緊急閣議3
1942年5月5日。大日本帝国帝都東京首相官邸では山本総理兼海相が緊急閣議を招集していた。内容はイタリア王国と大英帝国から航空機購入の要請が出された、というものであった。山本総理兼海相は、この両国からの航空機購入の要請に対して大日本帝国の対応をどうするか提起したのである。それは単純に要請に応えて航空機を売却するか、それとも正真正銘純粋な無償提供をするか、はたまた貸与という形にして代金は低金利の後払いか物資・拠点利用等の何かしらの対価を貰うか、この3種類が想定出来ると、山本総理兼海相は語った。この中からどれを選択するかが、緊急閣議で閣僚達と話し合うものになった。
東郷外務大臣は外交関係を優先し、無償提供する案を支持した。大英帝国とイタリア王国は大日本帝国の重要な同盟国であり、その国が大日本帝国の航空機を欲しがっているならそれは戦時中である現状を垣間見ると、無償提供を行うべきだと力説した。
賀屋大蔵大臣は純粋に大日本帝国の財政状態を考慮し、売却を行うべきだと語った。いくら同盟国とはいえ無償提供は大日本帝国の経済力から判断するに、厳しい所があると語ったのである。売却額に関してはある程度は同盟国という点を考慮して、割引きしても良いのではないか、と語ったのである。
岸信介商工大臣は貸与という形にして代金は低金利の後払いか物資・拠点利用等の何かしらの対価を貰うという案に賛成した。これなら東郷外務大臣と賀屋大蔵大臣の折衷案になり、同盟国に対する貢献になると説明した。イタリア王国には代金は低金利の後払いを行い、大英帝国には対価として工作機械や各地の植民地の無条件利用等を求めるべきだと語った。そしてアラビア半島打通作戦に連動して中東での油田開発の権利や、東南アジアに於ける植民地独立による大東亜共栄圏成立への賛同も求めるべきだと力説した。この岸商工大臣の案には東條陸相も賛同し、他の閣僚達も賛同した。賀屋大蔵大臣も対価が大きいとして、岸商工大臣の案に賛成したのである。
そんな中で東郷外務大臣は大英帝国がそれ程までに賛成するのか、疑問だと語った。工作機械を対価にしたり、各地の植民地の無条件利用までなら大英帝国も賛同すると思うが、中東での油田開発や東南アジア植民地放棄となると話が変わってくると言ったのである。それに対して山本総理兼海相は、大英帝国が賛同するように航空機のみならず戦車や機関短銃・戦標船・駆逐艦も貸与すれば良いて語った。その言葉に全員が驚いた。話が飛躍したからである。だが山本総理兼海相は至って冷静であった。1937年の内閣成立以来大日本帝国の重厚長大産業を育成し続け、1938年に工作機械製造事業法が制定して国産の高性能工作機械を製造しようとしていたが、それは未だに発展途上であった。その為に大英帝国から大量の工作機械を輸入する事になったが、そのお陰もあり大日本帝国に於ける全般的な工業力の底上げも行われていた。これにより各財閥の軍需企業では大量生産体制が構築され、併せて国産工作機械の性能も向上していった。工作機械の母性原理である、「加工される部品の精度は、その部品を加工する工作機械の精度によって決まる」という特性により、大日本帝国の加工精度は確かに向上していたが未だに航空機や戦車等の兵器生産に於いては、大英帝国から輸入した工作機械に頼るしか無かった。
ある意味で大英帝国から輸入した工作機械を使い、大日本帝国での大量生産が維持されているのでその生産品を大英帝国に貸与するのは、等価交換としても理想的な形になった。そして航空機のみならず様々な軍需物資を貸与するからこそ、油田開発や植民地放棄の対価も引き出せると山本総理兼海相は語ったのである。
山本総理兼海相の案に賀屋大蔵大臣もこの際大盤振る舞いするのも良いかもしれない、として賛成した。今更追加予算である臨時軍事費が増大した所で、正味な話程度問題であり大日本帝国経済を持ち堪えさせるのが大蔵省の役目だと宣言した。それを受けて山本総理兼海相は決を取る事にし、今回の提案に賛成かどうか尋ねた。そして全員が山本総理兼海相の案に賛成し、大英帝国とイタリア王国に大規模な軍事援助を低金利の後払いか、相応の対価を求めるという事にし、正式に閣議決定する事にしたのである。