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第18話 欲望の行き先

「セラもダイナもこの町にいないって、なんかモヤっとするな」

「そうかな?」


 ヴィスタの小屋の窓からヴィスタを見つつ、ヘルバはつぶやく。

 それに対して、ヴィスタは首を傾げようとして、そんな無駄なことに体力を使っていられないということで傾げるのをやめた。


 というか、ヴィスタに関しては『最初からそうなると考えている』場合があるので、驚くような話でもないのだろう。それはそれで共感が難しい話になるのだが。


「セラとダイナにしか任せられないことは多いからね。そりゃ離れることはあるよ」

「でもあんまりいないことが多いと困るんだろ?」

「そりゃね。ただまあ、備えはあるから」

「はぁ……まあそうか。ヴィスタって、『備えあれば患いなし』っていうか、『備えがないと普通に死ねる』からな」

「その通りさ」


 悲しいレベルで貧弱な体質なので、備えがないとどうにもならない。

 恐ろしいレベルで『自分の手で何かを作る』のが絶望的なのだ。


 書類くらいは作っているのだが、実は使っている杖。製作費はかなりエグイ。

 そういう体なので、マジで備えがないと普通に死ねます。


「しっかし、ヴィスタとセラが必要なことか……謁見の間に行かせるのは当然として、そのあとなんだ? ……そういや、毒霧小竜にかかわることがあるって言ってたな。もしかして、俺とダイナが亡骸に近づいたときに出てきたみたいに、どこかでまた出てくるのか?」


 地面の下からボコッと出てきたことはヘルバにとって記憶に新しい。

 出てくるのがあの一度だけだと思えるほど、二年という時間は短くない。


「勘がいいねぇ……十五年前から意外だなって思ってたけど」

「ん? え? 今なんて言った?」

「別に何も」


 書類を作っているヴィスタは適当に流す。

 ちなみに……十五年前。当時ヴィスタは2歳。ヘルバは1歳である。


「で、毒霧小竜だけど、毒霧竜はね。死んだあとで地面に卵を隠すんだよ。で、自分がまいた毒を回収して力を蓄えて、どこかで出現する」

「ほー。そんな生態なのか……」

「死んでから一か月ほどで卵を用意して、そこから二週間後には産まれるんだよ」

「早くね?」

「産まれてからも毒を回収して強くするから、卵の中ではある程度の成長でいいからね」

「どうして毒を回収したら強くなるんだ?」

「そういう生態です」


 おそらく、ヴィスタの頭の中では『完全正答』がある。

 ただし、事前知識が多く必要になる場合、正解にたどり着くまでに時間がかかる。


 順序立てて説明すれば簡単。という話ではないのだろう。


「で、毒霧小竜と戦ってるときに気が付いたと思うけど、解毒した人間に対して強い執着心を持つんだよ」

「あー。そうだな。確かに」


 最後の最後まで、毒霧小竜がヘルバをにらんで息絶えたのは覚えている。


「自分の毒を解毒した生物の肉は、毒霧小竜にとって自分の強さを上昇させるための糧として最適で、なおかつ毒霧竜にとって美味らしい」

「ほー……それで、あいつは俺のことをメインディッシュだと思ってたわけね」


 だからこそ、解毒剤を使ったヘルバから決して目を離さなかった。

 魔剣ダークマターを持つダイナという『圧倒的な強者』がいたにもかかわらず、ヘルバを見続けていた。


 要するに、『自分の生命が続くか9どうか』よりも、『解毒された肉を食べられるかどうか』が優先される。


 それほどの『執着』ということになる。


「そういうこと。ちなみに、解毒時期が古ければ古いほど、より執着する」

「ふーん……ん?」


 何かに気が付いた様子のヘルバ。


「……なあ、死んでから卵を遺すってことらしいが、それって、俺たちが二年前に毒霧竜を倒したときも例外じゃねえよな」

「もちろん」

「一か月後には卵が地面に用意されて、その二週間後には産まれると」

「そう」

「じゃあ……二年たって、毒霧小竜になったってことか?」

「それならよかったけどね……毒霧竜の亡骸はね。体内にいくつも卵のもとを抱えていて、一個だけ毒を吸収し始める。そして生まれてその場を離れるとき、また新しい卵に毒を回収させる。そうして『しっかり育った個体』を遺すんだよ」


 死んでもなお卵を用意できる。

 おそらく直感的には理解しがたい話だが、ヴィスタの表情を考慮すると真実。


「じゃあ、『死んだ直後に準備したもの』じゃなくて、『亡骸が放置されて残ってた卵』から生まれたのが、あの毒霧小竜だってことか」

「確定だね」


 ヘルバは『解毒が古ければ古い個体ほど執着する』ということを前提として、ある情報が脳裏でよみがえる。


 それは、毒霧竜の『角』だ。


 全長五メートルの毒霧小竜の角はあまり大きいものではなかったが、それでも、アルバ地方全域をカバーできるほどの『感知性能』がある。


 あの大きさであれば、そこが限界。

 だが、長い年月をかけて成長すれば、当然、角も大きくなる。


 そうなれば……。


「二年の間で成長して角が大きくなれば、ここからでも離れた場所にいる『最初に解毒した人間がわかる』ってことか」

「もう答えは見えたんじゃない?」

「ああ」


 ヘルバはうなずいた。


「二年前の神聖兵団の団長。最初に解毒剤を使ったのはこいつだ。今は……『聖都ラスターム』にいるはずだ」


 神聖国の首都。

 テュリス教の『神殿』がある、最も重要な都市。


 毒霧竜がどうしても欲しいものは、今、そこにある。

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