新型噴進弾視察
午後3時。山本総理兼海相と東條陸相は、神奈川県横須賀市の横須賀海軍航空隊を訪れていた。正確には横須賀海軍航空隊に隣接し横須賀鎮守府管轄の、海軍航空技術廠(空技廠)を訪れた。空技廠は航空兵器の設計および実験、航空兵器およびその材料の研究、調査ならびにこれに関する諸種の技術的試験などを掌るほか、航空兵器の造修および購買に当り、総務部、科学部、飛行機部、発動機部、兵器部、飛行実験部、会計部および医務部があり、各部のおもな所掌事項は航空機およびこれに関連する器材の性能の研究、調査などで、職員は廠長、部長、検査官、部員などで、廠長は横須賀鎮守府司令長官に隷し、廠務を総理し、技術的なことは海軍航空本部長、または海軍艦政本部長の区処を受ける。そんな空技廠に山本総理兼海相と東條陸相が訪れた理由は、フランスの大型噴進弾に対抗する手段がある可能性が高いからであった。その山本総理兼海相と東條陸相を迎えたのは、海軍航空技術廠長と大日本帝国の噴進弾開発の責任者であるセルゲイパーヴロヴィチコロリョフ技術者と、糸川英夫技術者であった。
『フランスの投入した大型噴進弾に対抗する手段を手に入れる為に、空技廠を訪れた山本総理兼海相と東條陸相は大日本帝国の噴進弾開発責任者に会った。コロリョフ技術者と糸川技術者は大日本帝国の噴進弾開発の責任者であり、航空機用の50キロ噴進弾や連合艦隊用の13センチ18連装対潜噴進砲・10センチ20連装対空噴進砲を開発した。その2人に山本総理兼海相と東條陸相はフランスの投入した大型噴進弾に対抗する術は無いかと尋ねたのである。コロリョフ技術者はその対抗策はあるが、まずはこれを見て欲しいと言い1台の軍用トラックを近寄らせた。その軍用トラックは大日本帝国が大量生産している6輪車輌だが、荷台に柵状の構造物があった。不思議そうに見つめる山本総理兼海相と東條陸相に、コロリョフ技術者は耳を押さえるように言うと発射を命じた。
すると軍用トラックの荷台にある柵状の構造物が斜めに持ち上がり射角を確保すると、凄まじい連射速度で噴進弾を発射したのだ。横に8本並ぶ発射機が上下2段ある為に、合計16発を一気に発射する事が可能であった。それが海に向けて発射され数秒後には海面に着弾し、凄まじい水柱を上げた。驚く山本総理兼海相と東條陸相にコロリョフ技術者は、自走式多連装ロケット砲カチューシャだと説明した。元々ロシア人女性の愛称である[カチューシャ]をこの兵器の愛称として命名したとコロリョフ技術者は付け加えた。海軍連合艦隊の10センチ20連装対空噴進砲の車輌版と呼べる物だが、1発1発の噴進弾がより大型化され長射程に改良されていたのである。これを見た東條陸相は陸戦に於ける制圧射撃としては最適だと判断した。無誘導の噴進弾である為に命中精度は劣悪であり、射撃精度は自走砲や各種野砲に任せ噴進弾を敵兵士の頭上に雨のように降らすことで心理的ダメージを与えることに重点を置く戦法が採用出来ると考えた。
それを聞いた山本総理兼海相もそれは確かに有効である判断し、政府としても大量生産を行うとした。それを聞いたコロリョフ技術者は喜び、開発を続けていた意義があると感謝した。空技廠のコロリョフ技術者と糸川技術者はある意味で噴進弾に関する技術開発なら、自由裁量が任されており数多くの噴進弾開発を並行していたのである。そして糸川技術者が現在コロリョフ技術者と2人で開発を最優先で行っている噴進弾を紹介するとして、山本総理兼海相と東條陸相を案内した。そして案内された先には10メートルを超える巨大な噴進弾が存在したのである。』
小森菜子著
『帝國の聖戦回顧録』より抜粋