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第15話 通貨

 個人的な脅迫と、組織的な脅迫は性質が大きく異なる。


 個人的な脅迫はある種の快楽によるもので計画性がとても低くなり、脅迫する相手はネタさえつかめば誰でもいい。


 だが、組織的な脅迫は『悪意』によるもので、特定の誰かにネタを用意しつつ接触する。


 実力のある人間を安く使う。

 この手段を用いるのは主に組織的な悪意であり、優秀な人間の弱みを無理やり作りだし、思い通りに動かすのだ。


 個人レベルだと、優秀な人間の弱みを見つけることが出来た場合に脅迫が発生するが、『無理やり弱みを作り出す』という部分は組織にしかできない。


 ネタを作るのだってタダでできるわけでもなく、しっかりと囲い込むために準備をする。


 それだけ用意周到で理不尽性が高い。


 要するに、あくどいことをしている連中から不遇メンバーを解放したら、外見にしても能力にしても、優秀な人間が揃っていることが多いのだ。


 ★


「これは人材がそろってきたな」

「マックスさんに全部押し付けるけどね」

「え、そうなの!?」


 フレスヴェルのヴィスタの小屋。

 そこでは、窓によりかかったヘルバがヴィスタに話しかけていた。


「抱えきれないわけではないし、この町の空気は世界樹のおかげで最高レベルだけど、ここはマックスさんに任せて、派閥を強化してもらったほうがいい」

「そういうもんか?」

「強硬派の派閥はいまだにその勢力が強いから、保守派の人材を厚くしておいたほうがいい。だからマックスさんに預けます」

「そういう予定なのか……」


 ヘルバはうなずいた。


「しかし、あれだけエグイ防衛手段があるなんて驚いたぞ」

「それが世界樹という存在だからね。まあやろうと思えば、豪雨の水温を2度とか3度にして、全員を低体温症でせん滅することもできたんだけど、さすがに殺戮はやばいので止めました」

「それでよかったと俺も思う」


 もともと、怒りよりも憐みのほうが強くなりそうな予感がしていたのだ。

 実際、『巨大台風』といって差し支えない最悪レベルの天候になったわけで、マックスが不遇扱いの人たちの回収に向かっている間も、フレスヴェルでは何とも言えない空気になっていた。


「そういや、これで防衛力があることは示したことになるよな」

「多分ね」

「じゃあ、あとは、通貨を作れば国を名乗ることはできるってわけか」

「国際法だとそうなる」

「作れるのか? いや、ダイナがいれば可能なのはわかるんだが……」

「もうすでに作ってます」

「え?」


 ヴィスタは杖に触れると、そこから触手が出てきて、机の引き出しをトントンと突いた。


「……引き出し、開けねえの?」

「私はこの杖を書類整理のために作ったから、そこまでの力はないんだよ」

「なんでそんな性能なんだ?」

「私の脳から情報を感知する機能を作るのでスペックがぎりぎりだったんだよ」

「はぁ……」


 ヘルバは窓から部屋に入ると、そのまま引き出しを開ける。


 そこには、中央に大樹が描かれた紙幣がおかれている。

 あとは鉄で作った硬貨がおかれており、これがこれから使われるのだ。


「へぇ、こんな感じになってたのか。手触りもこんなの初めてだし、偽装防止技術か? 見たことねえぞこんなの」

「いろいろ技術を詰め込んだ結果そうなった」

「これ、どうやって作ったんだ? ダイナとセラからは何も聞いてないし、聖木が使われてるのは魔力の感じでわかるから、あらかじめ作ってたわけじゃないだろ」

「普通にダイナに作ってもらったよ。いう必要がないから黙ってただけ」

「あっそ……」


 ヘルバがうなずくと、窓からマックスが顔を出した。


「通貨ができているという話を聞いたが、本当か?」

「ああ。これみたいだ」


 ヘルバがマックスに紙幣を渡した。


「……ふむ、なるほど、確かに研究のし甲斐があるな」

「え、研究?」

「マックスは私がデザインした紙幣を研究して、自分たちの偽装防止技術を進歩させたいんだよ」

「え、それでいいのか?」

「偽装防止なんだ。暴かれたほうが悪い。通貨は流通させる必要があるからね」

「そういうものなのか……」

「そういうものです」


 マックスがうなずいて、ヘルバに渡した。


「ふむ、これから会議でもやるか。知恵を貸してくれると助かるが」

「偽装防止のネタはいろいろあるけど、私はこれから、税金に関する書類を作らないといけないから忙しいんだよ」

「え、税金?」

「そうだよ」

「取る意味あるのか?」

「物々交換で回る規模じゃなくなるからね。通貨の価値を保証する意味もあるし、ちゃんとこういうのはやっとかないと」

「通貨の価値? 紙幣でも、偽装防止技術があればいいだろ。なんで税金を取る必要があるんだ?」

「通貨の流通は、それを扱う政府の徴税能力によって保障されるからだよ」

「なぬ!?」


 ヘルバは驚いた。


「ど、どういうことだ?」

「私がこの通貨でしか税金の支払いと認めない。そういうルールを作ることで、人はこの通貨を扱い、ためるようになる。しばらくは、所得に対して累進課税で取るつもりだけど、こういう形にすることで、経済がこの通貨で回るようになるんだよ。ちゃんとした帳簿が必要になるからね」

「んー。まあ、そうか。税金を取らないんなら、価値があるかどうかはともかく、これを使う意味がないもんな」


 課税しない場合、大樹国の通貨と神聖国の通貨にレートが設定された瞬間、すべての大樹国の通貨を神聖国の通貨に両替する。という行為に何のデメリットもないのだ。


 価値があるとかないとか、市場が受け入れるとか受け入れないとか、そういうのは本質的には関係ない。


「そういうこと。だから税金を設定するよ。その書類を作るのに忙しいから、マックスさんはちょっと自分たちだけで会議をしててね」

「……いや、それ以上に興味深い話が聞けたからいいとしよう」


 そういって、マックスはヴィスタの小屋から去っていった。


「……はぁ、まあ、なんていうか、すごいこと考えてるんだな。ヴィスタって」

「でも説明されたらわかりやすいでしょ」

「だな。で、これで国として始められるってわけか」

「そう。そうなんだけど、一個問題がある」

「問題?」

「ちょっと前に、森の奥で、毒霧小竜と戦ったって言ってたでしょ? あれ関連とだけ言っておくよ」

「そう……か。まあ、頭に入れておくよ」


 すべてを語る気はない様子のヴィスタ。

 こうなったとき、すぐには答えを出さないので、ヘルバはあきらめることにしたようだ。


 ……まあ、それがヴィスタとの正しい付き合い方である。

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