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新型機視察

1942年4月30日。アラビア半島打通作戦は順調に推移しており、石原莞爾中将率いる第1方面軍はサウジアラビアの首都リヤドを解放する事に成功していた。ペルシャ湾沿岸地域からもフランス・オランダ陸軍を叩き出し、一気にサウジアラビア東部地域までが解放されていた。首都リヤドに幽閉されていたサウジアラビア王家も解放する事に成功し、石原莞爾中将以下第1方面軍はサウジアラビア王家から勲章を授与された。

このようにアラビア半島打通作戦が順調に進行していた中で、山本総理兼海相は兵庫県加西郡九会村・下里村にある鶉野飛行場に訪れていた。鶉野飛行場は川西航空機の姫路製作所組立工場の専用飛行場として建設されたが、姫路海軍航空隊や筑波海軍航空隊分遣隊が駐留し訓練基地にもなっていた。その鶉野飛行場に山本総理兼海相は輸送機で降り立ったが、訪れた目的は川西航空機が開発した新型機である『局地戦闘機紫電』の視察であった。川西航空機は空母艦載機である陣風艦上戦闘機も設計生産を行っていたが、今回は更に局地戦闘機を設計開発していたのである。三菱重工がジェット戦闘機烈風の開発に注力していた間に、川西航空機はレシプロ機技術の集大成的に局地戦闘機紫電を開発していたのである。

鶉野飛行場に降り立った山本総理兼海相は、離陸準備を行っている局地戦闘機紫電に歩み寄った。山本総理兼海相に付いてきていた海軍航空本部本部長は、局地戦闘機紫電の姿に圧倒されていた。陣風艦上戦闘機とそこまで見た目が変わった訳では無いが、何か存在感を与える雰囲気があったのである。山本総理兼海相は局地戦闘機紫電の開発責任者に尋ねた。開発責任者は山本総理兼海相に局地戦闘機紫電の概要を説明した。

海軍航空隊向けであり陸上機として開発された紫電は、大型爆撃機の迎撃を主任務とするに要求される局地戦闘機として、現時点での理想形とも呼べる能力を有していた。局地戦闘機に必要な性能は、爆撃機が飛行している高度に短時間で到達する上昇力、敵爆撃機に追い付く速力、そして一瞬の好機に敵爆撃機へ致命傷を与え得る火力、この三つであった。その能力全てが高い次元で与えられたのが、局地戦闘機紫電である。まず第1の特徴として層流翼の採用があった。境界層流と呼ばれる機体表面近傍の流れは層流境界層と乱流境界層の2種類に分けられ、表面摩擦抵抗は前者の方が小さい事が知られていた。これを翼型の設計に応用し乱流への遷移を遅らせて層流域の拡大をはかったのが層流翼型である。翼根翼厚を厚めに取って、強度と軽量化を両立させつつ、燃料や武装、降着装置の収容スペースを確保している。ただし、層流翼は表面の平滑さに敏感で、塗膜の気泡や昆虫の衝突による付着物でも後方三角形状に層流が崩れ、乱流の範囲が広がって摩擦抵抗が増えてしまう。その為に狙った程の効果はなかったとする見方もあるが、海軍航空本部による検証ではそれなりの効果があったとされた。層流翼にはもうひとつの利点があり、旧来翼型に比べ臨界マッハ数が高く、より高速な急降下が可能で、高速戦闘機としての使い勝手が向上するものであった。第2の特徴は冷却であり、機体下部・主翼付近にラジエーターダクトを搭載し、機体の空気抵抗低下と冷却効率の両立を図っていた。そして第3の特徴は生産性であった。設計段階から生産効率を考慮し機体は大きく5分割して製造し、最終工程で結合するという、鈴木商店が考案した艦船建造に於ける連続部分建造を採用。工場では自動車の生産手法を取り入れた工程により製造期間を短縮した。紫電の水平安定板は左右一体に造られ、昇降舵を左右共通にすることで、生産性の向上が図られた。また胴体への固定は垂直安定板で挟み込む独特の方式を採用。さらに、垂直安定板は、エンジントルクに対処するため、機体の中心軸より1度オフセットされていた。

開発責任者の説明が終わると、いよいよ紫電の試験飛行が行われる事になった。山本総理兼海相は川西航空機の陣風艦上戦闘機に次ぐ、新型機の性能を確かめる時が遂に来たと喜んでいた。三菱重工がジェット戦闘機烈風の開発に注力していた為に、局地戦闘機開発を川西航空機に依頼したのは山本総理兼海相本人であった。その為に万感の思いで、紫電を見ていたのである。滑走路へと進んだ局地戦闘機紫電は見事な加速を見せると、大空へ飛び立った。そしてとてつもない加速を行うと、みるみる高度を上げたのだ。驚く山本総理兼海相に開発責任者は、局地戦闘機紫電の最大速度は755キロであり上昇速度は高度6000メートルまで4分15秒、であると説明した。それを聞いた山本総理兼海相は更に驚いた。しかも機上レーダー及び自動消火装置を完備し、 エンジンは2000馬力を発揮する新型の三菱重工製排気タービン過給器エンジン『ハ43』を装備し、二重反転プロペラを装備している点は陣風艦上戦闘機と同じであった。そして更に驚くべきは機体には将来的な発展性を持たせており、新型エンジンが完成した暁には発展改良型として進化出来ると語ったのである。

驚く山本総理兼海相は空中に舞う紫電を見たが、格闘性能も良好であり素早い機動を見せていた。その高性能を見た山本総理兼海相は、即座に正式採用する事を決定し川西航空機に大量生産体制の構築を要請したのであった。

本文中でも少し話題になりましたが、この小説の世界線では三菱重工はジェット戦闘機烈風の開発に注力していた為に、局地戦闘機雷電は開発していません。その為にこの時点で川西航空機の紫電が登場する事になりました。史実での紫電の初飛行は1942年12月27日になります。ですかこの小説での先程の試験飛行は、先行量産型を用いた物になります。

史実での紫電の初飛行は伊丹飛行場で行われましたが、この小説では鶉野飛行場で行いました。それは単純に個人的理由で著者の住んでるのは姫路市ですが、職場が隣町の加西市であり通勤経路に鶉野飛行場がある為です。


それと史実なら今回の投稿した話の日付は第21回衆議院議員総選挙が行われた日ですが、この小説の世界線ではある理由により1カ月後に行われます。その理由等は、選挙の話を投稿した時に説明します。

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