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第2話 辺境へ到着

 アルバ地方。


 中央部に『アルバ大森林』と呼ばれる大自然を有する地方であり、ケラダホア王国と、【教会】の総本山がある『クリアグラス神聖国』の間に位置している。

 地方の八割が大森林であり、森は大陸の最北端にまで及び、専門家によると港の建設に適している。


 それだけを言えば、生物の営みは自然に依存する場合が多いので重宝されるはずだが、このアルバ地方は『どの国もその所有権を主張していない』のが現状だ。


 もとより、どちらの国の主要都市からも離れており、どちらも手ごろな位置に森林を持つゆえに開拓案が出にくい。しかも国境故にその利権の扱いも複雑だったのは間違いない。


 ただ、この曖昧な状態は、二年前に『最悪』が訪れたことで、『見捨てる』という決着がついた。


 その理由は、二年前、大森林に出現した『毒霧竜(どくむりゅう)』の存在である。


 全長二十メートルと巨大な体躯で、口から猛毒のブレスを放ち、通った場所は無色透明の毒の霧が残るという、対策を一歩間違えれば国が亡ぶレベルのドラゴンである。


 当時の高ランク冒険者が【教会】に莫大な資金を払って、解毒薬や効果的な付与魔法を用意し、短期決戦で討伐された。


 しかし、【教会】が用意した解毒薬は全く通用しなかった。

 特殊で独自の配合が行われた毒霧竜のそれは既存の研究がなく、『通った場所に無色透明の毒が漂う』というのが後からわかったこともあり、冒険者目線で万全を期しても、通用しないレベルだったのだ。


 最初の討伐コードネームは『毒竜』であり、あとから『毒()竜』とつけられたくらい。


 なお、その三か月後に神聖国が特効薬の完成を発表。

 前日まで肌が紫色になっていた『神聖兵士』が、次の日に元気になった姿を見せ、歓声があふれたのは人々の記憶に新しい。


 だが……『アルバ大森林』に関しては、手遅れだった。


 毒の影響は森林に影響しない。樹に付着した毒液に水を流せば完全に取れるほど、『毒霧竜』が持つ毒は森林に影響を与えない。


 問題なのは、『毒の霧』である。


 森の中に存在する魔力を吸って霧の量を増やし、完全な除去が不可能になっている。

 毒の特効薬は、材料が希少であるという【教会】の発表もあってかなり高額なため、手を出せない者も多い。


 体内に入った毒は『完全に』体に溜まるため感染リスクはないが、感染すると思い込んだ大衆によって追放される場合もある。そしてそんなもの達を受け入れられるのは、ある意味、この大森林だけ。


 加えて……『確実に死んでほしい流刑地』として適しすぎている。


 このアルバ大森林に存在する生物は、全員が毒霧竜の毒の影響を受けている。


 そんな地獄を抱えたいと思うものはおらず、王国も神聖国も放棄した。と言う経緯がある。


 ★


「毒の抗体。一週間使って体の中に用意したから大丈夫とのことですが……」

「マスターは体が弱いからなぁ……」


 ヴィスタたちはアルバ大森林に到着した。


 で、彼らの主人だが……。


「……ぁぁ……ぅぅ……」


 ほぼ寝ていただけなのに致命傷である。


「まあ、死にそうですけど死なないので大丈夫でしょう」

「だな。死にそうな未来が見えたら暗躍してるはずだし」


 かなり大雑把だが、それをさせるだけの『過去』があるのだろう。なんて話だ。


「とはいえ、国外追放証明書もありますし、ヴィスタ様が【教会】からとやかくいわれることはないとして……」

「これからどのように過ごすかだなぁ。アルバ地方に『活動してる村』はない。大森林の中では動物が毒に侵されてるから、食べられる植物を自給自足してる程度だったはず」


 ヴィスタが追放されることはゴードンが政治ゲームで弱者だった故のことだが、一応、そのように決まったことは間違いない。


 王国とアルバ地方の境目にある町で、神聖国の者が滞在する場所で『国外追放証明書』を作る必要があり、実際に作った。


 ちなみに、その時の責任者が馬車の中を覗き込んできて『こいつ死んでね?』とつぶやいたのは記憶に新しいが、それはともかく。


「とりあえず、その人たちを治療して、まとめ上げましょう」

「だな。貧弱体質のマスターにとって、住む場所に敵が多いのはリスクしかねえし」


 散々な評価だが、体の弱さだけは誰にも負けないのがヴィスタクオリティ。


「とりあえず、森の中に入ったら、開けた土地を見つけましょう」


 ★


 事実を言えば、アルバ大自然には『先住民』がいる。


 要するに、集まって住む場所が存在するわけで、そこに行けば、生活の痕跡はある。


 もちろん、人間の手が入らない集落と言うのは自然に埋もれて再利用に金も人も時間も必要だが、それでも『便利な位置』であることが多いので、目指すに越したことはない。


「ここが『ナズズ村』……先住民が作り上げた村の中で最大規模の場所か」

「荒れ果てていますね。村の倉庫に物資があるようにも感じられませんし、それぞれが森の中で食料を取って、自給自足で生き抜いていると言ったところでしょうか」

「おそらくな。毒液が二年の中で大部分が消えて森の外見はほぼ(・・)普通だが、今も無色透明の毒の霧がある。そんな場所で、隣人を信用なんてできねえだろ」


 到着した三人は、近くの空き地で馬車を止める。

 そして、ダイナが馬車に詰め込んでおいた建材を使って、空き地に小屋を作り始めた。


 経験があるのか、慣れた手つきで小屋を作り上げる。


「……流石に慣れてますね」

「テントだとマスターが耐えられねえからな。遠出する必要がある度に小屋を作ってたら、なんか出来るようになった」

「悲しいですね」

「俺もこんな特技が身につくとは思わんかった」


 というわけで、建材を使って仕上げつつ……書斎を作り、そこにフカフカの布団を使ったベッドを配置した。

 セラはヴィスタをお姫様抱っこで抱えつつ、彼の杖を手に、ベッドに向かう。


 ベッドに杖を立てかけて、そーっと、本当にそーー……っとベッドに寝かせた。


「豆腐でも置いてんのかと思ったわ」

「豆腐ならもっと雑でも大丈夫でしょう」

「……自分で振っておいてなんだが、良いのかそれで」

「知りません」


 ダイナはセラのセリフに溜息をつきつつ、スーツの裏側から五枚程度の紙束を出した。


「ええと、これからどうするんだったかな……」

「毒の特効薬に使う植物の栽培、特殊肥料を使った食材の確保、村のインフラ整備のための製材所と鍛冶場の用意、あとは、ヴィスタ様が使用する栄養剤の用意ですね」

「……開拓チームの計画として一般的だが、最後はあんま聞かねえな」

「ヴィスタ様は顎も喉も胃も弱いですし、普通の食べ物ではしっかりした栄養が得られませんからね」

「『スキル』の影響で、食べた栄養がほぼ全部脳みそに行くんだっけな。ただ、食べ物から栄養を得るための機能すら壊滅的って、融通が利かねえスキルってのも困るよなぁ……」


 世の中と言うのは思うようにはいかないが上手くできている。

 が、中には変なバランスの人間もいるということだ。


「では、私はあらかじめ用意していた分の特効薬を持って、森の中に人探しに行ってきますね。ダイナは設備を用意してください」

「まあ、流石に男手がいる仕事だからそっちは引き受けるか。マスターの前では言えねえけどな」

「確かに。それでは行ってきますから、ヴィスタ様の護衛も任せますよ」

「もちろんだ。セラも見逃すなよ」

「当然です。それでは」


 というわけで、セラとダイナはそれぞれの仕事を始めた。


「……ぅぅ」


 そのころヴィスタは死の縁に立っているが、まあ死にはしない。

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