通商破壊戦3
『西太平洋・日本海・大日本帝国沿岸部・東シナ海・南シナ海・珊瑚海・オーストラリア沿岸部・ニュージーランド沿岸部等々、各地に展開する海上保安庁護衛隊群と海軍連合艦隊第5機動艦隊から、続々と対潜哨戒機東海が蒸気カタパルトで射出されていた。更には海上保安庁護衛隊群の重護衛艦級松級と、海軍連合艦隊第5機動艦隊の重巡洋艦・軽巡洋艦は搭載する零式水上偵察機を蒸気カタパルトで射出していた。各艦艇の装備する水中ソナーも活用し、全面的な対潜哨戒が行われていたのである。連合艦隊の潜水艦である伊400級は誤認を避ける為に全て引き揚げさせており、探知した潜水艦は全て敵だという状態を作り出していた。その為に対潜哨戒は各地で順調に行われた。今回の対潜哨戒作戦は『索敵殲滅作戦』と名付けられ、文字通り索敵を行い即座に殲滅するという苛烈な作戦であった。対潜哨戒機東海は装備する磁気探知機を最大限に活用してアメリカ合衆国海軍潜水艦を探知すると、即座に80キロ対潜爆弹を投下して効率的に撃沈していった。対潜哨戒機東海は搭載する対潜爆弾を使い切ると、零式水上偵察機に磁気探知機で探知したアメリカ合衆国海軍潜水艦の位置を無線連絡で伝え、攻撃を指示する管制機の役割を果たした。これにより常に何かしらの機体が攻撃を行える体制が構築されており、アメリカ合衆国海軍潜水艦の跳梁跋扈を許さない状態であった。
対潜哨戒機東海と零式水上偵察機が活躍していたが、海上保安庁護衛隊群と連合艦隊第5機動艦隊の水上艦艇もアメリカ合衆国海軍潜水艦を撃沈していた。大日本帝国海軍の開発した水中ソナーが高性能なのもあるが、何と言っても対潜装備である[13センチ18連装対潜噴進砲]の活躍が大きかった。13センチ18連装対潜噴進砲は大日本帝国海軍の開発した対潜装備であり、対潜爆雷・対潜迫撃砲に続く3世代目の対潜装備であった。最初期に開発された対潜爆雷は艦後方から投下する代物であり、潜水艦を探知してから追い越しざまに投下して攻撃する物であった。その後改良型の投射式爆雷が開発され、その発展改良型として対潜迫撃砲が実用化された。これにより前方投射が可能になったが、大日本帝国海軍は更に改良型を開発実用化し、13センチ18連装対潜噴進砲を装備するに至ったのである。18連装の対潜噴進砲そのものが旋回角130度可動式であり、仰角も15度〜60度を確保していた。これにより噴進弾を発射機の仰角により飛翔距離を調節する事が可能になり、最大30200メートルまで到達出来た。13センチの対潜噴進弾を18連射する事が可能であり、再装填も手動ながら可能であった。再装填が手動という手間がかかる機構であったが、魚雷発射管も手動で再装填を行う為に[再装填]が出来るという事が大きかった。しかも18連射可能であるが一度に発射するのはせいぜい4発程であり、更には1艦に複数設置されている為に今回の対潜戦でも不都合は発生しなかった。
その13センチ18連装対潜噴進砲の活躍により、アメリカ合衆国海軍潜水艦は撃沈され続けた。アメリカ合衆国海軍も大日本帝国が海軍連合艦隊のみならず、海上保安庁という準軍事組織を保有しているのは認知していた。しかも自分達の沿岸警備隊よりも重武装で、規模も大きいというのも把握していた。だがこれ程までに効率的に対潜戦を行える組織だとは思っていなかったのである。その為に沿岸警備隊の拡大発展組織だと思っていた海上保安庁が、完全に海軍の補完勢力だと分かり通商破壊戦は全く戦果をあげれなかった。その異常事態はハワイの太平洋艦隊司令部に、各潜水艦からの定時連絡が行われず撃沈されたと判断する潜水艦が急増し、太平洋艦隊司令部はパニック状態になった。その為に太平洋艦隊艦隊に定時連絡を行う潜水艦は日毎に減少していき、遂には10隻を切るという異常事態になった。事態を重く見たキンメル太平洋艦隊司令長官は、クイーン作戦部長に通商破壊戦の中止を意見具申した。意見具申を受けたクイーン作戦部長は現場部隊からの意見具申を尊重し、事態は深刻であるとしてホワイトハウスに向かうとルーズベルト大統領に直談判を行った。
クイーン作戦部長は潜水艦の損耗率が異常であり、このままでは海軍から潜水艦運用能力が無くなってしまうと、訴えたのである。それを聞いたルーズベルト大統領はそれは困るとして、通商破壊戦の中止を決定した。1942年6月25日の事であった。だがキンメル太平洋艦隊司令長官からクイーン作戦部長への中止要請と、ルーズベルト大統領への直談判はあまりにも遅すぎた。その為にアメリカ合衆国海軍は戦争終結まで、潜水艦乗組員の練度不足に苦しむ事になったのである。』
小森菜子著
『帝國の聖戦回顧録』より抜粋
本文中に登場した13センチ18連装対潜噴進砲は、スウェーデンのボフォース社の開発したM/50 375mm対潜ロケット発射機を参考にしています。オーバーテクノロジー気味ですが、ご了承ください。




