステムの意味がよく分からんが、そこは国柄が武闘派なのだろうか。こればかりは文化なので突いてもしゃーないけど。


「ぐぬぅ……まあ、いいでしょう。まずは、追認を宣言していただきたい」

「ふむ、なるほど、じゃあ私は――」

「ちょっとタンマ! お前、ヴィスタから何も聞いていないのか!?」


 オードリスが静止させた。


「え?」

「え? じゃないわ! 最近、ヴィスタからは何か聞いていないのか?」

「ふむ……私自身は、宝剣に関してはいずれ帰ってくる。としか聞いておりませんが」

「世界樹の復活は国民の中でも広くしてわたっているぞ。お前、何故知らんのだ?」

「ヴィスタが何か成し遂げたのは耳にしていますが、まああの子は昔からいろいろあったので、今回もそんな感じかと」

「漠然としすぎだろお前!」


 感情が制御できていないオードリスだが、これに関しては価値観の問題だ。


 そもそもゴードンが好きなものは一位『家族』、二位『伯爵家使用人』、三位『伯爵領民』であり、自分の領内で発生した幸福に関しては、『ほー、なんか良いことあったんだなー』と考えるだけなのだ。

 要するに、伯爵領にいる人間が全員好きなので、何かいいことがあったらそれをした人間をほめる。その代わりにそれ以上も特にない。


 求心力が経営能力ではなく人柄やカリスマによって発生しているゆえに、数字のこともよくわからないので、打算的な部分が大きい相手は基本寄ってこない。

 というか、大雑把すぎるのでかっちりした約束とかしたくない。ヴィスタがいるので嵌めように嵌められないし。


「ま、まあ、それはいいのです。彼は今、あの地で『大樹国アルバ』を建国するとのたまっていますが、そんなことはケラダホア王国民の信条に反するでしょう。速く認めていただきたい」

「ヴィスタが建国を……」


 ゴードンが何か考えている様子。

 だが、周囲の人間はわかっている。


 考えていそうなのは雰囲気だけで、『実際は何も考えていない』ということを。


「はぁ……」


 オードリスはため息をついた。


「ゴードン。重要なことがあると私はいったな」

「え、ええ」

「その用事を済ませよう。おい」

「はっ」


 オードリスが横にいる宰相に合図を出す。

 すると、騎士が箱を抱えて横の扉から出てきた。


 ゴードンの前まで移動し、箱を置く。


「お前には父上に代わって返さなければならない。開けろ」

「「はっ!」」


 騎士たちが箱を開ける。


 そこに入っているのは鞘に納まった一本の剣。

 初見で業物……を超えた『神聖さ』すら感じるレベルの剣だ。


「『宝剣ニブルヘイム』……リドナーエ家の家宝だ」

「ほ、宝剣を……」

「抜け。その姿を、ここにいる全員に示せ」

「はい!」


 鞘を手に取り、右手で柄を握ると、そのまま抜き放つ。


 ほんのり水色が入った白の刀身はとても奇麗なもので、抜群の存在感を放っている。


「ば、バカな! なぜ、何故それがここにある! ありえない! こんなことがあってたまるか!」


 狂乱するアラガス。

 彼にとって、宝剣はケラダホア王国で好き勝手するために最重要なものだ。

 それがゴードンの手に渡ったら、これ以上、リドナーエ家に手出しできない。


「ま、まさか……」

「ああ。帰ってきたぞ。王家が継いできた『宝剣レーヴァテイン』もな」


 アラガスから見えない玉座の死角。


 そこから、一本の剣を取り出す。

 オードリスが鞘から抜くと、赤みが入った白い刀身が見えた。


 少し抜くだけでもわかるほどの抜群の存在感。

 それを見て、アラガスもまた、これらが宝剣であると確信した。


「ば、バカな……」

「というわけで、道化の役は終わりだ」


 オードリスは右手につけている一つの指輪を外す。

 すると、よく肥えた姿から、鍛えられ、完成された肉体を持つ『王』の姿になる。


「おおっ……あの姿は」

「この風格、十五年以上前の、あのオーラそのものだ」

「間違いない」


 幻術で姿を変えている。

 それを考慮すれば、今のオードリスが本物ではないのではないかという『疑惑』が浮上してもおかしくはないが、全員が納得している。


 それをさせるだけの存在感があるのが、オードリスだ。

 言葉などいらない。その姿だけで、他者を理解させるのだ。


「というわけで、アラガス司教。君の言うことを聞くつもりはない。ということが分かったかな?」

「ば、バカな。私のこれまでの努力は一体……」


 顔面が蒼白のアラガス。


「ふう……さて、長い間待たせた。ゴードン。宝剣ニブルヘイムは返そう。フフッ、持ち帰る際に盗られぬようにな」

「その心配はありません」


 ゴードンが剣を掲げると、剣が粒子となって砕けていき、それがゴードンの体に入っていく。


 剣のすべてが入ると、ゴードンの体からも存在感を示すかのようにオーラがあふれた。


「そ、それは……」

「私も息子から聞いて知ったのですがね。宝剣は普段は剣の形をとっていますが、こうして『力そのもの』として扱うこともできるのです」

「息子から聞いて? ……ヴィスタか」

「その通り」

「なるほど……ん?」


 オードリスは何かが引っかかる。


「ゴードン。それはいつ聞いた?」

「え? 十五年前、先代国王に宝剣ニブルヘイムを渡す一週間ほど前ですが……」


 それを聞いたオードリスは、盛大にため息をついた。


「……十五年前のあの日、それを知っていれば、二振りの宝剣が奪われることはなかったというのに……」


 ……。


 全員の背中が、ブルっと震えた。


「フフッ……フハハハハハハハッ!」


 オードリスは笑う。

 とても楽しそうに、面白そうに、笑った。


「ふう、まったく、そうか、そういうことか。ヴィスタの計画書に書かれていた『アレ』はそういう意味か」


 何か納得するものがあった様子。


「なあアラガス。十五年前の奴から、お前への伝言だ」

「はっ?」

「『十五年、主役を演じてくれてありがとう。でも、あなたが便利な時代はもう終わり。演じてくれた手間賃はあげるから、祖国にひっこんでいろ』……だそうだ」


 オードリスは上着の裏から茶封筒を取り出すと、それをアラガスのもとに放り投げる。

 アラガスはそれを手に取り……中身の一枚目を取る。


 そこに記されているのは、『めちゃくちゃな文字列』

 だが……『半年前に考案された強硬派最新の暗号表』を駆使すれば、読み取ることはできる。


「て、手間賃……そうか、手間賃か。ははは……」


 アラガスは膝から崩れ落ちた。


「伝言を伝えるかどうか、手間賃をくれてやるかどうかは私の一存で、最初は渡す気はなかった。ケラダホア王国とお前は敵対する立場であり、そんな相手を支援するようなことを、『ケラダホア王国国王』としては容認できん。だが、ここまでの茶番を奴が描き、お前がそれを演じていただけとなれば……しかも、『便利』とまで言われれば、このまま追い出すのは惨めすぎる」


 便利の本質は、『自動』だ。


 人力であろうと機械化されていようと関係なく、『自分が手も頭も動かさずに、目的をどれほど達成できるか』は、周囲の自動化、便利さがかかわる。


 だからこそ。


 赤ん坊に負けるという屈辱でアラガスの心に燃料を注ぎ、その後、彼はとても精力的に、意欲的に動いた。


 ヴィスタを排除するために、ヴィスタを下すために。


 人間の熱意はそう続かない。

 心には休息が必要だからだ。


 だが、アラガスは屈辱を胸に、行動し続けた。

 そして能力が高いゆえに動かせる規模も大きく、それもまた、ヴィスタにとっては状況を進めるのに都合がよかった。


 そんな彼に対し、『便利な時代はもう終わり』と。

 これが意味するところはつまり……。


「わ、私は、敵ですらなかっただと? 便利な役者だったと? もう、もう『用済み』だというのか! ああああああああああああああああああああああああっ!」


 大粒の涙をボロボロと流し、うずくまるアラガス。


 明らかに精神が正常ではない彼に騎士たちが近づき……。


「……彼に部屋を用意しろ。すぐに追い出すが……今は泣かせてやれ」

「「はっ」」


 オードリスの命令で、騎士たちはアラガスと茶封筒を抱えて歩く。


 心を打ち砕かれ、立ち上がれないほどの『惨めさ』で押しつぶされたアラガスの嗚咽は、彼が退室するまで謁見の間に響き、彼がいなくなった後も脳裏に焼き付いていた。

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