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第三話 - 一方的な同盟

「じゃあ、自己紹介も終わったことだし、あたしたちもう同盟関係だね」


 それどころか、いきなり謎の同盟を宣言されてしまった。


「は?」


 僕の不満の声を気に留める様子もまったくない。


「ちょっとキミにお話聞いてもいいかい?」


 スズは腰に手を当てて仁王立ちしている。彼女なりの決めポーズらしい。


「お話?」


 僕はオウム返しに尋ねた。彼女と同盟を結んだつもりはないし、三つ葉(あおい)の紋でごまかされてしまったが、彼女が普通の人間でないことは間違いない。ある程度の緊張と警戒は維持するべきだ。


「あたしは大将軍様の命令で、全国各地の怪異(かいい)の調査と駆除をしている者なんだけど、ここの村は怪異でお困りだよね?」


「『怪異』って?」


 尋ね返したが、心当たりはある。


「あたしがズバリ言い当ててあげよう!」


 スズの細い指が、ビシッと僕の鼻先に突き付けられた。


「この村は数年前から豊作続き。それなのに、食べても食べてもお腹いっぱいにならない。そうでしょ?」


 その通りだ。だから村の衆は少し走っただけで疲労し、僕たちは作物を近隣の町に売って外の食べ物を買うことで飢えをしのいでいる。


「──ってこれ、さっきも同じこと言ったっけ? あはは。まぁ、そう言うときもある」


 スズの明るい笑い声があたりに響き渡った。僕の警戒心も不信感もまったく意に介さず、ふざけているようにも見えるハイテンションを崩さない。


「それを解決できるの?」


 僕は眉間にしわを寄せた状態でスズを見上げた。


「たぶん? できそうならやるつもり」


 小さく首をかしげる彼女に、信頼に足る自信は見られない。


「どうやって?」


「どうやってって――。と言うか、ここで長話するつもり?」


 スズは先ほどよりも深く首を傾けた。首どころか上半身ごと傾ける勢いだ。

 しかし、彼女の指摘はもっともかもしれない。ここは村はずれの農道の真ん中。あたりには騒ぎに気づいた人々が徐々に集まりつつあった。


「六郎、その女性は――?」


と、先ほどまで盗人スズを追いかけていた村の衆たちも、厳しい表情でこちらに近づいている。


「兄さま」


 僕は話しかけてきた男性の顔を見た。


「君がイチローかぁ。よろしくね!」


 すぐさまスズが一郎兄さまに近づく。


「あ、ああ」


 兄さまの右手はスズによってブンブン振り回されていた。握手にしては勢いが良すぎる……。そして自分勝手に振り回したあと、急に関心を無くしたように手を離すのだ。


「うーん……」


 次にスズはあたりを囲みはじめた老若男女を見て。


「人がいっぱいいるならここでもいっか」


と勝手に何かを結論付けたようだった。周りを囲む人々の多くはげっそりやつれ果て、杖や農機具を支えにしないと長時間立っていられない者もいる。


 輪の中心で、スズは再び葵の紋が入った通行手形を取り出した。


「あたしは幕府の命を受けて各地の怪異調査を行っている、平坂鈴奈(ひらさか すずな)と申す者である!」


 手形を掲げ、芝居がかった口調でそうのたまう。しかし、その紋章も、権威ある者を装った口調も集まった人々には効果てきめんだったようだ。驚きと期待に満ちたざわめきに、スズは満足そうな笑みを浮かべている。

 この村は何年も飢餓に苦しんできた。誰もが(わら)にも(すが)る気持ちなのだ。おなかいっぱいごはんを食べられるなら、僕だって嬉しい。しかし、彼女が人ならざる存在であること。それが気がかりで、僕だけは素直に喜びを見せられなかった。


 唯一笑顔を見せない僕とスズの視線が交わった。


「ついては、数日間村と周辺の調査を行いたい。その許可と、案内人としてこの六郎をお借りすることはできるか?」


「は?」


 スズの手のひらがまっすぐ僕を指すのを見て、僕の眉間のしわは深くなった。


「調査はご自由になさってくださって結構です。しかし、六郎を案内人とするのは、おすすめいたしかねます。もっと適した者をご用意いたします」


 そして、スズの言葉に難色を示したのは僕だけではなかった。声をあげたのは一郎兄さま。兄さまはこの村の有力者の一人だ。


「その人は村中を歩き回る体力を持っておられるか?」


「……いえ」


 しかし、スズの堂々とした問いかけに、兄さまはすぐうつむいた。


「それなら、やはり六郎をお借りしたい。彼はあたしの髪の毛を、ばっつり切り落とすくらい元気なのだから」


 穏やかな笑顔を浮かべつつも、皮肉めいた言い回しをする彼女の目は笑っていない。そこで初めて、スズが髪の毛を切られたことに怒りを感じているのだと気づいた。


「しかし、彼は呪われておりまして……」


「あたしも呪われてるから問題ない」


 スズはきっぱり言い切って、僕の方へと歩み寄ってきた。


「手伝ってもらえるかい? ロロ」


「ロロって?」


 僕はスズの差し出す手と彼女の顔を見比べた。


「キミのあだ名」


 スズは片眼を閉じてみせた。最高の名づけをしたとでも言うように誇らしげだ。たぶん、僕が拒否してもそう呼び続けるのだろう。彼女とは知り合ったばかりだが、なんとなくそんな気がした。


「それならせめて、宿泊場所をご提供いたしますので」


 僕と向かい合うスズの背に、一郎兄さまが再度声をかける。どうやら兄さまは僕にスズを任せたくないらしい。


「お気遣いなく。あたしは旅慣れているので」


 僕が答えを出す前に、スズは無理やり僕の手をつかんだ。がっちりと元気よく。空腹で力の入らない僕は、されるがまま彼女に引っ張られていくしかない。


「しかし、何かあれば協力を頼むので、ご助力いただきたい」


 最後まで芝居がかった口調を貫いて、スズはずんずん歩きはじめた。彼女の歩みに合わせて僕たちを囲んでいた人垣が割れる。彼女の言葉通り、僕を引き連れて怪異調査をはじめるのだろう。

とりあえず、連載版はここまでです。

小説大賞の選考が終わったら続きを載せて、短編でもまだ書いていないさらにその先の続きも載せていきますね!


完結している短編(この作品の続き)は、ここから読めます。

 ↓↓

https://ncode.syosetu.com/n1895ib/

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